4%ずつ取り崩す。年間生活費の25倍を目指す。
出口の「率」の話は、いろいろなところで語られています。
でも、いざ取り崩す日が来たとき、本当に迷うのはその先です。
特定口座とNISA、どちらから売るのか。
オルカンとS&P500を両方持っていたら、どちらを先に売るのか。
ここには、税金で決まる合理的な答えがあります。
同じ年120万円の生活費を作るのに、売る銘柄を変えるだけで、税金は約10.6万円から約2.5万円に変わります。
👉 取り崩しは、口座→銘柄の順で決める。特定口座が先、NISAは最後。特定口座の中では、含み益の小さい銘柄から。
この記事では、その理由と具体的な計算、僕自身が口座をどう設計しているかを順に書きます。
「どれだけ取り崩すか」は別の記事で。この記事は「どこから売るか」
取り崩しの話は、大きく2つに分かれます。
1年にどれだけ取り崩すか(率)と、どこから売るか(順番)です。
率のほうでよく使われるのが「4%ルール」です。
資産の4%を1年分の生活費として取り崩す考え方で、裏返すと「年間生活費の25倍」が目標額になります。
年間300万円なら7,500万円です。
ただし4%は、米国のデータから出てきた経験則で、そのまま日本で使える魔法の数字ではありません。
前提の中身と、155年分のデータでの検証は3,000万円でFIREできるかで、出口全体の地図は資産運用の出口戦略で整理しています。
円で暮らす人が4%を当てはめるときに一番効いてくるのは、為替です。
取り崩したいタイミングで大きく円高になれば、同じ4%でも手にできる円は目減りします。
もう一つ、取り崩しを始めた直後の暴落(順序リスク)にも備えが要ります。
僕は、退職金と今の生活防衛資金をバッファにして、3年ほどはリスク資産を売らずに暮らせる水準を確保しておくつもりです。
順序リスクを実際の20年で試した結果は、順序リスクとはに書きました。
ここから先は、率が決まったあとの「どこから売るか」の話です。
資産を「どの口座から」取り崩すか|特定口座が先、NISAは最後
まずは口座の順番です。複数の口座に資産がある場合、取り崩す順番には合理的な答えがあります。
結論はシンプルで、課税される特定口座から先に取り崩し、非課税のNISAは最後まで残す、です。
NISAを最後まで残すということは、使い切らずに残ったNISAを、いずれ子が相続するということでもあります。
理由は税金です。
特定口座(課税口座)では、売却益に約20.315%の税金がかかります。
一方、NISA口座内の利益は何年運用しても非課税です。
であれば、非課税で運用できるNISAのお金は1日でも長く市場に置いておいたほうが、非課税の複利メリットを最大限に引き出せます。先に崩すべきは、置いておいても利益に課税されてしまう特定口座のほうだ、ということです。
なお、iDeCoや企業型DCは、ここに単純に並べられません。
受け取り方(一時金か年金か)や受給開始の年齢で税金の扱いが大きく変わる、出口ルールが別建ての制度だからです。
iDeCo・DCの出口は単独で設計する論点なので、本記事では「口座の取り崩し順とは別枠で考える」とだけ押さえておきます。
iDeCo・DCの出口を手取り最大化の観点で単独設計する手順はこちらにまとめています。
→ iDeCoの受け取り方と退職金の順番|10年ルール後は「拠出を止める年」と「受け取る年」で手取りが決まる
特定口座内では「どの銘柄から」売るか|含み益が小さいものを先に
口座の順番が決まったら、次は特定口座の「中」の話です。複数の銘柄を持っているなら、ここにも順番があります。
原則は、含み益(益率)が小さい銘柄から売ること。
なぜ含み益が小さいものからなのか
特定口座で売却益にかかる税金は、「売った金額のうち、利益にあたる部分」に約20.315%です。同じ金額を売っても、含み益の割合(益率)が大きい銘柄ほど、利益として課税される部分が大きくなります。
つまり、益率の低い銘柄から売れば、同じ生活費を作るのに実現する利益が小さくて済み、その年に払う税金を抑えられる。
払わずに済んだ税金は、そのまま市場に残って運用に回り続けます。
これが「税の繰り延べ」で、長く取り崩すほど効いてきます。
「1銘柄しか持っていない」なら、この判断は不要
ここで一つ整理しておくと、この「銘柄の順番」は、複数の銘柄を持っている人だけの論点です。特定口座に優良なインデックスファンドを1本しか持っていないなら、選びようがないので悩む必要はありません。
また、同じ銘柄の中で「安く買った分だけ後で売る」といった選び方もできません。
特定口座は取得価額が平均(平均取得単価)で計算されるため、同一銘柄内では買ったタイミングごとに切り出して売ることはできないからです。
あくまで「複数の異なる銘柄のうち、どれから売るか」という、銘柄レベルの判断だと理解してください。
個別株を持つ人ほど間違えやすい
銘柄が全部、優良なインデックスファンドという人は、この順番でそうそう大きなミスはしません。注意が必要なのは、個別株も混ざっている人です。
たとえば含み損が出ている銘柄があるなら、それこそ真っ先に取り崩し候補にすべきです。損失を確定させれば、同じ年に出た他の利益と相殺(損益通算)でき、その年の税金を減らせるからです。
ところが実際には、ここで多くの人が順番を間違えます。
「損を確定させたくない」という気持ちが働いて、含み損の銘柄を最後まで握り、利益の出ている銘柄から売ってしまう。
これは行動経済学でいう損失回避(損を確定する痛みを過大に感じる傾向)そのものです。
税の観点では逆効果になりがちな行動です。
もう一つありがちなのが、口座や指数の“好み”で順番を決めてしまうこと。
「こっちの指数のほうがこれから伸びそうだから残したい」と、税金を一切考えずに売る銘柄を選んでしまうパターンです。
気持ちは分かりますが、出口では「好み」より「益率と税」を先に置いたほうが、手元に残るお金は増えます。
具体例|オルカンとS&P500を持つ人は、取り崩しでいくら差がつくか
抽象論だけだとピンと来ないので、わかりやすい数字で見てみます。
特定口座に、次の2本を持っているとします(あくまでモデルケースです)。
- オルカン(全世界株):元本900万円・含み益600万円 → 評価額1,500万円・益率40%
- S&P500:元本1,350万円・含み益150万円 → 評価額1,500万円・益率10%
合計3,000万円。
ここから、生活費として手取りで年120万円(月10万円)を取り崩すとします。
これは資産の4%にあたり、まさに4%ルールどおりの取り崩しです。
同じ120万円を手にするのに、どちらから売るかで税金がこう変わります。
| オルカン(益率40%)から売る | S&P500(益率10%)から売る | |
|---|---|---|
| 手取り120万円を作るための売却額 | 約130.6万円 | 約122.5万円 |
| うち利益として課税される額 | 約52.2万円 | 約12.2万円 |
| 税金(20.315%) | 約10.6万円 | 約2.5万円 |
同じ120万円の生活費を作るだけで、税金が初年度から約8万円も違います。さらに、益率の低いS&P500から売ったほうは、取り崩す資産額そのものも少なくて済むため、より多くのお金が市場に残ります。
この「払わずに済んだ税金+多く残った元本」が、翌年以降も運用され続け、雪だるま式に差を広げていきます。1年で8万円でも、取り崩しは何十年と続くものです。
理論上、2つの銘柄の期待リターンが同じであれば、この「どちらから売るか」の差は、純粋に税の繰り延べだけで生まれます。
だからこそ比較は「リターンは同じ」と仮定して考えるのが筋です。
もし「片方のほうが今後伸びそうだから残したい」と思い始めると、それは“税の話”ではなく“どの資産に賭けるか”という別の話が混ざってしまう。
先ほどの例で言えば、「S&P500の方が今後伸びそうだから取り崩しはオルカンからにしよう」と考えてしまうケースです。
出口の順番を考えるときは、まず税の効果だけを切り出して見るのが、判断を濁らせないコツです。
結局、どの順番で取り崩すべきか
ここまでの話を、実際に動ける手順の形にまとめます。
👉 取り崩しの基本順序は、こうです。
- 暴落局面では、まず現金バッファから使う。ここから生活費を出してリスク資産は売らない(順序リスク対策)
- 特定口座の、含み益が小さい銘柄から売る。含み損の銘柄があれば、損益通算のために最優先で売却候補に
- 特定口座の、含み益が大きい銘柄を売る
- NISAは最後まで残す。非課税の複利を1日でも長く効かせる
- iDeCo・DCは、この順番とは別枠で、受け取り方と年齢から単独設計する
ちなみに僕自身は、取り崩し期をある程度見越して、特定口座はオルカンを中心に、NISAはS&P500を中心にという配分にしています。こうしておくと、先に売る特定口座のほうの含み益が相対的に小さくなりやすい、という読みです。
もっとも、これはあくまで設計時点での想定です。
仮に将来、特定とNISAで含み益の大小が逆転していたとしても、僕は特定口座から取り崩します。
「どの口座から崩すか」は非課税枠を残すという原則が優先で、銘柄の益率はそのあと、特定口座の“中”で効いてくる順番だから。そしてもう一つ、未来のリターンは誰にもわからないから。
原則の階層を取り違えないことが大事です。
そもそも「売っていい場面」がいつなのかは、売却の判断軸|長期投資家が“売っていい”4つの場面で整理しています。
出口は、貯めるフェーズ以上に「知っているかどうか」で差がつく場所です。
取り崩す率は前提ごと理解し、最初の数年はバッファで順序リスクに備える。
そして売るときは、口座→銘柄の順で、税を意識して動く。
ここまでできれば、同じ資産額でも、お金はより長く、より多く手元に残ります。
→ この「売る順番」が出口戦略全体のどこに当たるのか、目標額・年金・iDeCoの受け取りまで含めた全体地図はこちらで1枚に整理しています
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本記事の注記
- 4%ルールは、米国市場の過去データに基づく経験則であり、将来の成果を保証するものではありません。
- 税率は2026年6月時点の上場株式等の譲渡益課税(所得税・復興特別所得税・住民税の合計20.315%)を用いています。制度・税率は改正される可能性があります。
- 本記事は特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。最終的な判断はご自身の状況に合わせて行ってください。
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
