「平均ではなく逆算」シリーズもこれで3記事目、完結編です。
ここまでで、自分の数字を持つための2枚の地図が揃いました。
- 第1弾:将来から逆算する 年齢別の通過点(30代で1,000万円は本当に必要か)
- 第2弾:必要支出から引き算で決める 最終目標額(FIRE/老後ゆとり/老後最低の3パターン)
ゴールも通過点も決まりました。最後に残るのは、いちばん身近で、いちばん家計に直結する数字。
「結局、毎月いくら積み立てればいいのか?」
ここで多くの人が「月3万円が無難らしい」「手取りの20%が目安」といった相場フレーズに手を伸ばします。
気持ちは分かります。
でも、ここで他人の数字を採用してしまうと、シリーズで2記事かけて作った”自分の地図”が一気に他人の旅程に書き換えられてしまいます。
本記事の主張は1行で表せます。
「月いくら積むか」も、平均ではなく逆算で出す。
第2弾で出した最終目標額から、自分の月次入金力(毎月積み立てに回せる額)を逆算する3ステップを整理します。
読み終えると、3記事分の積立計画が手元に揃った状態になります。
「月3万円」「手取りの20%」は誰の数字なのか
「毎月いくら積み立てればいいですか?」という質問に、ネット記事や書籍はだいたい次のどちらかで答えます。
- 「月3万円から始めましょう」
- 「手取りの15〜20%を投資に回すのが目安です」
どちらも分かりやすい数字ですが、根拠が明示されていないのに、なんとなく自分に当てはめるのはやめておいたほうが無難 です。
「月3万円」も「手取りの20%」も、その数字が なぜ自分の家計にとって妥当なのか を説明できないまま採用してしまうと、毎月の積立は他人の処方箋を飲み続ける作業になります。
ここまでシリーズで繰り返してきた話をもう一度。
- 平均的な目標額が、自分の目標額とは限らない
- 平均的な年齢別資産が、自分の通過点とは限らない
- そして、平均的な月次積立額も、自分の歩幅とは限らない
毎月の積立額は、家計の中で最も「他人の数字を採用しやすい」項目です。
なにしろ、自分のゴール・通過点を知らなくても、なんとなく決められてしまう。
ゴールに届かない。通過点で焦ってしまう。そんなことがないように。
逆に貯めすぎに気づかず我慢だけの生活になってしまうことにもならないように。
ここで逆算の手綱を握り直す必要があります。
👉 月次入金力も、最終目標額から逆算で出す。
逆算で月次入金力を出す3ステップ
やることは、たった3ステップです。
Step 1:最終目標額と積立期間を置く
第2弾で決めた目標額を、そのまま使います。仮置きでも構いません。
- 例A:FIRE目標 7,500万円
- 例B:老後ゆとり 5,000万円
- 例C:老後最低 3,000万円
積立期間は「いま何歳か」と「いつまでに到達したいか」の差です。
- 35歳 → 65歳まで運用:30年
- 45歳 → 65歳まで運用:20年
- 50歳 → 65歳まで運用:15年
Step 2:想定利回り別に逆算する
積立投資の到達額は、利回りで大きく変わります。
同じ目標額・同じ期間でも、想定利回りが違えば必要月額は別物になります。
ここでは長期インデックス投資の現実的なレンジとして 年5%/年3%/年0% の3パターンを置きます(年5%=株式中心、年3%=バランス型・債券混合、年0%=預金・元本のみ)。
月次必要額は、複利での積立計算式(FV = PMT × (((1+r)^n − 1) / r))から逆算します。
Step 3:月次必要額を読む
組み合わせ別の早見表を出します(月額・千円単位)。
| 目標額 | 期間 | 年5% | 年3% | 年0%(預金のみ) |
|---|---|---|---|---|
| 3,000万円 | 30年 | 約3.6万 | 約5.2万 | 約8.3万 |
| 3,000万円 | 20年 | 約7.3万 | 約9.2万 | 約12.5万 |
| 3,000万円 | 15年 | 約11.2万 | 約13.2万 | 約16.7万 |
| 5,000万円 | 30年 | 約6.0万 | 約8.6万 | 約13.9万 |
| 5,000万円 | 20年 | 約12.2万 | 約15.3万 | 約20.8万 |
| 5,000万円 | 15年 | 約18.7万 | 約22.0万 | 約27.8万 |
| 7,500万円 | 30年 | 約9.0万 | 約12.9万 | 約20.8万 |
| 7,500万円 | 20年 | 約18.3万 | 約22.9万 | 約31.3万 |
この表で見るべきは、自分のゴール・自分の期間に対応する1マス だけです。
「他の人がどこを見ているか」は関係ありません。
ここでさらにシミュレーターを使えば、目標額・期間・利回りを自由に動かして必要月額を即時に確認できます。
出てきた月次額を、家計に組み込めるか
ここからが本番です。
逆算で出た月次必要額が、家計に素直に組み込めるなら、それで計画は完成です。
問題は、組み込めなかった場合。
表を見て「いやいや、月12万円なんて無理」と感じた人がほとんどではないでしょうか。
このとき、選べる手は3つです。
「現実離れしている」と感じた時の3つの選択肢
- 入金力を上げる(毎月の積立可能額を増やす)
- 期間を伸ばす(運用年数を増やす=目標到達時期を後ろにずらす)
- ゴールを下げる(最終目標額を見直す=第2弾に戻る)
僕のおすすめの順番は、入金力を上げる > 期間を伸ばす > ゴールを下げる です。
理由は単純です。
入金力アップは複利で効くから。
月1万円積立を増やせば、30年・年5%で約820万円の差になります。
一方、期間延長やゴール引き下げは、将来の生活水準そのものを譲る選択になります。
譲るのは、入金力で粘った最後で構いません。
僕自身は、実は順番が逆だった
正直に書きます。
僕自身は、このシリーズの3ステップとは違う順番で資産形成を始めました。
- ①固定費(保険)を見直して、毎月の入金力を先に固めた
- ②その入金力で、いきなり全力投資に踏み込んだ
- ③途中で資産が積み上がってきた時点で、ようやく「サイドFIRE」というゴールが見えてきた
つまり「ゴール → 月額」ではなく「月額 → 後追いでゴール」でした。
これには3つの背景があります。
- 資産形成に本気で取り組み始めたタイミングが遅かった(45歳以降)
- その時点で、保険解約で出た500万円を含む一定額の資産があった
- 確定拠出年金(DC)の運用経験で、長期投資への腹落ちが先にできていた
要するに、生活防衛資金フェーズを飛ばしても致命傷にならない環境 にいたから、入金力先決め型でも問題が起きなかったということ。
これは万人にお勧めできる順番ではありません。
ただし、この経験から1つ伝えたいことがあります。
年1回の戦略見直しで、保有資産+入金力からゴールを逆算し直すフェーズは、誰でも来ます。
最初に「ゴール → 月額」で決めたあとも、運用が進むにつれて「いまの保有資産と入金力なら、ゴールはもう少し前倒しできる/後ろにずらしてもいい」と再計算する瞬間が必ず訪れる。
そのときに、この3ステップの考え方が活きます。
最初に試算したときの僕の素直な感想は、「良かった。まだ間に合う」でした。
逆算は、不安を煽る道具ではなく、不安を解像度の高い数字に変えるための道具です。
入金力を上げる打ち手の優先順位
「入金力を上げる」と言っても、何から手をつけるかで結果は変わります。
優先順位はシンプルです。
倹約(固定費削減)> 節約(変動費削減)> 収入アップ
固定費を最優先する理由は、一度動かせば毎月効くから。
保険・通信費・サブスク・住居費といった固定費を月1万円下げれば、それは年12万円・30年で360万円の入金原資になります。
年5%運用に回せば30年で約820万円。
変動費(食費・娯楽)の節約は精神的負担に対して効果が薄く、続きません。
収入アップは、できるならやったほうがいい。
ただし、副業や転職には時間と認知リソースを大量に取られます。
先に固定費で確実な原資を作ってから、収入アップは長期戦で取り組む順番が現実的です。
この段階でやりがちな失敗3つ
入金力を上げるフェーズで、僕が周囲を見ていてよく目にする失敗を3つ挙げます。
- 生活防衛資金が不十分なまま投資に突っ込む:急な出費(家電の故障・医療費・転職)に対応できず、せっかくの長期投資を途中で取り崩すハメになる
- 投資に回しすぎて、車などの高額消費をローンで買う:ローン金利は確実なコスト、運用利回りは不確実なリターン。両者を並べたとき、ローンを組んで投資を続ける合理性はかなり限定的なのに、その不合理さに気づかないまま走り続ける人が多い
- 暴落時に売らざるを得ない経済状況に陥る:入金力の限界まで投資に振り、生活費の余白がない状態で暴落が来ると、「下がった資産を売って生活費に充てる」という最悪の手を打つことになる
この3つを避けるためには、入金力を上げる作業と並行して、生活防衛資金(6ヶ月〜1年分の生活費)を確保しておく ことが前提条件になります。
生活防衛資金の決め方はこちらで整理しています。

民間の医療保険・がん保険でリスクを抱え込みすぎていないかも、固定費の見直しと一緒にチェックしておく価値があります。
結論|あなたの”歩幅”の決め方
3記事を通して、自分の数字を持つための地図が揃いました。
- 第1弾:通過点(年齢別の自分のマイルストーン)
- 第2弾:ゴール(必要支出から引き算した最終目標額)
- 本記事:歩幅(最終目標額から逆算した月次入金力)
仮想例で見てみましょう。
例:45歳・最終目標額5,000万円・運用期間20年・想定利回り5%
- 早見表から必要月額:約12.2万円
- 家計に組み込めない場合
①固定費を見直して入金力を確保する
②それでも届かなければ運用期間を23年に延長する
③最後に、目標額を4,500万円まで下げるか再検討する
ここまで来れば、毎月の積立は淡々とした作業になります。
ただし1つだけ補足を。
3つの数字(ゴール・通過点・歩幅)が揃ったあと、最後に問われるのは「握力」 です。
30%下落の暴落が来ても、自分の数字を信じて積立を続けられるかどうか。
全世界株式インデックスファンドでも、年内に最大30%以上下げる年は当たり前にあります。
そのとき動じない腹落ちが、3つの数字を実現させる土台になります。
リスク許容度の身につけ方はこちらで整理しています。
→ 投資におけるリスク許容度とは?自分の許容範囲の見つけ方と高める3つの方法
握力を高めるためのマネーリテラシーの向上は、自由な人生を走り切るためのテーマとして取り組み続けてください。
もちろん僕も取り組みます。
👉 ゴール × 通過点 × 歩幅で計画は揃った。あとは積み立てるだけ。ただし握力は鍛え続けよう。
これでシリーズ「平均ではなく逆算」3部作は完結です。
3つの数字を手元に持って、市場の平均値・年齢別平均・月額平均という3つの”他人の数字”から、ようやく自由になれたのではないでしょうか。
このシリーズで完結|3記事まとめ読み


【本記事の注記】
- 早見表の月額は積立複利(FV = PMT × ((1+r)^n − 1)/r)で計算した概算。実際には信託報酬・税金(NISA外なら20.315%)・為替変動などで前後する
- 「年5%」は過去30年の全世界株式インデックスの実績レンジから保守的に置いた数字。将来を保証するものではない
- 早見表は理解の入口。自分の数字を作るには、本文中盤のシミュレーターで自分の目標額・期間・利回りを入力する必要がある
【免責事項】本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資の勧誘を目的としたものではありません。早見表・シミュレーターの数字は概算であり、実際の運用成果を保証するものではありません。実際の判断はご自身の責任において行ってください。
