ボーナス、退職金、保険の満期、相続。
投資を続けていると、何年かに一度「まとまったお金」が手元に来る瞬間があります。
そのとき必ず迷うのがこれです。
すぐ全額入れるか(一括)。それとも毎月少しずつ入れるか(分割)。
以前、この比較を直近2年の実データで検証しました。結果は一括の圧勝。
ただ、あの検証には弱点が残っていました。2024年も2025年も、上げ相場だったことです。
上げ相場で一括が勝つのは当たり前です。知りたいのは、暴落の年も円高の年も含めた、長い時間での答えのはずです。
今回は、戦後77年分で検証します。
1949年から2026年まで、投資を始める月を1ヶ月ずつずらした916通りで、一括と分割のどちらが勝ったかを数えました。
このシリーズの前提として、円建てで検証しています。
先に核心だけ言います。
一括の勝ちは916通り中648通り、約7割でした。
そして負けた3割を調べると、分割というやり方が何にお金を払って、何を買っているのかがはっきり見えました。
- 一括投資と分割投資のどちらが勝ったか、S&P500円建て・戦後77年・916通りの開始月で数えた結果
- 一括の勝率は約7割。しかも分割の期間を延ばすほど差が開いていたこと
- 負けた3割から見えた、分割投資が「保険」として買っているものの正体
検証のやり方|一括投資と分割投資の比べ方はルール3つだけ
比べ方はシンプルです。
- 一括:最初の月に全額を入れる
- 分割:同じ額を12等分して、毎月1回・12ヶ月かけて入れる。まだ入れていないぶんは現金のまま待たせる(利息ゼロ)
- 判定:12ヶ月後(分割を入れ終わった時点)の資産が多かったほうの勝ち
対象はS&P500(配当再投資)を円換算したもの。開始月を1949年4月から1ヶ月ずつずらして、916通りの「勝負」を数えます。
「12分割」を主役にしたのは、まとまったお金を前にした人が実際に選びやすい「1年かけて入れる」に一番近いからです。6ヶ月・24ヶ月・36ヶ月に変えた場合も後で見ます。
なお、この勝敗は分割を入れ終わった瞬間に確定します。
12ヶ月後には、一括の人も分割の人も「全額が同じ指数に入っている」状態で、違うのはそれまでに買えた口数だけだからです。
口数の差はその後どれだけ時間が経っても変わらないので、1年後に勝っていたほうが、5年後も10年後も勝ったままです。
税金・売買コスト・信託報酬は引いていません。細かい前提は記事末尾の「検証の前提」にまとめます。
結果|一括投資の勝率は約7割。分割を長くするほど差は開いた
結果です。

| 分割のしかた | 一括が勝った回数 | 一括の勝率 |
|---|---|---|
| 6ヶ月に分割 | 922通り中 636通り | 69.0% |
| 12ヶ月に分割 | 916通り中 648通り | 70.7% |
| 24ヶ月に分割 | 904通り中 678通り | 75.0% |
| 36ヶ月に分割 | 892通り中 700通り | 78.5% |
👉 どの分け方でも一括が約7割勝ち。しかも、ゆっくり入れるほど一括との差は開いていました。
理由は難しくありません。株式市場は、上がった月のほうが下がった月より多かった。
分割している間、まだ入れていないお金は市場の外で待っています。
市場の外で待つ時間が長いほど、上昇に乗り損ねる時間も長い。それだけの話です。
差の大きさも見ておきます。12分割の場合、一括が勝ったときの差は中央値で約5%。
300万円を入れる場面なら、1年後におよそ15万円の差です。
入れ方を変えただけで、これだけ違いました。
ここで疑問が湧くはずです。「時間をかけて入れるほど安全」という、あの直感は何だったのか。
勝率という物差しで測るかぎり、時間をかけた側が負ける割合はむしろ増えていました。
ただ、この直感が間違いだと言いたいのではありません。この直感が守ろうとしているものは、勝率ではないからです。
それが見えるのが、負けた3割の中身です。
一括投資が負けた3割で、何が起きていたか
916通りぜんぶの「1年後の資産」を、散らばりごと並べたのがこの図です。元本を100とします。

| 1年後の資産(元本100) | 一括 | 12分割 |
|---|---|---|
| 真ん中(中央値) | 112 | 107 |
| 恵まれた年(上位5%) | 145 | 124 |
| 厳しい年(下位5%) | 81 | 88 |
| 最悪の年 | 49 | 62 |
真ん中も、上振れも、一括が上です。ここまでは勝率のとおり。
見てほしいのは一番下の行です。
916通りで最悪だった年、一括は資産が半分になりました。
同じ年、12分割は62で耐えていました。
その最悪の年が、2007年12月に始めた場合です。

2007年12月といえば、リーマン・ショックの9ヶ月前。
ここで全額を入れた一括は、下落の全部を最初から浴びました。
一方の12分割は、下がっていく途中——つまり安くなっていく途中——でも淡々と買い続けた。
この差が、1年後の49対62です。
注意しなければならないのは、この62が「下がっていく最中も、予定どおり毎月買い続けた人」の数字だということです。
一括投資に覚悟と胆力が必要なことは、なんとなくイメージできると思います。でも分割投資にも、「暴落が来ても買い続ける」という覚悟と胆力が必要です。
暴落のニュースの中で残りの資金を入れ続けられなければ、この62には届きません。分割なら自動的に安心、というわけではないのです。
👉 分割が買っているのは、勝率でも期待値でもなく、「最悪の年のクッション」でした。
つまり分割投資は「保険」だった
ここまでの数字を1つにまとめると、分割の正体はこう言えます。
ふだんの年の伸び(中央値112→107)を保険料として払い、暴落の直前に全額を入れてしまう最悪ケース(49→62)を和らげる保険。
保険だと分かれば、問いの立て方が変わります。
「一括と分割、どっちが得か」ではなく、「この保険料を払う価値が、自分にあるか」です。
- 資産が半分になっても持ち続けられるなら、保険は要りません。過去の勝率7割・中央値5%のぶん、一括が合理的でした
- 資産が半分になったら怖くなって売ってしまいそうなら、保険料を払う価値があります。49まで沈んで手放した人より、62で踏みとどまって持ち続けた人のほうが、その後の回復を全部受け取れるからです
そしてもう1つ、この判断の前に知っておきたい事実があります。
分割は、到着点を変えません。
12ヶ月かけて入れ終わった瞬間、あなたは一括で入れた人とまったく同じ「全額が株式」という状態に立っています。取っているリスクも同じです。
分割が変えられるのは到着点ではなく、そこへ向かう最初の1年の経路だけ。
つまり分割投資という選択は、その1年に下落相場が来ることへの賭けとも言えます。賭けが当たれば安く買えて、外れれば(=上げ相場なら)機会損失を払う。
7割・3割という勝率は、この賭けの過去の的中率です。
だから、「このお金は株式で持つ」と決め切れているなら、早く着くほうが理にかなっています。
決め切れていない——半分になったら売ってしまいそうだ——というときにだけ、経路をなだらかにする保険料に意味が出ます。
大事なのは、どちらを選んでも「入れる」こと自体はやめないことです。
一括の勝率7割も分割の勝率3割も、市場に入った人だけの数字です。タイミングを計って入り口で待ち続けた人は、この表のどこにもいません。
「下がったら買おう」が機能しない理由は別の記事で書いています。
分割投資の「何回に分けるか」に、正解の境目はない
分割を選ぶと決めたとき、次に来る問いはこれです。「じゃあ、何回に分ける?」
極端から考えると、この問いの正体が見えます。
100万円を100年に分けて入れる人はいません。機会損失が大きすぎると、計算しなくても分かるからです。
では50年なら? 10年なら? 3年なら? 1年なら?
縮めていっても、「ここから先は分割のほうが有利」と切り替わる境目は、過去のデータのどこにもありませんでした。
あるのは、図1で見たとおり「分ける期間を延ばすほど勝率が下がっていく坂道」だけです。
100年がダメで1年ならお得になる、という魔法の刻みは存在しません。
だから分割の期間は、損得で決めようとしても答えが出ません。
決め手にできるのは「自分が不安にならずに入れ続けられる長さ」——保険としてどこまで払うかという、自分側の事情だけです。
最後に、順番が逆に見えるかもしれない話を1つ。
毎月の給料から積み立てている人は、この記事の問いで悩む必要がそもそもありません。
毎月の積立は、「将来の収入」というまとまったお金を、受け取ったそばから入れていく行為です。
手元にまだ無いお金は一括で入れようがないので、毎月の積立は、選択の余地なく最速の入れ方になっています。悩む場面自体が存在しません。
この記事の問いが発生するのは、ボーナス・退職金・相続など、すでに手元にまとまったお金があるときだけ。
そしてその全額を投資に向ける前に、生活防衛資金の確保が先です。
この検証は「投資に回すと決めたお金」の入れ方の話で、生活費や近々使う予定のあるお金まで入れる話ではありません。
「一括投資の勝率7割」を、どこまで信じていいか
便利な数字ほど独り歩きするので、この検証で言えるのはここまで、という線を引いておきます。
- S&P500を使ったのは、月次で長期のデータがあるからです。S&P500を推奨する話ではなく、米国株の過去が例外的に恵まれていた可能性は消せません
- 待機資金の利息はゼロで計算しています。定期預金などに置けば分割側の成績はそのぶん良くなりますが、勝率の構図を引っくり返すほどの金利は過去にありませんでした
- 税金・売買コスト・信託報酬を引いていません
- 「勝率7割」は将来の確率ではありません。916通りの過去にそうだった、という記録です。この先の1年が残り3割側にならない保証はどこにもありません
まとめ|一括投資と分割投資、「どっちが勝ったか」と「どっちを選ぶか」は別の問い
過去はこうでした。
- 一括は916通り中648通り、約7割勝った。分割を長くするほど差は開いた(36分割で78.5%)
- 分割が買っていたのは最悪の年のクッション。リーマン直前に始めた最悪の1通りで、一括49に対して分割62
- 分割は損得の道具ではなく保険。そして入れ終われば一括と同じ場所に立つ——変えられるのは到着までの経路だけ
- 「何回に分けるか」に損得の境目はない。決め手は自分が続けられる長さだけ
- 毎月の積立をしている人は、すでに最速の入れ方を選べている
「どっちが勝ったか」はデータが答えを出しました。
「どっちを選ぶか」は、あなたの続けやすさが答えを出します。
どちらを選んでも、入れて、持ち続けた人が、この77年の勝者でした。
なぜ理屈のうえでも一括が合理的なのか(期待値の考え方)はこちらの記事で、直近2年の実際の基準価額でどうだったかはこちらで書いています。
- データ:Robert Shiller公開のS&P500月次データ(配当再投資)を円換算(ドル円はBIS国際決済銀行の月中平均 1957年〜。1949年4月〜1956年は固定相場の360円。日銀の月中平均とクロス検証済み)
- 期間:1949年4月〜2026年7月。開始月を1ヶ月ずつずらした勝負916通り(12分割の場合)
- 方法:一括=初月に全額/分割=毎月1/Nずつ・待機分は現金(利息ゼロ)。判定=分割完了時点の資産額(円・名目)。同じ時点どうしの比較のため、物価の調整は勝敗に影響しません
- 税・売買コスト・信託報酬は未考慮
- すべて過去の結果であり、将来の成果を約束するものではありません
関連記事
直近2年の実際の基準価額での一括vs分割。「毎月何日に買うか」問題もここで検証しています。

なぜ理屈のうえでも一括が合理的なのか。期待値の考え方から解説しています。

シリーズ2本目。「円建てで検証する」ことの中身——為替が変えるもの・変えないもの——はこちらです。

📚 “入れ方”の迷いを終わらせる1冊
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一括か分割かを一度決めても、まとまったお金が入るたびに同じ迷いは戻ってきます。
今回は分けたほうがいいんじゃないか、もう少し下がるまで待ったほうがいいんじゃないか。
この本は、その迷いに対して「とにかく買い続けることが最善」という結論を、膨大なデータで裏づけてくれる1冊です。
タイトルがそのまま結論という潔さで、入れ方の議論に区切りをつけてくれます。
そもそも僕がこの検証で確かめたかったのも、この本の結論が円建ての77年でも成り立つのかどうかでした。
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本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
