第5話 どうする?子供の金融教育

資産形成プロジェクト

皆さんは金融教育を受けたことがありますか? 家庭内で親や子供とお金について話し合ったことはありますか?
日本では、学生時代に金融教育を受けた経験がある人はほとんどおらず、家庭で親から学んだ人もかなり珍しいのではないでしょうか。

僕の場合、20代の頃に会社(もしかすると組合主催だったかも)でライフプランシートを作成したことと、確定拠出年金が導入された際に制度の説明を受けた程度でした。
お金について学べば学ぶほど、「もっと若い時に知りたかったな」と思うことが増えました。
今回は、僕が実践した家庭での金融教育についてご紹介します。家庭での金融教育について考えるきっかけになったら嬉しいです。


第5話 家庭内金融教育にトライする

保険の解約について仁花の同意をすんなり得られなかった場合に備え、お金の勉強と並行して密かに準備していたものがあった。
それは、50枚以上のスライドに及ぶプレゼン資料である。

この資料には、飛雄がこの1カ月で学んだこと、これまでのお金の使い方の自己評価、現在の家計の詳細、そして今後の方針がまとめられていた。
通信費の見直しには子供たちの同意も必要だったため、正月に冴子が帰省したタイミングで話す予定だった。
「せっかくなら、これを子供たちの金融リテラシー向上の機会にできないか」と考えた飛雄は、仁花に相談を持ちかける。

「保険の解約、一緒に考えてくれてありがとう。他にも色々考えていて、資料にまとめたんだけど、説明を聞いてもらっていい?」

プレゼンを終え、方向性について仁花の同意を得た飛雄は、さらに提案する。

「これを子供たちにも話そうと思うんだけど、どうかな?」

基本的に、収入や資産額を他人に明かすのはNGとされている。特に日本では、家族間であってもタブー視されることが多い。
しかし、お金について学べば学ぶほど「もっと若い時に正しい知識を身につけておきたかった」という思いを強めた飛雄は、子供たちが将来お金のことで悩んだとき、身近に真剣に相談できる人がいる環境を整えたいと考えていた。

「いくら話しても、具体的な数字がないと説得力が弱いし、うちの子たちなら親のお金をあてにしてニートになることはないと思う。信じて話してみようか。忠にはもう少し危機感を持ってほしいし(笑)」

仁花もそう言って、賛同してくれたのだった。


家族全員での金融教育

年末、冴子の帰省により久しぶりに家族全員がそろった。
団らんの翌日、早速、子供たちに家計と貯蓄に関する方針を伝える。

「お金に関する力には、貯める力・増やす力・稼ぐ力・使う力・守る力の5つがあって……」

特に伝えたかったのは、

  • 若いうちに「今しかできない」と思うことにお金を使うのは全然問題ない。
  • ただし、それが自分の成長や将来の稼ぐ力につながるかどうかは、しっかり考えてほしい。
  • お金に関する疑問が出てきたら、まずは親に相談してほしい。

ということだった。

大学生や高校生になって、せっかくの正月休みに1時間以上も親の話を聞き続けてくれる。
それだけで「いい子に育ってくれたな」と幸せを感じる。

「これ以上は押し売りになる。今後は、相談してきたときに親身に応えよう」
飛雄はそう決意したのだった。

第5話 完


家庭での金融教育を考える

2022年から、高校での金融教育が必修化されました。
とはいえ、「一体誰が教えるのか?」という部分に今まで無知の極みだった僕としては大きな不安があります。
そのため、まだしばらくの間、家庭での金融教育を真剣に考え、実践していく必要があるのではないでしょうか。

僕の場合、子供たちはあと数年で社会に出る年齢なので、正直、スタートは遅すぎたと思います。
それでも、今からできることを精一杯やっていきたいなと思います。


子供に収入や資産を共有するか?

情報を共有するメリット・デメリットを整理すると、以下のようになります。

他人に共有する場合

デメリット

  • 収入や資産額の違いで人間関係が壊れる。
  • 情報が意図せず拡散する。
  • 詐欺やぼったくり営業のターゲットになる。

メリット

  • なし。

結論として、基本的に他人と共有するメリットはほぼないと言えるでしょう。


家族と共有する場合

パートナーとの共有は必須だと考えています。
我が家では、僕の方が収入が多いが、それは妻の支えがあってこそだと思っています。

では、子供と共有する場合はどうでしょうか?

デメリット

  • 友達に話してしまうリスクがある。
  • 収入が多いと感じた場合「親に頼ればいい」と甘えが生じる可能性がある。
  • 収入が少ないと感じた場合、卑屈になったり、極端に節約志向になったりする。

メリット

  • 社会に出る前に、将来の収入や生活設計の具体的なイメージが湧く。

収入や保有資産の情報のみの共有であればこんなところかと思います。これだとまだまだデメリットの方が大きいですよね。なので僕は次のような情報も共有しました。

  • 平均的な40代サラリーマンの年収(平均値・中央値)
  • 所得税・住民税・社会保険料について
  • 住宅ローンや金利の話
  • 投資の基本(単利・複利、アセットアロケーション、インデックス投資)
  • NISA・iDeCoの概要
  • 年金の仕組みとリスク

あまり難しさを感じさせると興味がなくなってしまうと思ったので、あえてさらっと説明しましたが、こういったお金に関する言葉を知るだけでも価値はあると信じてのことです。

もちろんもっと小さな頃からゆっくりとこういった言葉に触れてもらう方が理想だと思いますが、時間を巻き戻すことはできません。大学生・高校生であれば理解可能と思える範囲で、親としての反省も含めて伝えてみました。

出典:「株式投資の未来〜永続する会社が本当の利益をもたらす」ジェレミー・シーゲル著(日経BP)より引用

 これを見せて子供達にこう聞いてみました。

「貯金しておけば1$は1$なのに、なんで米ドルは下がっていると思う?」

「ものの価値が上がったから?」

忠が即答したときは感動しましたね。僕の高校時代よりリテラシー高いんじゃね?と思いながら、インフレとデフレについて追加で解説しておきました。

これらの内容をざっくりでも理解できれば、次のようなメリットも生まれると思います。

 ・自分が得られる将来の収入のより具体的なイメージ

 ・保険の目的と必要性の正しい理解

 ・(日本人特有の)投資に対する忌避かんの緩和

 ・公的制度に対する理解

そして、子供達が将来お金に困らない生活環境を整えられれば、親が子供の借金を肩代わりさせられる、なんて事態も予防できるでしょう(笑)


まとめ

僕は「子供に収入や資産状況を共有した方が効果が高い」と考え、実践しました。
ただし、それは「もっと早く伝えたかった」という後悔をともなう次善の策でもありました。

子供の年齢や家庭の状況によって、伝える内容は変わってきます。
しかし、どんな形であれ、金融教育は必要不可欠だと僕は思います。
「お金について考えること」そして「子供にどう伝えていくかを考えること」——これが一番大切なのではないでしょうか。

これからも皆さんと一緒に考えていけたらなと思います。

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