前回、「3,000万円でFIREできるか」を過去155年のS&P500データ・1,508通りの30年で検証しました。
あの記事への一番のツッコミは、たぶんこれです。
「それ、ドルの話でしょ。僕らは円で暮らしているんだけど」。
その通りです。前回の検証はドルの購買力で計算していて、為替は入っていませんでした。
なので今回は、円建てで同じ検証をやっていきます。
S&P500を、その月その月の実際の為替レートで円に換算する。
1ドル360円の時代から、75円の超円高、160円付近の現代まで、77年ぶんの為替の歴史をぜんぶ織り込みます。
先に核心だけ言います。
円で見ても、「年間支出の25倍あれば30年もつ」は568通り中566通り、99.6%成り立っていました。
そして為替が変えたのは「答え」ではなく、別のものでした。
- S&P500を毎月の実際の為替レートで円換算し、戦後77年・568通りの「30年」で取り崩しを検証した結果
- 円で見ても「年間支出の25倍」は99.6%生き残っていたこと
- 為替が変えたのは答えではなく「バラつき」だったこと。そしてその対処は1つで足りること
検証のやり方|S&P500を円建てに直す。前回との違いは2つだけ
道具立ては前回と同じです。
S&P500(配当再投資)を株式100%で持ち、リタイア開始月を1ヶ月ずつずらした「30年」すべてで、毎月生活費を取り崩す。
30年後に資産が残っていれば生き残り、尽きたら脱落です。
変えたのは2つだけ。
- 資産を円で数える。S&P500の値動きに、毎月の実際のドル円レートを掛けて円換算します
- 生活費は円で、年2%ずつ増える。物価が上がれば生活費も増えるので、その上昇ぶんを織り込みます。日本の過去の物価は1990年以降ほとんど上がっていませんが、それをそのまま将来に当てるのは検証として甘すぎるため、日銀が目標に掲げる2%を置きました
為替データが取れるのは1949年から。なので今回の検証期間は1949年〜2026年の77年、「30年」の取り方は568通りです。
前回の155年・1,508通りより短くなりますが、そのぶん「戦後の日本人が実際に直面した為替」を1ヶ月も飛ばさず使えます。
なお前回と同じく、税金・売買コスト・信託報酬は引いていません。細かい前提は記事末尾の「検証の前提」にまとめます。
結果|円建てで見ても、4%ルール(25倍)はほぼ生き残った
さっそく結果です。
資産が「年間支出の何倍か」ごとに、568通りの30年で何通り生き残ったかを並べます。

| 資産が年間支出の | 円建ての生き残り(568通り中) | 参考:前回(ドル・155年) |
|---|---|---|
| 10倍 | 82通り(14.4%) | 17.2% |
| 15倍 | 326通り(57.4%) | 62.5% |
| 20倍 | 478通り(84.2%) | 84.2% |
| 25倍(4%ルール) | 566通り(99.6%) | 97.9% |
※25倍は「初年度に資産の4%で取り崩しを始める」水準=いわゆる4%ルールです。前回の記事で原典のトリニティスタディと比較しています。
👉 円に直しても、数字の並びはほとんど動きませんでした。
「25倍あればほぼもつ。10倍では厳しい」という前回の骨格は、円の世界でもそのまま成り立っていました。
前回の「3,000万円・年間支出300万円=10倍」のケースも見ておくと、円建てで14.4%。
ドルの17.2%と同じく、「10倍では8割以上のケースで尽きた」という答えは変わりません。
過去の中央値は14.2倍(前回は13.4倍)。
一番恵まれた1949年6月開始なら6.6倍で足り、一番厳しい開始時期では25.5倍必要でした。
つまり、「円で見たら結論が引っくり返るのでは」という心配に対して、過去の答えはノーでした。
為替が変えたのは「答え」ではなく「バラつき」だった
ただ、為替の影響がゼロだったわけではありません。
それが分かるのが、この比較です。
今回の568通りの「30年」は戦後だけなので、前回の155年とは期間が違います。
そこでまったく同じ568通りの「30年」を、円換算した場合と、ドルのままの場合で並べました。
| 資産が年間支出の | 円建て | ドルのまま(同じ568通り) |
|---|---|---|
| 10倍 | 14.4% | 39.8% |
| 15倍 | 57.4% | 87.5% |
| 20倍 | 84.2% | 100% |
| 25倍 | 99.6% | 100% |
ドルのままなら、戦後の568通りは20倍で全勝でした。
円に直すと84.2%。為替を通すことで、結果のバラつきが広がったのです。

理由はシンプルで、この77年、円は長期では強くなり続けたからです。
1949年の1ドル360円から2026年の160円台まで、年率にすると約1%ずつの円高。
ドルで増えた資産を円に直すと、その円高のぶんだけ毎年少しずつ目減りしていた計算になります。
ただし、バラつきは両側に出ています。
568通りのうち29通り(約5%)は、むしろ円で見た方が少ない資産で足りていました。
極端な例が1995年6月——1ドル80円前後の超円高のタイミングで辞めた人です。その後の30年は円安に振れたので、必要な資産はドルなら11.5倍のところ、円なら9.1倍で済みました。
反対の極は1985年2月——プラザ合意直前の240円台で辞めた人で、ドルなら8.5倍のところ、円だと17.3倍。同じ30年で必要額が倍になっています。
為替は敵と決まっているわけではなく、辞めたタイミングしだいでどちらにも転んでいた。これがバラつきの正体です。
では、25倍を持っていたのに沈んだ2通りは、どんな30年だったのか。

568通りのうち沈んだのは、1968年11月と12月に辞めた2通りだけです。
1ドル360円の固定相場の、まさに最後の頂点で引退し、直後のニクソン・ショックから始まる30年ずっと円高の逆風を受け続け、しかも開始直後に米国株の長い停滞期が重なった。
戦後77年で最悪の組み合わせを、ピンポイントで引いたケースでした。
👉 為替は、生き残りの「答え」を変えるほどではなかった。
ただし結果の振れ幅を広げ、必要な倍率の上限を17.1倍から25.5倍へ押し上げていました。
じゃあどうするか|積立中は為替を気にせず、辞め時の倍率を少し厚く
ここからは、このデータを僕がどう受け取ったかの話です。
まず、積立中に為替を気にしても、打てる手がありません。
為替は選べないし、読めない。この検証で沈んだ2通りにしても、1968年の時点で「ここから30年円高が続く」と当てられた人はいないはずです。
僕自身、積立中の為替は見ないと決めています。円高の月も円安の月も、同じように買うだけです。
為替の影響が意味を持つのは、取り崩しの倍率を決める一瞬だけでした。
そしてその対処は、データを見る限り1つで足ります。
👉 ギリギリの倍率で辞めない。20倍で行けそうに見えても、25倍まで積む。
この「緩衝」1つで、568通りの為替の歴史は99.6%乗り越えられていました。
念のため、生活費の上昇を年2%ではなく年3%に厳しくした場合も計算しました。
それでも25倍の生き残りは91.4%。前提を厳しめに置いても、緩衝としての25倍は機能していました。
逆に言うと、円高が怖いからと外国株を避けても、この問題は解決しません。
必要なのは避けることではなく、辞め時の倍率に余裕を持たせること。それだけの話だと、僕はこのデータから受け取りました。
「円建てでも99.6%」を、どこまで信じていいか
前回と同じく、この検証が言っていないことを並べます。
- S&P500を使ったのは、月次で長期のデータがあるからです。S&P500を推奨する話ではなく、米国株の過去が例外的に恵まれていた可能性は消せません。この問題は生存者バイアスの記事で書きました
- 検証期間は戦後の77年だけです。前回の155年には1929年の世界恐慌が入っていましたが、今回の568通りには入っていません。だから「円建ての方が最悪値がマシ(25.5倍 vs 前回32.5倍)」と読むのは間違いで、期間が違うだけです
- 生活費の上昇は「年2%」という置きです。日本の実際の物価は1990年以降ほとんど上がらなかったので、実績をそのまま使うと検証が甘くなります。あえて厳しめの2%(感応度で3%)を置きました
- 税金・売買コスト・信託報酬・年金を入れていません。この扱いは前回の記事と同じです
- すべて過去の話です。この先の30年が、過去最悪の1968年組を更新しない保証はどこにもありません
まとめ|「円高が来たらFIREは崩れるのか」への答え
円で見ても、過去はこうでした。
- 4%ルール(25倍)は568通り中566通り、99.6%生き残った。円換算しても骨格は変わらなかった
- 為替が変えたのは答えではなくバラつき。ドルなら20倍で全勝の時代が、円だと84.2%。必要倍率の上限は17.1倍→25.5倍に広がった
- 沈んだのは、360円時代の頂点で辞めた1968年末の2通りだけだった
このシリーズでは今後、「円建てで検証しています」と一言だけ書いて先に進みます。
その一言の中身が、この記事です。為替の議論はここに置いて、次からは本題だけを検証していきます。
→ その最初の1本:一括投資と分割投資、過去77年で勝ったのはどっちか
取り崩し期の設計そのもの——何をどの順で売るか、為替以外に何に気をつけるか——は資産の取り崩し方の記事で書いています。
自分の倍率を計算するところから始めたい方は、前回の記事からどうぞ。
- データ:Robert Shiller公開のS&P500月次データ(配当再投資)×ドル円月次レート(BIS国際決済銀行の月中平均 1957年〜。1949年4月〜1956年は固定相場の360円。日銀の月中平均とクロス検証済み)
- 期間:1949年4月〜2026年7月。30年(360ヶ月)のローリング窓568通り
- 方法:資産は円換算の名目値。毎月初に生活費を取り崩し。生活費は年2%成長(感応度として3%も計算)。株式100%
- 成功の定義:30年後に資産が残っていること
- 税・売買コスト・信託報酬・年金は未考慮
- すべて過去の結果であり、将来の成果を約束するものではありません
関連記事
シリーズ1本目。「3,000万円でFIREできるか」を過去155年・1,508通りの30年で検証しました。自分の倍率の計算はここからどうぞ。

取り崩し期の設計そのもの——4%ルールの前提と、税で差がつく「売る順番」——はこちらで解説しています。

「うまくいった市場だけを見てしまう」問題。米国株の過去を疑う視点はこちらで書きました。

📚 “積立中は為替を見ない”を実践に変える1冊
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この記事の結論の半分は「積立中は為替を気にせず、同じように買い続ける」でした。
ただ、理屈で納得するのと、円高のニュースが流れる月に実行するのとでは、まったく別の話です。
この本は、その「とにかく買い続ける」ことがなぜ合理的なのかを、膨大なデータで裏づけてくれる1冊です。
タイトルがそのまま結論という潔さも含めて、僕の積立の背骨になっています。
僕が円高の月も円安の月も同じ額を買い続けられているのは、この本の答えを先に知っていたからだと思っています。
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本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
