「NISAで売った枠が、その年のうちに戻るようになる」——そんな話を、耳にしませんでしたか。
もう決まった、と思っている人も多いようです。
違います。
2026年8月31日に金融庁が出した「要望」であって、決めるのは12月の与党税制改正大綱です。
しかもこの要望、去年も出して、通りませんでした。
先に結論を言います。
この変更で得をする人は、ごく一部の「売って乗り換えたい人」です。買って持ち続けている人には、何も起きません。
この記事では、要望の全体像を軽く押さえたうえで、「枠の当年復活」に絞って整理します。
- 2027年度の税制改正要望で、金融庁は何を出したのか
- 「枠が当年中に復活する」とは、正確には何が変わるのか
- 得をするのはだれで、あなたはどこに立っているのか
- 僕がこの変更を「要らない」と考える理由
👉 読み終わったら、あなたのNISAの設計は1ミリも変えなくていい。それを確認するための記事です。
金融庁の2027年度税制改正要望とは|NISAは「利便性向上」の1項目にすぎない
まず、位置付けから。
毎年8月末、各省庁は翌年度の税制について「こうしてほしい」という要望を財務省に出します。
それを12月に与党の税制調査会が審査して「税制改正大綱」にまとめ、翌年の国会で法律になります。
つまり8月の要望は、出発点であってゴールではありません。
この前提が抜け落ちると、「金融庁が発表した=決まった」という誤解が生まれてしまいます。
実際、ネット上には「2027年1月から適用決定」と書いた記事が流れていますが、公式にはどこにもそんな記述はありません。
金融庁の2027年度(令和9年度)要望は、3本柱です。
| 柱 | 主な項目 | あなたへの関係 |
|---|---|---|
| 「資産運用立国」の推進 | NISAの利便性向上(非課税保有限度額の当年中復活/つみたて投資枠のETF要件整備) | 本記事の主題 |
| 「資産運用立国」の推進 | 金融所得課税の一体化(デリバティブ・預貯金まで損益通算を拡大) | インデックス投資には直接関係なし |
| 「資産運用立国」の推進 | 銀行の投資専門子会社による中小企業出資の特例 | 個人には関係なし |
| 子育て世帯への支援 | 生命保険料控除の2万円上乗せ(23歳未満の扶養親族がいる場合)の恒久化 | 該当世帯なら年数千円の減税 |
| 金融イノベーションの推進 | 信託型ステーブルコインに関する調書の免除 | 個人には関係なし |
その他の項目として、死亡保険金の相続税非課税枠の引き上げや、結婚・子育て資金一括贈与の非課税措置の廃止なども並んでいます。
去年の要望と見比べると、今年の主役は「落ちた1本」
去年(2026年度向け)の金融庁のNISA要望は3点でした。
- つみたて投資枠の対象年齢の見直し(こども支援)
- 対象商品の拡充
- 投資商品の入替をしやすくするための、非課税保有限度額の当年中の復活
1は「こどもNISA」として2027年1月開始が決まりました。
2は、つみたて投資枠に債券中心の投資信託を追加する形で実現しています。
そして3だけが、大綱に載りませんでした。
→ こどもNISAとは|いつから始まる?2027年開始と引き出し制限の落とし穴
今年の金融庁の資料には、この項目にはっきり【継続要望】と書いてあります。
新しい話ではなく、去年落ちた1本の再挑戦です。
「去年落ちて今年も出した」のはNISAだけではありません。
生命保険料控除の恒久化も去年は「1年延長」止まり、金融所得課税の一体化は毎年「総合的に検討」と返されている常連です。
👉 8月の要望は「金融庁の願い」であって、制度ではない。とくに今年のNISA要望は、去年一度断られている。
NISAの「枠の当年復活」とは何が変わるのか|戻るのは簿価、年間360万円は増えない
では、その「当年中の復活」の中身です。
現行の仕組みを正確に言うと、法律には「売ったら枠が復活する」という条文はありません。
あるのは、生涯の非課税保有限度額1,800万円を判定する基準日が「前年の12月31日」だ、という定めです。
年の途中で売っても、その年の判定は前年末の残高で固定されています。
だから売った分の余裕は、翌年1月1日に基準日が切り替わって初めて生まれる。
これが「枠は翌年に復活する」の正体です。
翌年復活のルールそのものは、NISAの急所として別記事で整理しています。
→ 新NISAとは何か|覚える数字は3つ、急所は1つ。あとは忘れていい
今回の要望は、この判定に「当年中の売却」も反映させてほしい、というものです。
変わるのはそこだけです。
変わらないものを3つ、先に固定しておきます。
- 年間投資枠は360万円のまま(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)。当年に枠が戻っても、その年に投資できる上限は変わらない
- 戻るのは買ったときの金額(簿価)だけ。100万円で買って150万円で売っても、戻るのは100万円分。含み益の50万円分は非課税の箱から押し出される
- 損失は「なかったこと」のまま。NISAで損をしても課税口座の利益とは相殺できない

だから、SNSで見かける次の3つは全部誤りです。
- 「2027年から適用が決まった」→ まだ要望。決まるのは12月、実施は早くても法改正の後
- 「年に360万円以上NISAで買えるようになる」→ 年間枠は不変。戻った分も360万円の内側でしか使えない
- 「売った金額がそのまま戻る」→ 戻るのは簿価。増えた分は戻らない
本質は「枠が増える改正」ではなく、「売った人が、同じ年にもう一度買えるようになる改正」です。
👉 変わるのは基準日だけ。あなたが年に投資できる金額も、非課税で持てる上限も、増えない。
NISA枠の当年復活で得するのはだれか|1,800万円を埋めて「入れ替えたい」人だけ
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
金融庁の要望資料には、こういう注記があります。
新NISA(令和6年に制度開始)の年間投資可能額が360万円以下となり得るのは令和11年以降だが、投資家の制度の予見可能性を高め、金融機関のシステム対応のため十分な期間を確保するためには今年度の改正が必要。
読み替えると、こうです。
この変更が意味を持つのは、生涯枠1,800万円を埋めた後だけ。
2024年から毎年360万円を入れ続けた人でも、埋まるのは2028年末で、効き始めるのは2029年(令和11年)以降。
もっと具体的に言えば、前年末の簿価残高が1,440万円を超えている人だけが対象です。
そこに届いていなければ、現行制度でも年間360万円はまるごと使えるので、基準日がいつだろうと関係ありません。

では、1,800万円を埋めた後はどうか。
4通りに分けます。
| あなたの状態 | この変更の意味 |
|---|---|
| ① まだ1,800万円を埋めていない | 無関係。年間360万円は今でも毎年使える |
| ② 埋めたが、売らずに持ち続ける | 無関係。売らない人に基準日は関係ない |
| ③ 埋めた後、住宅や教育で一部を売り、同じ年にまた入金の余力ができた | 唯一の実利。売った簿価分を同じ年に戻せる。ただし年間360万円の範囲内 |
| ④ 埋めた後、持っている商品を別の商品に「入れ替えたい」 | 要望の本命。金融庁の要望理由も、まさにこれ |

③は狭い例外です。
たとえば1,800万円を埋めた人が、4月に300万円分を売って頭金に充て、その後に予期しない臨時収入があった。
現行なら翌年まで待ちますが、要望案なら同じ年に300万円分を非課税の箱に戻せます。
実利はあります。
ただしこの人は、売る必要があったから売っただけで、制度を使いたくて売ったわけではありません。
たまたまそうなったときに「この制度があってよかったね」と言える、というだけの話です。
取り崩し期の臨時収入を入れ直す使い方も同じで、次の取り崩しを減らせば済みます。
そして④。
「入れ替えたい」というのは、要するに売って別のものを買うことです。
金融庁は去年の要望で、この項目の目的を「投資商品を入替しやすくするため」と書いています。
ここは誤解しないでほしいのですが、④は「この変更の使い所」ではありません。
1,800万円を埋めた後に「入れ替えたい」が出てくる時点で、最初に選んだ商品が間違っていた、ということです。
制度の問題ではなく、設計の問題です。
だから僕は、きちんと設計できている人なら、1,800万円を埋めた後でもこの変更は要らないと考えています。
売って買い直すたびに、簿価で戻って時価で買う分だけ非課税の箱が縮む。
この目減りは、基準日をいつに変えても消えません。
👉 現行制度でちゃんと設計できている人には、この変更は全く意味がない。得をするのは、1,800万円を埋めたうえで「売って乗り換えたい」人だけです。
それでも僕は「この改正は要らない」と考える理由|成長投資枠と同じ構図
「関係ないなら、別にあってもいいのでは」と思うかもしれません。
僕はそう思いません。
理由は、金融庁自身の言葉にあります。
「投資商品の入替をしやすくするため」。
「長期・安定的な資産形成を支援する」と言ってNISAを恒久化した同じ役所が、「入替」を利便性と呼んでいます。
前例があります。
成長投資枠です。
成長投資枠は、つみたて投資枠より商品の自由度が高い、というだけの区分です。
それなのに「成長」という名前と自由度のせいで、「攻めた別の投資をする場所」と受け取られました。
日本証券業協会の調査では、成長投資枠でいちばん買われたのは投資信託ではなく日本の個別株で、2年連続で約48%。
2024年中に損益がマイナスだった人の割合は、つみたて投資枠の2.3%に対して成長投資枠は12.2%と、5倍以上でした。
制度が「自由」を足すと、人は動きます。
そして動いた人の成績が悪かった。
これが、成長投資枠が教えてくれた事実です。
→ NISAの成長投資枠は何を買うべき?つみたて投資枠との違いと正しい使い分け
今回の「当年中復活」は、同じ構図で、今度は「売りやすさ」を足す変更です。
持ち続けさせるための非課税の箱に、売って買い直すことを容易にする仕組みを付ける。
向いている方向が、制度の目的と逆です。
金融庁の言い分にも筋はあります。
制度は前もって決めておいた方が予見しやすいし、金融機関のシステム対応にも時間がかかる。
でも僕が反対する理由は手続きではなく、「この変更がだれの行動を変えるか」にあります。
売買の回数が多い個人投資家ほど成績が悪い、というのは行動ファイナンスの古典的な研究結果です。
だから僕はこう考えて、線を引きます。
本当に国民の資産形成をうまくいかせたいなら、この変更は要らない。
👉 成長投資枠は「買う自由」を足して売買を誘発した。当年中復活は「売る自由」を足す。同じ失敗を、逆側から繰り返す変更だと僕は見ています。
NISAで入れ替えが正しい場面は2つだけ|どちらも、枠が戻るかどうかとは関係ない
「入れ替え」そのものを否定しているわけではありません。
正しい場面は2つあります。
1つ目は、長期で持ち続けるべきでない商品を買ってしまっていると気付いたときです。
この場合は、制度改正があろうがなかろうが、入れ替えるべきです。
「枠がもったいないから翌年まで待つ」と考え始めた時点で、NISAを先に考える落とし穴に片足が入っています。
→ NISAをやらない理由、本当はNISAの話じゃない|「なくても投資する?」で分かる、やる人・やらないほうがいい人
2つ目は、今より明らかに良い商品が出たときです。
ただし、オルカンやS&P500の現行の低コストファンドに、後から出たファンドが迫れる可能性は著しく低いと僕は見ています。
同じ指数に連動する以上、差がつくのはコストだけで、純資産総額が大きいほど固定費は薄まり、先に巨大になったファンドが構造的に有利だからです。
金融庁や業界が「入替」で想定しているのは、おそらく高齢期に運用のリスクを下げる場面でしょう。
でも、リスクを下げたいなら非課税の箱の中身を売る必要はなく、運用資金の中の現金の比率を上げれば済みます。
山崎元さんも、年齢に合わせてポートフォリオまで老いさせる必要はない、という立場でした。
👉 入れ替えるべきなら、枠が戻るのを待たずに入れ替える。入れ替える理由がないなら、枠が戻っても入れ替えない。基準日は、どちらの判断にも関係がない。
NISA改正要望を出したのはだれか|業界団体の要望書と、営業マンの台詞
もうひとつ、知っておいてほしい事実があります。
去年の9月、日本証券業協会・投資信託協会・全国証券取引所協議会が連名で出した税制改正要望に、こう書いてあります。
投資商品の入替えをしやすくするために非課税保有限度額を当年中に復活すること等の措置を講ずること
金融庁の要望と、ほぼ同じ文言です。
同じ要望書には、NISA業務のシステム改修費が負担だとして「金融機関の負担軽減のための措置」も求められていました。
こちらは去年の大綱で、「つみたて投資枠の定期売却サービスに限り手数料を取ってよい」という形で一部実現しています。
このために制度が変えられようとしている、とまでは言いません。
言えるのは、「入替をしやすく」という要望を先に出したのは業界側で、金融庁がそれを採用した、という順番だけです。
ただ、僕が営業マンだったら、この変更はこう使うと思います。
「こちらの今話題のファンドがおすすめですよ。やっぱりこれからはAIがまだまだ伸びます。NISA枠も年内に復活するようになりましたし、損はありません」
実際はもっと柔らかい言い方でしょう。
でも骨格はこれです。
「枠が戻るから、乗り換えても損はない」という論法。
この「損はありません」を、分解します。
- 戻るのは簿価だけ。乗り換えた瞬間に、含み益の分だけ非課税の器が縮む
- 年間360万円は増えない。今年すでに360万円入れている人は、枠が戻っても今年は1円も買えない
- 乗り換え先のコストは一生払う。信託報酬0.1%の商品から1%台の商品に移れば、その差は毎年、複利で効く
つまり「損はない」のは、売る側の話です。
枠が当年に戻る話は、乗り換えの心理的なハードルを下げる道具として使われる。
そう考えておいた方が、身を守れます。
「AIがまだまだ伸びる」かどうかは、誰にも断言できません。
考えるべきなのは、「なぜ今、乗り換えの提案をされているのか」の方です。
毎月分配型の投資信託が9年ぶりに1兆円流入した背景も、商品が変わったのではなく売り方が変わったからでした。
→ 毎月分配型投資信託の”復権”|9年ぶり1兆円流入。変わったのは商品ではなく売り方だ
👉 「NISA枠が年内に戻りますし」という言葉が出た瞬間に、何に乗り換えさせたいのかを見る。制度の話ではなく、営業の話が始まっている。
NISA改正要望が通っても、あなたがやることは変わらない|売らない設計は、そのまま
最後に、あなたの設計に戻します。
この要望が12月の大綱に載っても、載らなくても、やることは同じです。
何もしない。
NISAの中で売る順番も、変わりません。
お金が必要になったら、まず新規の入金を止める。
次に課税口座を、含み益の小さいものから売る。
NISAの売却は、最後の手段のままです。
ひとつだけ、先回りして想定しておいてほしい場面があります。
暴落のときです。
枠が当年に戻るようになると、「今の商品を損切りして、別のものに乗り換える」ことが今より簡単になります。
翌年まで待つ必要がないので、下がった局面で動きたくなる気持ちに、制度がブレーキをかけなくなる。
この変更は、持ち続ける力を静かに削る装置にもなりえます。
だから、知識としては持っておく。
でも、使う前提では設計しない。
これが僕の線の引き方です。
👉 通っても、通らなくても、あなたの設計は変わらない。変わるのは「売る人」の話で、あなたは「持つ人」だからです。
▼ NISAの設計そのものを、一度で終わらせたい人へ

まとめ|NISA改正要望2027:得するのは「売る人」と「売らせる人」。持つ人は何も変わらない
- 2026年8月末の金融庁要望は「願い」であって制度ではない。「枠の当年中復活」は去年落ちた項目の再挑戦
- 変わるのは1,800万円の判定基準日だけ。年間360万円は増えず、戻るのは簿価分だけ
- 効くのは1,800万円を埋めて「売って乗り換えたい」人だけ。効き始めるのは早くても2029年
- 入れ替えるべき商品なら枠が戻るのを待たずに入れ替える。理由がないなら枠が戻っても入れ替えない
- 「入替をしやすく」という目的そのものが、持ち続けさせる制度の方向と逆。成長投資枠と同じ構図
👉 明日からやることは1つ。「NISA枠が年内に戻る」という言葉を聞いたら、制度の話ではなく営業の話が始まったと考える。あなたの設計は、そのままでいい。
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要望や改正のニュースが出るたびに、「自分も何かした方がいいのか」と落ち着かなくなる。
その正体は、自分の設計を一度も言葉にしていないことです。
この本を読むと、NISAを「最初に一度設計して、あとはほったらかす」箱として腹落ちさせられます。
僕自身、制度のニュースに反応しなくなったのは、この本の考え方を土台にしてからです。
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出典
- 金融庁「令和9(2027)年度 税制改正要望について」(2026年8月)
- 金融庁「令和8(2026)年度 税制改正要望について」(2025年8月)
- 金融庁「令和8(2026)年度税制改正について ―税制改正大綱における金融庁関係の主要項目―」(2025年12月)
- 日本証券業協会・投資信託協会・全国証券取引所協議会「令和8年度税制改正に関する要望」(2025年9月)
- 日本証券業協会「新NISA開始1年後の利用動向に関する調査結果(速報版)」(2025年2月)
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
