「15年使わないお金なら、元本割れはしない」。
投資の本やSNSで、よく見かける言い方です。
似た数字で「17年」と書いてある本もあります。名著『株式投資』でジェレミー・シーゲルが示した、保有17年以上なら実質リターンがマイナスになった期間は一度もなかったという有名な検証です。
でも、気になりませんか。
その「15年」や「17年」は、どのデータを、どう数えた結果なのか。そして——日本円で暮らす僕らにも、同じ数字が当てはまるのか。
今回は、この看板数字を自分の手で数え直します。
S&P500の155年分の月次データ(1871年〜2026年)と、それを円換算した戦後77年分。
投資を始める月を1ヶ月ずつずらした全ての期間で、「N年持ったら元本割れで終わったケースが何通りあったか」を数えました。
先に核心だけ言います。
円建てでは、15年持って元本割れで終わったケースはゼロでした。
ただし「17年」のほうは、月次で数え直すと100%ではありませんでした。その中身まで見ていきます。
- 「15年(17年)使わないお金なら元本割れしない」という看板数字を、S&P500の155年分の月次データで数え直した結果
- 円建て77年では、15年で負けがゼロ。ただしシーゲルの「17年」は、月次で数えると21年まで延びたこと
- 「負けなくなる」までの途中経過——最悪のくじを引いた1999年3月組の20年に何が起きたか
検証のルール|「N年持って元本割れか」を全部の月で数える
数え方はシンプルです。
- ある月の初めに一括で投資する(配当は再投資・追加投資なし)
- N年後の評価額が投資額を下回っていたら、その回は「負け」
- 開始月を1ヶ月ずつずらして、全ての開始月について負けの割合を数える
対象は3つの物差しで見ます。
| 物差し | 期間 | 何がわかるか |
|---|---|---|
| ドル建て・実質(物価調整後) | 1871〜2026年・155年 | シーゲルと同じ土俵での数え直し |
| ドル建て・名目 | 同上 | 「元本割れ」という言葉の直感に近い数字 |
| 円建て・名目 | 1949〜2026年・77年 | 日本円で暮らす僕らの答え |
このシリーズの前提として、為替込みの円建てで検証する理由はこちらで書いています。
1つ、先にはっきりさせておきます。
この検証は「一括で買って、そのまま持ち続けた場合」の話です。
世の中の「15年ルール」も多くは一括前提の数字なのですが、そう明言されていないことが多いので、勘違いしないようにしましょう。毎月コツコツ積み立てる場合の「何年目から元本割れしなくなるか」は別の計算になるので、いずれ別の記事で検証します。
税金・売買コスト・信託報酬は引いていません。細かい前提は記事末尾にまとめます。
ドル建て155年|負けが消えたのは「名目16年・実質21年」だった
まず本場アメリカの数字からです。3つの物差しを一覧できるよう、表には円建ても並べておきます(円建ての中身は次の章で詳しく見ます)。

| 保有年数 | ドル実質(物価調整後) | ドル名目 | 円建て |
|---|---|---|---|
| 1年 | 30.4% | 27.3% | 27.5% |
| 3年 | 21.2% | 15.1% | 18.9% |
| 5年 | 18.6% | 10.2% | 16.4% |
| 10年 | 11.0% | 2.9% | 8.9% |
| 15年 | 4.4% | 0.1% | 0% |
| 17年 | 1.0% | 0% | 0% |
| 20年 | 0.1% | 0% | 0% |
| 21年〜 | 0% | 0% | 0% |
※数字は「その年数持って、元本割れで終わった割合」
まず名目——つまり「投資した金額より増えたか減ったか」の素朴な物差しでは、16年で負けがゼロになりました。
15年時点で負けが残っていたのは、たった1通り。開始月は1929年9月、世界恐慌直前の大天井です。史上最悪のタイミングで買った人だけが、15年持ってもまだ水面下にいました。
次に実質——物価の上昇分を引いた、シーゲルと同じ物差しです。
こちらは意外な結果でした。17年持っても、負けが17通り残っていたのです。
その17通りの開始月を調べると、すべて1964〜66年に集中していました。
米国株が「ニフティ・フィフティ」と呼ばれた人気銘柄で沸いた時代の高値づかみ組です。そこからオイルショックと1970年代の大インフレが直撃し、物価調整後では17年経ってもプラスに戻れませんでした。
実質ベースで負けが完全に消えたのは21年。最後まで残っていた負けは、1901年6月に始めたケースでした。
👉 「17年」は嘘ではありません。でも、データの期間と数え方しだいで、17年は21年まで延びました。
シーゲルの検証は1802年からの200年超・年次データ。こちらは1871年からの155年・月次データ。
対象期間が違えば、含まれる暴落も違います。月次で数えれば、年次では見えない高値づかみの月も拾います。
看板数字とは、そういう「前提とセット」のもの——これがまず1つ目の答えです。
円建て77年|日本人の答えは「15年」だった
では、円で暮らす僕らの物差しではどうか。
S&P500を円換算した1949年からの77年分で、同じ数え方をしました。
負けが完全に消えたのは15年。
「15年使わないお金なら元本割れしない」——あの言い方は、円建ての過去77年に限っては、そのまま成り立っていました。
負けの最終ラインは14年です。14年持っても元本割れで終わったケースは8通りありました。開始月は2つの時代に分かれます。
- 1964〜65年:東京オリンピック景気の頃。米国側の長い停滞をそのまま浴びた組
- 1997〜98年:ITバブルへ向かう坂道での高値づかみ組。ITバブル崩壊とリーマン・ショックを二度浴びて、14年ではまだ戻り切りませんでした
1997年開始が入っているのは、他人事ではないはずです。
今40代後半の人が社会人になった頃、そこで買った人が実在の「14年負け組」でした。それでも15年目には全員が水面上に出ています。
ここで1つ、正直な注意書きです。
円建て(15年)がドル実質(21年)より早く全勝に到達したのは、円建ての強さの証明ではありません。円建てのデータは1949年からで、世界恐慌を含んでいないからです。もし1929年を円建てで浴びていたら、この数字はもっと延びていた可能性が高い。「15年」は77年分の記録であって、保証ではありません。
👉 それでも、戦後77年・オイルショックもITバブルもリーマンも含めて、15年待って元本割れだった開始月は1つもなかった。この事実は、持ち続ける側の味方です。
「負けなくなる」までの途中は、こうだった
ここまでの数字だけ見ると、「15年持てば安心」で終わりそうです。
でも、この検証でいちばん伝えたいのは途中経過のほうです。

| 保有年数 | 最悪だったケースの成績(円建て) |
|---|---|
| 1年 | -50.7% |
| 3年 | -48.0% |
| 5年 | -37.0% |
| 10年 | -42.8% |
| 15年 | +18.4% |
| 20年 | +92.2% |
| 30年 | +315.5% |
見てほしいのは10年の行です。
10年持っても、最悪のケースはまだ4割減でした。「10年も持てばさすがに大丈夫だろう」という感覚は、過去のデータでは通用していません。
その最悪の10年を引いたのが、1999年3月に始めた人です。

1999年3月はITバブルの天井近く。そこで買って、10年後の2009年3月は——リーマン・ショックの大底でした。
天井で買って、底で10年目を迎える。77年分の全ての開始月の中で、文句なしに最悪のくじです。
では、この人がそのまま持ち続けたらどうなったか。
- 8年目(2007年6月):一度は +37.6% まで含み益が膨らむ
- 10年目(2009年3月):リーマン・ショックで -42.8% まで転落
- 13年目:まだ -5.7%(水面下)
- 13年10ヶ月目(2013年1月):ようやくプラス転換
- 15年目:+63.5%
- 20年目:+195.1%
👉 最悪のくじを引いた人ですら、持ち続けた場合は15年で6割増、20年で3倍になっていました。
逆に言えば、この+63.5%を受け取れたのは、8年かけて育てた含み益が暴落で消え、そこから4年以上マイナスの画面が続いても売らなかった場合だけです。20年240ヶ月のうち、マイナスだった月は112ヶ月——ほぼ半分は水面下でした。
「15年持てば負けなかった」という統計は、途中の含み損に耐えた人にだけ配られた結果でした。下落の最中に持ち続けることについては、最高値のときに投資をやめたくなる心理と合わせて読んでみてください。
「15年」を、どこまで信じていいか
便利な数字ほど独り歩きするので、この検証で言えるのはここまで、という線を引いておきます。
- S&P500を使ったのは、155年分の月次データがあるからです。S&P500を推奨する話ではなく、米国株の過去が例外的に恵まれていた可能性は消せません
- 「15年」は将来の約束ではありません。円建て77年の記録であり、世界恐慌級を含めば延びた可能性が高い。実際、同じ数え方でドル実質は21年でした
- これは一括→持ちっぱなしの数字です。毎月の積立で「何年目から元本割れしなくなるか」は別の計算になります(これはいずれ、別の記事で数えます)
- 物価の調整:円建ては名目です。年2%のインフレを考えるなら、実質の「負けない年数」はもう数年延びると見ておくのが安全です
- 税金・売買コスト・信託報酬は引いていません
まとめ|「何年持てるか」は、始める前に決めておく数字
過去はこうでした。
- 円建てのS&P500は、15年持って元本割れで終わったケースがゼロだった(1949〜2026年・77年分)
- ドル建てでは名目16年・実質21年。シーゲルの「17年」も、データと数え方しだいで動く「前提とセット」の数字だった
- 10年ではまだ足りなかった。最悪のケースは10年持っても-42.8%
- その最悪のくじを引いた1999年3月組も、持ち続けた場合は15年で+63.5%、20年で3倍になっていた
- この統計は「途中の含み損に耐えた人」にだけ配られた結果である
👉 「何年で増えるか」は誰にも選べません。でも「何年持てるお金で投資するか」は、始める前に自分で選べます。
15年以内に使う予定のあるお金は、全額を株式に入れない。
逆に、15年以上使わないお金なら、途中の暴落は「過去には全員が通り抜けた道」だと知っておく。
数字の使い方は、それで十分です。
この記事は「入れたあと、何年持つか」の話でした。その手前の「まとまったお金を、そもそもどう入れるか」——一括か、分割か——は、一括投資と分割投資、過去77年で勝ったのはどっちかで検証しています。
- データ:Robert Shiller公開のS&P500月次データ(配当再投資)。ドル実質=米CPIで物価調整(1871年1月〜2026年)。円建て=円換算・名目(ドル円はBIS国際決済銀行の月中平均 1957年〜、1949年4月〜1956年は固定相場の360円。日銀の月中平均とクロス検証済み)
- 方法:各月初に一括投資→N年後の評価額が投資額未満なら「負け」。開始月を1ヶ月ずつずらした全ての期間で数える(例:円建て15年は748通り)
- 税・売買コスト・信託報酬は未考慮
- すべて過去の結果であり、将来の成果を約束するものではありません
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シリーズ2本目。「円建てで検証する」ことの中身——為替が変えるもの・変えないもの——はこちらです。

「持つ」の手前、まとまったお金の「入れ方」。一括と分割を同じ77年で数えた検証です。

「米国株の過去は例外的に恵まれていたのでは?」という疑いに向き合った記事です。

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この記事の出発点になった「17年」は、ジェレミー・シーゲル『株式投資』から来ています。株式・債券・金・現金の200年分のリターンを積み上げて、「株式は、長く持つほど負けにくい資産だった」ことを示した、長期投資の古典です。
僕がこの検証をやろうと思ったのも、この本の看板数字が「円で暮らす自分にも当てはまるのか」を確かめたかったからでした。
SNSで独り歩きしている数字の出どころを、原典で確かめる。その体験ごと手に入る1冊です。
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本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
