がん保険はいらない?「2人に1人ががんになる」の正体と、僕が入らない理由

「日本人の2人に1人が、生涯で一度はがんになる」。

この数字の前で、がん保険に入らないのは無謀に見えるかもしれません。
それでも僕は、がん保険に入っていない。

根性論でも楽観論でもありません。

この記事でわかること
  • 「2人に1人ががんになる」という確率の中身
  • 公的保険がカバーする範囲
  • 保険料を積立投資に回した場合の実データ(2008年〜の18年分)

この3つの数字を並べると、答えはかなりはっきり出ます。

たとえば月3,000円の保険料。
18年で総額66万円です。
この66万円を「どう持つか」の違いだけで、手元に残る金額は200万円以上変わっていました——これは仮定の話ではなく、2008年からの実データの話です。

この記事では、がん保険に入らないという判断の根拠を、統計・制度・実データの順に整理します。
読み終わったとき、「入る・入らない」をご自身の家計で判断できる状態になっているはずです。

目次

「2人に1人ががんになる」に抜けている視点

まず、保険会社の広告で必ず目にするあの数字から確かめます。

国立がん研究センターの最新統計(2023年データ)によると、生涯でがんと診断される確率は男性61.1%、女性50.1%。
「2人に1人」は誇張ではなく、事実です。

ただし、この数字には時間軸が抜けています。

「生涯で」の生涯とは、平均寿命を超えた先までの累積です。
では、現役世代のうちに——たとえばこれから20年のうちに——がんと診断される確率はどれくらいでしょうか。

同じ国立がん研究センターのデータ(2021年)で、現在の年齢別に見るとこうなります。

現在の年齢別にみた10年後・20年後までのがん罹患リスクと生涯累積の比較(男性・女性)
  • 現在40歳の男性が50歳までにがんと診断される確率:1.6%
  • 同じく60歳までなら:6.4%
  • 現在50歳の男性が70歳までなら:18.6%

👉 「2人に1人」の大半は、70代以降に起きる。現役世代の20年間で見れば、確率は1桁%です。

一つだけ注意があります。
女性は事情が少し違い、乳がん・子宮がんなどの影響で40代の罹患リスクが男性より高めです(現在40歳の女性が50歳までにがんと診断される確率は4.2%と、男性の2.6倍)。
「若いうちは大丈夫」と一律には言えない点は、フェアに書いておきます。

とはいえ、です。

保険に入るかどうかは、確率だけでは決まりません。
確率が低くても、起きたときに家計が破綻するなら保険で備えるべきですし、起きても貯えで吸収できるなら保険は要りません。

だから次に見るべきは、「がんになったら実際いくらかかるのか」です。

がんの治療費は実際いくらか——公的保険の守備範囲

日本で健康保険証を持っている限り、がんの標準治療(手術・抗がん剤・放射線)は公的保険の対象で、自己負担は原則3割です。

さらに、高額療養費制度があります。
1ヶ月の自己負担に上限を設け、超えた分は払い戻される仕組みです。

年収370〜770万円の会社員なら、月の上限はおよそ8万円台。
医療費が月100万円かかっても、自己負担はその範囲に収まります。

「でも、その高額療養費が改悪されたんでしょう?」——はい。
ここを曖昧にせず、数字で押さえます。

  • 2026年8月(施行済み):全所得区分で上限を一律引き上げ。年収370〜770万円層は月約80,100円→約85,800円(+約7%)
  • 2027年8月:所得区分を13区分に細分化し、同層は月約110,000円まで引き上げ(現行比+約38%)

最終的な上げ幅は月およそ3万円。
保険会社や保険ショップがこれを「だから保険が重要」と言い始めているのも知っています。

では、上がった後の「最悪の1年」を計算してみましょう。

高額療養費には多数回該当という仕組みが残っています。
直近12ヶ月で3回上限に達すると、4回目以降の上限は月44,400円に下がります。
これは今回の改定後も維持が決まっています。

つまり、治療が長引いて1年間毎月上限まで払い続けた場合でも

  • 現行(2026年8月〜):85,800円 × 3ヶ月 + 44,400円 × 9ヶ月 = 約66万円
  • 2027年8月以降:110,000円 × 3ヶ月 + 44,400円 × 9ヶ月 = 約73万円

さらに今回の見直しでは、月単位の上限とは別に年間の上限額も新設されました。
年収約370〜510万円の層では年間53万円、住民税非課税世帯では年間29万円。
治療が長期化しても、そこでストップがかかります。

👉 かなりタフな1年を想定しても、保険診療の自己負担の天井はおよそ70万円。これが「備えるべき損失」の実際のサイズです。

もちろん、差額ベッド代や通院交通費、ウィッグ代など保険外の出費は別途あります。
それでも「がんになったら数百万円」というイメージと、制度が実際に守ってくれる範囲との間には、大きな距離があります。

制度改定の詳細と「それでも医療保険はいらない」理由は、こちらで深掘りしています。

高額療養費制度の上限引き上げ【2026年8月施行】それでも医療保険はいらない理由

思考実験——AさんとBさん、18年後の答え合わせ

ここで思考実験をします。
登場するのは、2008年春に40歳だった同僚のAさんとBさん。
考え方だけが違う2人です。

Bさんは、がん保険に加入しました。
診断一時金100万円に入院・通院・先進医療特約をつけた標準的な構成で、保険料は月3,000円。

Aさんは、同じ月3,000円を全世界株式インデックスに積み立てました(今で言えば、NISAでオルカンを積み立てるイメージです)。

そして18年後の2026年夏。
58歳になった2人が、同じがんと診断されたとします。
治療内容も同じ、自己負担は先ほどの計算の70万円としましょう。

Bさんには診断一時金100万円が振り込まれます。
「保険に入っていて本当によかった」——心からそう思うはずです。
給付100万円から自己負担70万円を払い、手元には30万円が残ります。

では、Aさんの口座はどうなっていたか。

ここからは概算やイメージではなく、実データです。
オルカンのベンチマークであるMSCI ACWIに連動するETF(配当込み)を円換算した実績で、2008年4月から2026年7月まで月3,000円・220回積み立てた結果を計算しました。

  • 払込総額:66万円
  • 2026年夏の評価額:約327万円(払込の約5倍)

自己負担の70万円を全額取り崩しても、Aさんの手元には約257万円が残ります。
Bさんの30万円との差は、約227万円

月3,000円をがん保険に払ったBさんと全世界株インデックス積立に回したAさんの18年間の比較(実データ)

同じ月3,000円。
同じがん。
「入っていてよかった」と実感しているBさんの裏側で、これだけの差が静かに開いていました。

正直に言うと、この18年がずっと順風だったわけではありません。
開始から3年半以上たった2011年末の時点でも、Aさんの評価額は12.7万円と、払込額13.5万円を下回っていました。
数年単位の含み損に耐えて積み立て続けた先の、約5倍です。

※試算の前提:MSCI ACWI(オルカンのベンチマーク)連動ETFの配当込みドル建てリターン×ドル円実勢で円換算。信託報酬・税は考慮していません。オルカン自体の設定(2018年10月)以降の期間では、この試算とオルカンの実績リターンがほぼ一致することを確認しています。そして言うまでもなく、これは過去の実績であり、将来の18年が同じである保証はありません。

「2年目にがんになっていたら」——保険が勝つ条件と、保険会社が見ているもの

「それは結果論だ。積立が育つ前にがんになったらどうする」

その通りです。
ここを見ないと、この比較はフェアになりません。

もし2人が2年目の2010年春にがんと診断されていたら。
Aさんの積立は払込7.2万円に対して評価額8.2万円。

とても治療費はまかなえず、貯蓄を取り崩すことになります。
一方Bさんには100万円。
圧勝です

これが保険という仕組みの本来の機能です。
貯えが育つまでの「時間差」を埋める——保険に存在意義があるとすれば、この一点です。
ただし、その「時間差の保障」にいくらの値札が付いているのかは、この後すぐ見ます。

その値札の話に入る前に、一つ紹介したい言葉があります。

「1人の死は悲劇だが、100万人の死は統計である」——スターリンの言葉として知られる有名な一節です(実際の出典には諸説あります)。

あなたやあなたの家族ががんと診断されたら、それは人生を揺るがす悲劇です。
しかし保険会社の料率表の中では、あなたは100万人の統計の1人にすぎません。
保険会社は年齢別の罹患率を隅々まで計算し尽くしたうえで、2年目に罹患するBさんに100万円を払ってもなお、加入者全体では確実に利益が出る保険料を設定しています。

だから、AさんとBさんの差額約227万円は偶然ではありません。
分解すると、出どころは2つです。

1つ目:付加保険料。 保険料には、将来の給付に充てる「純保険料」に加えて、保険会社の運営経費と利益である「付加保険料」が上乗せされています。
名前の付け方でごまかされそうになりますが、要は「手数料」です。
投資信託なら信託報酬0.1%の差で大騒ぎする僕たちが、保険ではこの手数料がいくらなのかすら知らされないまま契約している——多くの保険会社は、内訳を開示していません。

2つ目:リスクと対価の非対称。 Aさんは株式の値動きを18年間引き受け、その対価としてリターンを受け取りました。
数年単位の含み損に耐えた見返りで、受け取りに上限はありません
では、Bさんは保険料と引き換えにリスクを手放せたのかというと、そうではありません。別のリスクを、対価なしで引き受けています。
罹患しないまま払い込みを終えるリスク。給付額を超えて払い込んだ後に罹患するリスク。そして罹患しても、受け取りは契約した給付額で頭打ち——保険会社が集めた保険料を運用してどれだけ利益を出しても、Bさんに支払われるのは100万円のままです。

「2人に1人ががんになる」を裏返せば、およそ2人に1人は、給付を受け取らないまま保険料を払い終えるということでもあります(男性の約4割、女性の約5割は、生涯がんに罹患しません)。
保険は本来、相互扶助の仕組みのはずです。
しかし料率は、罹患した人に給付を払い、罹患しなかった人の”寄付”を受け取って、なお確実に利益が残るように設計されています。

そもそも、2人に1人が受け取る事象は、保険という仕組みに向いていません。
相互扶助が成立するのは「確率は低いが、当たったら破綻する」損失を、大勢で少しずつ支え合うときだけ。

半分の人が当たるなら、それは支え合いではなく、手数料を上乗せした割り勘です。
「2人に1人ががんになる」という広告は、よく考えれば「この保険は相互扶助として成立しません」と自分で言っているようなものです。

実は、この構造には身近な比較対象があります。
ギャンブルです。

公営ギャンブルは掛け金の約25%、宝くじは半分強を、胴元が先に差し引きます。
では、がん保険の「胴元の取り分」は何%なのか——ほとんどの保険会社は、これを公開していません。

そして胴元は、残りを「当たった人」だけに分配します。
当たる人が少ないほど、胴元の儲けは大きくなる。

この構造でがん保険に「勝つ」——払った以上に受け取る——とはどういうことか。
「自分が平均より早くがんになること」に賭けて、当てるということです。

投資をギャンブルだと思っている人が見落としている“本当のリスク”

👉 がん保険に入るとは、確実な手数料を払い、上限なく増える力を手放し、それでも「当たらなければ全額寄付」のリスクだけは自分に残す、ということです。

「保険会社が悪い」という話ではありません。
彼らは統計に基づいて商売をしているだけです。
ただ、テーブルの反対側に座る僕たちも、同じ統計を見てから座るかどうかを決めていい、という話です。

それでも残る不安——先進医療と収入減

数字で納得しても、残る不安が2つあると思います。
順に見ます。

「先進医療は公的保険が効かないんでしょう?」

事実です。
たとえば陽子線治療の技術料は約327万円(2025年11月改定)で、全額自己負担。
先進医療特約はこのための保障です。

ただし、2つ補足させてください。

1つ目。
実際に先進医療が必要になる確率は、がんに罹患する確率よりさらに圧倒的に低いという事実です。

粒子線治療の適応は部位や条件が細かく限定されていて、がん患者全体から見ればごく一部。
「がんになる確率×そのうち先進医療の対象になる確率」という掛け算で考えると、月々の特約保険料が備えている事態は、宝くじの当選に近い領域まで細くなります。

2つ目。
「先進医療」は「最先端の優れた治療」という意味ではありません。 保険適用外なのは「高度すぎるから」ではなく、有効性がまだ標準治療として確立したと認められていない、評価段階の治療だからです。

評価の結果、有効と認められたものは順次保険適用に移ります(実際、小児がんや一部のがんに対する陽子線・重粒子線治療は、すでに保険適用になっています)。
つまり「先進医療を受けられないと最善の治療を逃す」という恐怖は、構図がそもそも逆なのです。
本当に有効だと確認された治療は、高額療養費の傘の中に入ってくる。

そのうえで、さっきの数字を思い出してください。
Aさんの評価額は約327万円でした。

陽子線治療の技術料と、偶然ですがほぼ同額です。
つまり月3,000円を18年積み立てた人は、万一「評価段階の治療に賭けたい」と自分で判断した場合でも、その技術料を自分の口座からそのまま払えるところまで来ていた。
特約という「借り物の安心」ではなく、何にでも使える現金でです。

「治療で働けなくなったら、収入が途絶えるのでは?」

会社員には傷病手当金があります。
連続する休業4日目から、給料のおよそ3分の2が最長1年6ヶ月支給される公的保障です。
住宅ローンの団信にがん特約が付いている人も多いはずです。

自営業・フリーランスの人には傷病手当金がありません。
だからこそ備えを厚くすべきですが、その手段は「がんのときだけお金が出る保険」ではなく、がんでもケガでも廃業でも効く生活防衛資金を会社員より厚く(生活費の12ヶ月分が目安)持つことです。

収入減への備えの本丸は、がん保険ではなく生活防衛資金です。
いくら持てば十分かは、こちらで整理しています。

生活防衛資金はいくら必要?2026年・物価高とNISA満額時代の最低ライン

それでも「必要な人」はいるのか——がん保険に限れば、いない

ここまで読んで、こう思った人もいるはずです。
「理屈は分かった。でも、貯蓄がまだない人には必要なのでは?」

僕の答えははっきりしています。

👉 がん保険に限って言えば、必要な人はいません。

「貯蓄が少ない人には必要」——一見やさしいこの理屈を認めると、新卒社会人のほとんどが「がん保険に入るべき」になってしまいます。
でも、実際は逆です。

治療費の自己負担には天井があります。 月の上限、多数回該当、年間上限。
貯蓄が薄い時期でも「破綻級の損失」にならない設計が、公的保険の側にすでにあります

月3,000円は、貯蓄が少ない人にとってこそ大きい。 年3.6万円あれば、生活防衛資金は着実に育ちます。
「貯まるまでのつなぎ」のつもりで払う保険料が、貯まらない原因そのものになる

がん保険は、がんにしか効きません。 貯蓄なら、がんにも、ケガにも、失業にも、家族の緊急事態にも効きます

保険料を払うから貯まらない。
貯まらないから「やっぱり保険が必要」に見える。

この循環に入らないことが、資産形成の初手です。
これは僕の独自見解ではなく、山崎元さんをはじめ、保険の販売と利害関係のない発信者がほぼ共通してたどり着いている結論でもあります。

一つだけ、混同しないでほしい区別があります。
掛け捨ての死亡保険(生命保険)は、これとは別の話です。 小さな子どもがいて貯えがまだ足りない家庭にとって、稼ぎ手の死亡は「確率は低いが、損失が致命的」なリスク。
これは保険が合理的に機能する数少ない場面で、僕も否定しません。

がん保険が備えているのは「天井約70万円の医療費」と「傷病手当金でつながる収入減」。
死亡保障とは、備えるべき損失の桁がまったく違います。
同じ「保険」という名前で束ねずに、1本ずつ数字で判断する——それだけの話です。

僕の結論——生活防衛資金と積立が、僕のがん保険

正直に言うと、僕もかつては保険を「聖域」にしていた側です。
家族全体で月7万円の保険料を、中身をよく見ないまま何年も払い続けていました(この時の話は保険という「聖域」にメスを入れた日に書いています)。

その聖域にメスを入れて、数字で1本ずつ点検した結果が、今の形です。

僕の結論
  • がん保険:なし
  • 代わりに:生活防衛資金(生活費の6ヶ月分超)+NISAでの積立投資

僕にとってのがん保険は、証券口座と預金残高です。
罹患確率が1桁%の20年間に確実に66万円を払うより、その66万円を「がんにも、教育費にも、老後にも使える資産」として持つ。
今のところ、この判断を覆す材料は見つかっていません。

この決定への一番強い反論は、「明日、がんになるかもしれないじゃないか」でしょう。
その通りです。

だからこそ順番として、保険の検討より先に生活防衛資金を作る。
高額療養費制度がある日本では、天井約70万円の損失に耐える貯えさえあれば、明日の罹患は「悲劇」ではあっても「破綻」にはなりません。

👉 確率は保険会社が一番よく知っている。彼らが儲かる価格で安心を買い続けるか、同じ統計を見て自分の貯えで備えるか。

僕は後者を選びました。
この記事が、あなたが自分の家計で判断するための材料になれば嬉しいです。

すでに加入していて「解約がもったいない」と感じている人は、その心理の正体をこちらで書いています。

保険を解約できないのは「もったいない」からではない|本当の理由は別にある

貯蓄型・変額保険を「数字」で点検する方法はこちらです。

貯蓄型保険の見直し|変額保険は「数字」で全世界株と比べると答えが出る

【免責事項】
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ファイナンシャルプランナー(FP技能士)|東証プライム上場企業の会社員。
40代から資産形成に本気で取り組み、1年で純資産1000万円増を達成。
「今さら遅いかも…」と不安な方へ、データと実体験に基づく合理的な資産形成を発信しています。

目次