「自分のリスク許容度の範囲内で投資しましょう」
インデックス投資を調べると、必ず出てくる言葉です。
ただ、自分のリスク許容度がどれくらいなのかを測れている人は、多くありません。
理由は単純で、リスク許容度は「年収いくらなら何%」のように外から決まる数字ではなく、自分がいくら下がったら売ってしまうかという、自分の中にしかない数字だからです。
だからこの記事は、説明より先に診断から入ります。
4つの質問に直感で答えるだけで、あなたが「いくら下がったら売るか」と「その基準が感情で揺れるか」が分かります。そのうえで、低いと出た人・答えがばらついた人が最初に直すものを、金額で整理します。
- リスク許容度の定義と、それを左右する5つの因子
- 4つの質問による診断と、回答パターン別の読み方(ばらつく人がいちばん危ない理由)
- 日本人の7割が「10%の損失」で売る調査の実態(投資している人でも半分)
- 診断で「低い」「ばらつく」と出た人が最初にやること(投資部分だけでなく、運用資金トータルで見る)
リスク許容度とは何か|「いくら下がったら売るか」の自分の数字
この記事では、リスク許容度をこう定義します。
価格が動いたときに、合理的な判断を保ったまま、投資を続けられる範囲。
投資でいうリスクは「危険」ではなく「値動きの幅」で、統計では1年あたりの標準偏差で表します。
全世界株式のインデックスファンドなら、1年で10%以上下がることは珍しくなく、50%近い下落も歴史上は何度も起きています。
インデックス投資で最もやってはいけないのは、途中で市場から退場すること。
だから、自分が耐えられる振れ幅を知っておく必要があります。
リスク許容度を左右する因子は、一般に5つ挙げられます。
| 因子 | 低くなる側 | 高くなる側 |
|---|---|---|
| 年齢・ライフステージ | 定年間近・資産を守る時期 | 運用期間が長く取り戻せる時期 |
| 収入の安定性 | 収入が不安定・支出が増える | 収入が安定・伸びる見込み |
| 余裕資金 | 生活防衛資金がない | 生活費と切り離した資金がある |
| 投資の目的と期間 | 数年内に使う予定がある | 10年以上使わない |
| 性格・心理 | 損失で眠れなくなる | 値動きを数字として見られる |
ただし、この5つの大半は自分の意思ですぐには動かせません。
年齢は選べないし、収入も明日は変わらない。
この記事の後半で扱うのは、この5つとは別に、知識と設計で動かせる部分です。
4つの質問でリスク許容度を診断する
できるだけリアルに情景を想像して、直感で答えてください。
答えは紙でもスマホでも、①〜④の番号を4つ控えるだけで十分です。
毎日働いて、やっとの思いで投資に回せる(しばらく使う予定のない)100万円を準備しました。投資して最初の1年で損失が出ました。損失がいくらになったら売りますか?
① 1万円以下
② 1万〜10万円
③ 10万〜30万円
④ 30万円以上の損失でも売らない
ネットショップのキャンペーンで当たった宝くじで、100万円が手に入りました。投資して最初の1年で損失が出ました。損失がいくらになったら売りますか?
① 1万円以下
② 1万〜10万円
③ 10万〜30万円
④ 30万円以上の損失でも売らない
稼いだ100万円を投資し、3年後に116万円まで増えました(年利5%)。4年目に相場が崩れ、利益がどんどん減っていきます。いつ売りますか?
① 100万円を切る前
② 99万〜90万円
③ 90万〜70万円
④ 30万円以上の元本割れでも売らない
宝くじの100万円を投資し、3年後に116万円まで増えました。4年目に相場が崩れ、利益がどんどん減っていきます。いつ売りますか?
① 100万円を切る前
② 99万〜90万円
③ 90万〜70万円
④ 30万円以上の元本割れでも売らない
診断結果の読み方|いちばん危ないのは「答えがばらつく人」
4つの番号がそろったら、こう読みます。
| 回答の傾向 | リスク許容度 | 何が起きるか | 最初にやること |
|---|---|---|---|
| ほぼ① | 極めて低い | 値動きで日常生活に支障が出る | まだ投資を始めない。振れ幅を数字で知るところから |
| ほぼ② | 低い | 高く買って安く売る。ほぼ確実に損をする | 少額(月1万円)で1年、下落を1回経験する |
| ほぼ③ | 中 | 本当の暴落の前に含み益が育っていれば続けられる | 生活防衛資金を金額で確保し、運用資金の中の株式と現金の配分を決める |
| ほぼ④ | 高 | 運用資金の全額を、市場平均と言える低コストのインデックスファンドに置ける | 自分が信じられる指数を選び、淡々と続ける |
| ばらつく | ? | 相場ではなく、その日の感情でルールが変わる | 次の章の「メンタルアカウンティング」を先に読む |
注目してほしいのは、設問1と2、設問3と4の答えが違った人です。
同じ100万円なのに、「稼いだお金」と「臨時収入」で売る基準が変わる。
これは、お金に心の中でラベルを貼って別扱いしてしまうメンタルアカウンティングという心理そのものです。
設問3・4で答えが変わった人は、「元本」というアンカーに縛られています。
100万円を切るかどうかは、将来の値動きとは何の関係もありません。
インデックス投資で最も危険なのは、市場の値動きではなく、自分の判断基準が毎回変わることです。相場が下がったから売るのではなく、そのときの気分で売る。
これが、長期投資が途中で終わる典型です。
日本人の7割は、10%の損失で売る?|投資している人でも半分
投資信託協会が2025年1〜2月に行った1万人調査(20〜69歳)に、こんな設問があります。
「投資信託に100万円を投資して損失が出た場合、いくらまでなら保有を続けるか」。

- 全体では約7割が10%の損失までに売ると答えている。ただしその中心は、投資をしたことがない人(8割超)
- 今投資している人でも、半分(50.7%)は10%の損失で売ると答えている
- 過去に投資をやめた人は、77%が10%の損失で売る。実際に途中で降りた人の許容度は、これから始める人より低い
つまり「日本人の7割が投資に失敗している」わけではありません。
でも、投資をしている人の半分が「10%下がったら売る」と答え、途中でやめた人の8割近くがそう答えている。
実際のリスク許容度は、本人が思っているより低い。これが調査の示す実態です。
全世界株式でも1年で10%の下落は珍しくないので、この許容度のまま始めると、最初の下落で退場する確率が高い。
(出典:投資信託協会「投資に関するWeb調査(投資に関する1万人アンケート)」2024年度報告書・2025年1月28日〜2月4日・N=10,000。同協会の2025年調査では投資信託保有者の平均保有期間は5.3年で、前年の7.1年から短くなっています)
なぜ「耐えられるはず」が、下落の日に崩れるのか
インデックス投資にたどり着いた人は、右肩上がりの長期チャートを見て「一時的に下がっても歴史的には回復してきた」「暴落はバーゲンセールだ」と学びます。
そして、自分は耐えられると考えます。
でも、実際の下落はチャートの中では起きません。
2024年8月5日、日経平均は1日で4,451円(−12%)下げました。
2025年4月7日にも、関税ショックで1日−7%。
どちらも数ヶ月で回復しましたが、その日の画面を見て積立を止めた人、売った人は確実にいます。
数年かけてじわじわ下がる相場なら、もっと多い。
理由は2つの心理バイアスです。
損をした痛みを利益の喜びより大きく感じる損失回避と、さっきのメンタルアカウンティング。
頭で理解した「理論」と、下落の日に手が動く「現実の耐性」は、別物です。
だから、理論の理解とは別に、自分の耐性の現実値を知っておく必要があります。
→ 「耐えられるはず」が崩れるのと同じ脳のクセ|最高値で利確したくなる心理
診断で「低い」「ばらつく」と出た人が、最初にやること
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。
よくある答えは「リスク許容度が低いなら、株式の比率を下げてバランス型にしましょう」です。
証券会社の診断ツールは、ほぼ全てこの形で商品を提案してきます。
方向は間違っていません。
でも、その前に直すべきことが1つあります。
投資している部分の値動きだけを見て、怖がらないこと。
リスク許容度が低いと感じる人の多くは、株式の値動きを「自分の資産の値動き」として見ています。
100万円を株式に置いて10万円下がれば、−10%。
でも、あなたの運用資金が株式100万円と現金100万円なら、全体では−5%です。
振れ幅は、株式の部分だけでなく、運用資金の中の現金と株式のトータルで見る。この見方に切り替えるだけで、同じ下落が半分の大きさに見えます。
そのうえで、お金を2階建てに分けます。
1階は守りのお金。
生活防衛資金と、数年内に使う予定のお金を「割合」ではなく「金額」で確保して、運用資金には混ぜない。
2階は運用資金で、この中を「株式いくら・現金いくら」で決める。
リスク許容度が低いなら、2階の中の株式の割合を下げればいい。
1階を混ぜて「総資産の株式○%」で管理すると、株が伸びるたびに守りの現金を積み増す羽目になるので、混ぜないことだけは守ってください。
決めた配分は、相場で変えないこと。
維持の作業(リバランス)は年1回のチェックで十分で、頻繁に触るほど判断が感情に寄ります。
→ リバランスのやり方|不要になる家計を作るのが上策、必要なら年1回この順番で
診断結果ごとに、最初の一手はこうなります。
- ほぼ①②の人:まだ全額を動かさない。生活防衛資金を金額で確保したうえで、月1万円の積立を1年続けて、下落を1回だけ経験する。1回耐えられた事実が、次の許容度になる
- ばらつく人:金額を決める前に、「稼いだお金」と「臨時収入」を同じ財布に戻す。投資に回した時点で、そのお金の出どころは関係なくなる。この1点が腹落ちするまで、増額しない
- ほぼ③の人:生活防衛資金の金額を確定し、運用資金の中を「株式いくら・現金いくら」で決める。決めた配分は、相場で変えない
- ほぼ④の人:運用資金を低コストのインデックスファンドに置き、追加投資は同じものに。指数は自分が信じられるものでいい
生活防衛資金の金額の目安は、こちらで整理しています。
リスク許容度を高める3つの方法|知識と設計で動かせる部分
5つの因子は動かせなくても、次の3つは自分で動かせます。
その1:生活費を把握し、守りのお金を「金額」にする
「投資に失敗したら生活に困る」状態では、日々の値動きに耐えられません。
家計簿アプリで固定費を3ヶ月分把握し、無収入でも数ヶ月暮らせる生活防衛資金を金額で持つ。
自分が投資に回しているのは、それを除いた余剰資金だと数字で言える状態が、リスク許容度をいちばん確実に上げます。
その2:振れ幅を数字で知る
インデックス投資で期待できるのは、資本主義全体の成長です。
市場の暴落は異常事態ではなく、振れ幅の中に必ず現れる揺らぎ。
「1年で−30%はあり得る」「回復に10年かかった時期もある」を、感覚ではなく数字で知っていると、下落の日に見える景色が変わります。
含み益がどれだけあれば暴落を吸収できるかも、過去の実測で出せます。
→ 暴落を吸収できる含み益は何%か、77年の実測で出した答え
その3:運用資金の「現金+株式」トータルで見る
運用中は、商品単体の値動きに目が行きます。
でも見るべきは、運用資金の中の現金と株式を合わせた全体の振れ幅です。
株式が3割下がっても、運用資金の半分が現金なら全体では15%。
1階の守りのお金が別枠で確保できていれば、生活は何も変わらない。
最初に決めた配分を、相場で変えずに守ること。
下がっている最中に積立を続けるかどうかも、感情ではなく数字で確認しておくと腹が決まります。
まとめ|「続けられるリスクの量」が、最も合理的な戦略になる
- リスク許容度は「年収なら何%」ではなく、自分がいくら下がったら売るかの数字。4つの質問で測れる
- いちばん危ないのは低い人ではなく、答えがばらつく人。相場ではなく感情でルールが変わる
- 日本人の7割は10%の損失で売ると答えるが、その大半は投資をしていない。投資している人でも半分、途中でやめた人は8割近くがそう答える
- 低いと出たら、まず投資部分だけでなく、運用資金の「現金+株式」トータルで振れ幅を見る。守りのお金は金額で別枠、運用資金の中の配分は相場で変えない
長期の資産形成で重要なのは、期待リターンを最大化する戦略より、自分が続けられる戦略です。
株式の平均的なリターンをできるだけ長く受け取るために、リスク許容度の範囲で始めて、経験で広げていく。
それが、遠回りに見えていちばん速い道だと僕は考えています。
📚 「下落の日に売らない自分」を作る1冊
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診断で自分の許容度が分かっても、下落の日にそれを守れるかは別問題です。
守れる人は、理屈を「自分の言葉」で持っています。
『お金は寝かせて増やしなさい』は、インデックス投資を20年近く続けてきた個人投資家が、リーマンショックを含む暴落をどう通り抜けたかを、自分の資産の記録ごと見せてくれる本です。読み終えると、下落の日に「これは想定の内側だ」と言える根拠が、理屈だけでなく先に通った人の実例として自分の中に残ります。
僕自身、含み損の画面を見ても積立を止めずにいられたのは、この本で「市場から降りない」人が実際にどうなったかを先に読んでいたからでした。
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よくある質問
Q. リスク許容度が低いと、投資はしないほうがいいですか?
しないほうがいいのではなく、金額を小さくして始めるほうがいいです。
生活防衛資金を金額で確保したうえで、月1万円の積立を1年続けて下落を1回経験する。
リスク許容度は、知識と経験で後から広がります。
Q. リスク許容度は年齢で決まりますか?
年齢は5つの因子の1つで、老後が近づいて運用期間が短くなるほど、許容度は低くなるのが普通です。
一方で、投資の経験が長くなるほど許容度は高くなる傾向があります。
この2つは別の軸で、同じ年齢でも生活防衛資金の有無と経験で大きく変わります。
「40代なら株式○割」のような年齢別の目安より、4つの質問の答えのほうが実態に近いです。
Q. 証券会社の診断ツールと何が違いますか?
証券会社やロボアドの診断は、結果に応じて資産配分(商品)を提案する設計です。
この記事の診断は、あなたが「いくら下がったら売るか」と「基準が感情で揺れるか」を測り、答えを商品ではなく「運用資金の中の現金と株式の配分」と「見方」で返します。
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
