投資で損をした年に、税金を払いすぎたままにしていませんか?
損益通算・繰越控除という言葉自体は、聞いたことがあると思います。
ただ、「自分の場合、確定申告は必要なのか」「何年持ち越せて、いつ何をすればいいのか」まで即答できる人は多くありません。
取り戻せる権利には期限があり、自動では発動しないにもかかわらず、です。
この記事を読み終えれば、その全部に自分で答えられるようになります。
先に結論から言います。
利益が出ている年、この記事の出番はありません。損益通算も繰越控除も、「損失を確定させた年」にだけ発動する制度です。損切りした年、暴落で泣く泣く売った年──その年に正しく確定申告するかどうかで、取り戻せる税金が数万円単位で変わります。
仕組みは2段構えです。
今年の損は今年の利益とぶつける(損益通算)。
ぶつけ切れなかった分は3年先まで持ち越す(繰越控除)。
順に整理します。
ちなみに僕自身は、この制度をほぼ使ったことがありません。その理由は、記事の最後に書きます。
損益通算とは──「損した年」にだけ発動する制度
損益通算は、同じ年の利益と損失を相殺して、税金の計算をやり直す仕組みです。
- A証券で投資信託を売却して+50万円の利益。税金約10万円が引かれ、手取りは約40万円
- B証券で株を損切りして−30万円の損失
このまま何もしなければ、利益50万円に対する税金約10万円を払って終わりです。
でも実際の儲けは、差し引き20万円しかありません。
👉 損益通算すれば、課税対象は50万円→20万円。払いすぎた約6万円が戻ります。
ここで大事な前提が1つ。
対象になるのは確定した損失だけです。
含み損のまま持っている株は、いくら値下がりしていても通算できません。
「税金のために売るべきか」はまた別の判断ですが、売却の判断軸そのものは別記事で整理しています。
確定申告が必要になるのはどんなとき?──口座をまたぐときだけ
「そんな手続きした覚えがない」という人も、実は恩恵を受けているかもしれません。
👉 同じ特定口座(源泉徴収あり)の中では、損益通算は自動で行われています。
同一口座内の売却益と売却損は、証券会社が年内に自動で相殺し、税金を精算してくれます。
配当も「株式数比例配分方式」で受け取っていれば、年末に同じ口座内の売却損と自動通算されます。
確定申告は不要です。
自分で動く必要があるのは、次の場合分けに当てはまるときだけです。
- 複数の証券会社に口座がある:A証券の利益とB証券の損失は、確定申告しないとぶつかりません(冒頭の例がこれです)
- 配当を売却損とぶつけたい:配当を申告分離課税で申告すると損益通算できます。配当の課税方式の選び方は「配当控除は使うべきか?」で整理しています
- 損失を来年以降に持ち越したい:次の繰越控除の話です。これは自動では絶対に発動しません
なお、同じ証券会社の中でも、NISA口座は特定口座とは別の口座です。
「同じ会社だから全部まとめて自動通算」とはなりません。
そもそもNISAの損失は通算の対象外です(詳しくは次の一覧で)。
逆に言えば、課税口座が特定口座(源泉あり)1つで、損失を持ち越すほどの損が出ていない年は、何もしなくて正解です。
損益通算できるもの・できないもの一覧
損益通算は「損なら何でもぶつけられる」制度ではありません。上場株式等というグループの中だけで完結します。
| 対象 | 株・投信の売却損と通算 |
|---|---|
| 上場株式・ETF・REITの売却損益 | できる |
| 投資信託の売却損益 | できる |
| 配当・分配金(申告分離課税を選択) | できる |
| FX・先物の損益 | できない(別グループで独自に通算・繰越) |
| 暗号資産の損失 | できない(総合課税の雑所得・繰越も不可) |
| 給与所得 | できない |
| NISA口座の損失 | できない(そもそも損失がなかった扱い) |
注意したいのが下の3行です。
FXには独自の通算・3年繰越の仕組みがありますが、株とは別グループなので互いにぶつけられません。暗号資産の損失に至っては、現状は通算も繰越もできず、その年で消えます。
なお暗号資産は、2026年の税制改正大綱で20%の申告分離課税に移行する方針が示されました(施行は2028年見込み)。ただしその場合でも、損益通算は暗号資産同士に限られ、株式とはぶつけられない見込みです。
👉 そしてNISA口座の損失は、税制上「存在しない」扱いです。
NISAは利益が非課税になる代わりに、損失も認識されません。
課税口座の利益とぶつけることも、繰り越すこともできない。
非課税の恩恵と表裏一体のルールです。
繰越控除とは──引き切れない損失を3年持ち越す
暴落の年は、その年の利益だけでは損失を吸収し切れないことがあります。そこで2段目の繰越控除です。
👉 通算し切れなかった損失は、翌年以降3年間、利益とぶつけ続けられます。
2026年に100万円の損失を確定させた場合で見てみます。
| 年 | 損益 | 繰越損失との相殺 | 課税される利益 |
|---|---|---|---|
| 2026年 | −100万円 | (損失確定・申告) | 0円 |
| 2027年 | +40万円 | −100万円のうち40万円と相殺 | 0円 |
| 2028年 | +80万円 | 残り60万円と相殺 | 20万円のみ |
2027年の利益40万円には本来約8万円の税金がかかりますが、繰越損失と相殺すればゼロ。2028年も、80万円のうち課税されるのは20万円だけです。
100万円の損失は取り返せません。
でも、その損失を申告しておくだけで、向こう3年の利益約100万円分が非課税になる。
損した年にできる、数少ない合理的な後始末です。
繰越控除は「毎年申告」が命──取引ゼロの年も出す
ただし、この3年ルールには落とし穴があります。繰越控除を使うには、損失を出した年から連続して、毎年確定申告を続ける必要があるのです。
- 2026年:損失100万円を確定申告 → 繰越スタート
- 2027年:取引が1回もなくても、繰越を継続する申告を出す
- 2028年:利益が出た年に、繰り越した損失と相殺
👉 1年でも申告が抜けると、その時点で繰越の権利は消滅します。
「今年は取引してないから申告不要」と思って飛ばした1年が、残り数十万円分の繰越損失を消す。これが繰越控除で一番多い失敗です。
対策はシンプルで、損失を申告した年から3年間は、確定申告を毎年の固定行事にすること。2回目以降は前年の申告書の写しがあるので、作業は初回よりずっと軽くなります。
繰越控除で税金ゼロでも扶養から外れる──「合計所得金額」の落とし穴
最後に、税金の計算だけ見ていると気づけない副作用の話です。
配偶者の扶養に入っている人が、繰り越した損失と今年の利益を相殺して、税金をゼロにしたとします。
税金だけ見れば大成功です。
ところが──
👉 扶養の判定に使う「合計所得金額」は、繰越控除を適用する前の金額で計算されます。
つまり、繰越控除で課税がゼロになっても、判定上は今年の利益がまるまる所得として乗ります。
合計所得金額が48万円を超えると、配偶者控除や扶養から外れる。
「税金ゼロなのに扶養だけ外れる」という逆転が、制度の仕様として起こり得るわけです。
一方、国民健康保険料の計算に使う「総所得金額等」は、繰越控除を適用した後の金額です。同じ「所得」でも、扶養は控除前・国保は控除後と、判定基準が割れています(国税庁の用語定義で明記されています)。
場合分けすると、こうなります。
- 会社員(社会保険・扶養なし):株・投信の利益は申告分離課税なので、申告しても給与にかかる累進税率は変わりません。ただし合計所得金額は増えるため、利益が大きい年は配偶者控除の本人所得制限(900万円超で縮小)や住宅ローン控除の所得要件(2,000万円以下)に触れないかだけ確認を
- 配偶者の扶養に入っている人:相殺後ではなく相殺前の利益額で扶養判定される前提で、申告するかを決める
- 国保加入者:損益通算・繰越控除は保険料も下げる方向に効きますが、申告した利益・配当が保険料算定に乗る構造は配当の申告と同じです
税金・扶養・保険料の3つをセットで見る。この視点は配当側の申告でも同じ構造なので、あわせて読むと1本の線になります。
→ 配当控除は使うべきか?総合課税・申告不要・申告分離の選び方
まとめ:損した年にやることは3つだけ
損益通算と繰越控除は、次の3ステップで使い切れます。
- 同じ口座内は自動──特定口座(源泉あり)1つで完結しているなら、何もしなくていい
- 口座をまたぐ損益・配当との相殺は確定申告──複数口座の利益と損失、申告分離課税の配当をぶつける
- 引き切れない損失は3年繰越──ただし取引ゼロの年も含めて、毎年連続で申告し続ける
そして扶養に入っている人だけ、申告前に「繰越控除前の利益額」で扶養判定される点を確認する。
覚えて帰ってほしいことは1つだけです。
👉 この制度の発動条件は「損失を確定させた年」。その年だけ、確定申告があなたの仕事になります。
利益が出ている年は忘れていて構いません。でも損切りした年、暴落で売った年に思い出せれば、その損失は向こう3年の税金を軽くする資産に変わります。
最後に──この制度の出番がない投資が、いちばん合理的です
最後に、僕自身がこの制度をほぼ使ったことがない理由です。
僕の投資は、低コストのインデックスファンドを買って、持ち続けるだけ。
売らないから、損失が確定しない。損失が確定しないから、損益通算も繰越控除も出番がない。確定申告と無縁のまま、資産形成が進んでいきます。
👉 税金の知識で取り戻せるのは数万円。でも「損切りしなくていい投資」を選べば、この記事ごと不要になります。
「NISAは損益通算できないのがデメリット」という解説を見かけますが、僕はこれを売る側の理論だと考えています。損益通算が惜しくなるのは、損切り前提の売買を持ち込むからです。
順番が逆で、NISAでは損益通算なんて考えなくていいもの──長期で持ち続けられる低コストのインデックスファンド──に投資すればいいだけ。そうすれば「通算できない」は、デメリットとして一度も発動しません。
損益通算を調べているということは、個別株やアクティブな売買で損失が出た(出そうな)状況かもしれません。制度で後始末をしたら、次は「そもそも損切りに追われない投資の順番」を一度見てみてください。
→ 投資は「順番」で9割決まる|初心者が最初にやるべき5つの思考
税金の全体地図(課税方式・配当控除・外国税額控除まで)は親記事で整理しています。
→ 投資と税金の全体像|損益通算・繰越控除・外国税額控除まで
📚 「後始末のいらない設計」を人生全体に広げたくなる1冊
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この記事の締めで書いた「制度の出番がない投資がいちばん合理的」という考え方を、投資だけでなく人生設計全体に広げてくれる1冊です。
コスパ・タイパに続く「リスパ(リスク・パフォーマンス)」という物差しで、何に手間をかけ、何を仕組みに任せるかの線引きが明確になります。僕自身、損得の後始末に時間を使うより「後始末が発生しない設計」に寄せる今のスタイルは、この本の影響が大きいです。
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
