日本株の高配当ファンドが、売れています。
SBI日本高配当株式(分配)ファンドは設定から2年あまりで純資産2,000億円を突破。ETFの「NEXT FUNDS 日経平均高配当株50(1489)」は5,000億円を超えて、国内最大の高配当ETFになりました。
信託報酬0.099%という、インデックスファンド並みの低コストなアクティブファンドまで登場しています。「米国株はもう十分持っている。次は日本の高配当もありでは?」——そう考えている人も多いはずです。
結論から言うと、僕は高配当日本株ファンドをおすすめしません。
ただし、理由は「コストが高いから」ではありません。実質コストを運用報告書まで掘って検証すると、合格点のファンドはあります。
問題は、低コスト化では解決できないところ——日本市場の「厚み」——にあります。
この記事では、人気6本の中身を実際に調べた結果と、それでもおすすめしない理由を見ていきます。
人気の高配当日本株ファンド6本|実質コストを運用報告書で検証する
まず、いま資金が集まっている代表的な6本を並べます。
コストは「表記の信託報酬」ではなく、運用報告書に記載された総経費率(信託報酬+監査費用などの隠れコストを含む実質値)で見ます。
| ファンド | 型 | 信託報酬 (表記) | 総経費率 (実質) | 純資産 |
|---|---|---|---|---|
| SBI日本高配当株式(分配・年4回) | アクティブ | 0.099% | 0.10% | 2,199億円 |
| Tracers 日経平均高配当株50 | インデックス | 0.107% | 0.13% | 579億円 |
| 楽天・高配当株式・日本(四半期) | アクティブ | 0.297% | 0.34% (売買コスト込み約0.45%) | 246億円 |
| 日経平均高配当利回り株F(三菱UFJAM)※ | アクティブ | 0.693% | 0.69% | 2,989億円 |
| NEXT FUNDS 日経高配当株50 ETF(1489) | ETF | 0.308% | 0.37% | 5,290億円 |
| 日本好配当株投信(野村) | アクティブ | 1.21% | 1.21% (購入時手数料 最大3.3%) | 3,478億円 |
※純資産・総経費率は2026年7月時点・各ファンドの直近運用報告書。三菱UFJAMは現在新規購入停止中。
合格組:SBIとTracersのコストは本物
正直、この2本のコストは本物です。
SBIはアクティブファンドなのに総経費率0.10%。
売買委託手数料も半年で0.003%と極小で、表記とほぼ一致します。
Tracersの上乗せ分(0.02%ほど)も、売買コストではなく指数の商標使用料が主因。
どちらも「表記は安いが実質は数倍」というよくある落とし穴には該当しません。
落とし穴組:日本版SCHDと、流入トップの1.21%
一方で、残りは話が違います。
米国の人気高配当ETFになぞらえて「日本版SCHD」と呼ばれる楽天・高配当株式・日本は、表記0.297%に対して売買コストまで含めた実質は約0.45%。アクティブ運用の売買コストが乗って、表記の約1.5倍になっています。
そして一番驚いたのがこれです。
2026年6月に国内株式型で最も資金流入した高配当ファンド(+61億円)は、SBIでもTracersでもなく、信託報酬1.21%+購入時手数料最大3.3%の「日本好配当株投信」でした。
2005年設定の古いファンドが、いまも銀行・証券の窓口で売れ続けています。
表記と実質の差がなぜ生まれるかは、こちらで詳しく解説しています。
→ 投資信託の隠れコストとは?信託報酬では見えない実質コストの中身と見方
👉 低コストで合格のファンドは、確かにある。問題はここからです。
コスト合格でも、高配当ファンドの中身は「同じ顔ぶれ」
コストが合格なら、あとは中身です。
人気ファンドの上位組入銘柄を並べてみました。

見てのとおり、JTは調べた4本すべてでトップ10入り。MS&AD・武田薬品・三菱商事が4本中3本に入り、ソフトバンク、三菱UFJ・三井住友などのメガバンク、日本郵船などの海運も複数のファンドで顔を出します。
アクティブのSBIも、インデックスのTracers・1489も、選び方が違うはずなのに、出てくる答えはほぼ同じ。たばこ・銀行・商社・通信・海運の大型株詰め合わせです。
👉 どれを選んでも、中身はほぼ同じ。選んでいるようで、選べていない。
なぜ日本株の高配当ファンドは同じ顔ぶれになるのか
偶然ではありません。仕組みの問題です。
指数やファンドの設計図(算出要領・目論見書)を読むと、選べる銘柄を狭める条件が最初から組み込まれています。
制約①:そもそも母集団が狭い
日経平均高配当株50指数は、日経平均に採用されている225銘柄の中から利回り上位50を選ぶルールです。東証には約3,900社が上場していますが、スタート地点で225社に絞られています。
制約②:流動性で足切りされる
同指数は組入比率の決定に「流動性を勘案する」と明記しています。売買が薄い銘柄は、利回りが高くても比率を下げられるか、そもそも入りません。
制約③:時価総額で足切りされる
日経連続増配株指数(10年以上連続増配の銘柄を集めた指数)は、時価総額下位40%を機械的に除外します。小さい会社は、どれだけ増配を続けていても対象外です。
なぜこんな制約があるのか
ファンドを責めているのではありません。これは必要な制約です。
ファンドは何百億・何千億円という資金で同じ銘柄を売買します。時価総額が小さく売買の薄い銘柄を組み入れると、ファンド自身の売買で株価が動いてしまい、まともに運用できません。
つまり——優良でも小型の高配当株は、流動性と時価総額の2つの面から、ファンドには最初から入れられないのです。
米国との差は「市場の厚み」の差
ここまでの3つの制約は、根っこでひとつにつながっています。日本株市場そのものの「厚み」が、米国に比べて薄いということです。
厚みとは、投資の対象になる株が「何銘柄あって、合計でどれだけの規模(時価総額)があるか」——数と金額の掛け算のことです。
米国株市場は、時価総額で日本株市場のおよそ7〜8倍の規模があります。
高配当という条件で切り取っても、対象になる銘柄の数も、1社あたりの時価総額も、日本より大きい。
だからこそ、厳しく絞っても十分な数が残ります。

米国の高配当ETFであるVYMは618銘柄。
SCHDは「10年以上連続配当」などの品質条件で絞り込んで、それでも99銘柄が残ります。
日本の主要ファンドは30〜70銘柄です。
米国は、これだけ厳しく絞ってなお100銘柄が残る。
日本は、絞る前の母集団からして50前後しかいない。
この銘柄数の差は、市場の厚み——数×時価総額——の差が、そのまま形になったものです。
👉 高配当ファンドは、厚い市場でないと成立しにくい商品です。日本市場の厚みでは、条件で絞り込むほど選択肢がやせ細っていきます。
銘柄数が少ないと何が問題か|「分散が効かないファンド」になる
「同じ顔ぶれでも、50銘柄あれば十分では?」と思うかもしれません。
厚みの不足は、持つ人のお金に3つの形で跳ね返ります。
問題①:1銘柄の事故が直撃する
銘柄数が少ないほど、1社あたりの比率は上がります。
三菱UFJAMの高配当利回り株ファンドは30銘柄で、上位10社だけで約58%。
1社が減配や不祥事を起こせば、分配金と基準価額にそのまま響きます。
618銘柄のVYMなら、1社の事故は薄まって誤差になります。50銘柄では、薄まりません。
問題②:セクターが同じ方向に動く
顔ぶれを思い出してください。銀行・商社・自動車・海運・たばこ。
これらの多くは景気や金利に同じ向きで反応する銘柄です。
景気後退が来れば、銀行も商社も海運も一緒に沈みます。
銘柄数は50でも、値動きの実態はもっと少ない束です。
数字の上の分散と、実質の分散は違います。
そしてこの偏りは配当だけの問題ではなく、資産全体の値動き(=リスク)の振れにも効いてきます。
分散が足りないぶん、配当の安定と値動きの安定が両方とも削られます。
問題③:「高利回りの罠」を薄められない
配当利回りが高く見える銘柄には、業績悪化で株価が下がったせいで利回りが上がっている銘柄が混ざります。いわゆる高利回りの罠です。
米国のSCHDは「10年以上連続配当+財務指標」という品質スクリーンでこれを除外できます。母集団が厚いから、絞ってもファンドが成り立つ。
日本で同じ絞り込みをしたら、残る銘柄数ではファンドが組めません。だから利回り上位を機械的に拾うしかなく、罠の混入を仕組みで防げないのです。
👉 銘柄数が少ない高配当ファンドは、ファンドの形をした集中投資です。
個別株で自前ポートフォリオを組むという選択肢
じゃあ日本株の配当はあきらめるしかないのか。——道はもう1つ残っています。
個別株で、自前の高配当ポートフォリオを組むことです。
ファンドに入れられない小型の優良株も、個人なら買えます。
個人の資金量なら流動性の制約はほぼ関係ありません。
実は日本株の高配当投資は、昔からこちらが本筋です。
ただし、この道は、米国高配当ファンドを1本買うよりはるかに知識が要ります。
- 減配リスクの判定(業績・配当性向・キャッシュフローを自分で読む)
- 事故が起きたときの入れ替え判断(塩漬けにしない規律)
- セクター分散の設計(銀行・商社に偏らせない)
SCHDならファンドのルールが自動でやってくれることを、全部自分の手でやることになります。「ファンドがダメなら個別株で気軽に」という話ではまったくありません。
👉 手間と勉強をかけられる人だけの道です。かけられないなら、入り口に立たない方がいい。
まとめ:高配当日本株ファンドをおすすめしない理由
整理します。
- 実質コストは、SBI・Tracersなど合格のファンドが確かにある
- しかし中身はどれも同じ顔ぶれの大型株詰め合わせ
- 原因は商品の欠陥ではなく、日本市場の厚み不足(母集団・流動性・時価総額の3つの制約)
- 厚みが足りないファンドは、1銘柄の事故・セクター集中・高利回りの罠を薄められない
- これはコストと違って、商品改良では解決できない
だから僕は、コストが本物のSBIやTracersであっても、高配当日本株ファンドをおすすめしません。
そのうえで、「配当が欲しい」の中身によって道は分かれます。
①資産を最大化したい人
高配当ファンドではなく、無分配のインデックスファンド(全世界株式など)が合理的です。分配金は受け取るたびに課税され、複利を削ります。
②配当の実感が続ける力になる人
配当を受け取ることで投資を続けられるなら、それは立派な効用です。
ただしその場合も、選ぶなら厚みのある米国の高配当ファンドが先です。
618銘柄・品質スクリーンという「日本では作れない設計」が、向こうにはあります。
それでも、条件を2つ付けます。
1つ目。
①で書いたとおり、分配金には課税が先行します。
無分配のインデックスファンドより資産形成の効率は落ちる——この事実を理解して、それでも配当の効用を取ると自分で判断した人だけが買う商品です。
2つ目。
高配当投資には「買った時の株価で配当利回りがほぼ決まる」という性質があります。
毎月積み立てて時価で持ち続けるインデックス投資と違い、買うタイミングの巧拙が結果に出やすい。
「人気だから今」で飛びつく商品ではありません。
③それでも日本株の配当が好きな人
個別株で自前ポートフォリオを学ぶのが本筋です。学ぶ時間が取れないなら、ファンドで持つのは「楽しみ枠」と割り切って、総資産の数%までに線を引くことをすすめます。
僕自身の線引きも書いておきます。
楽しみとしての高配当日本株を否定はしません。
ただし、資産形成の主力には据えない。
主力は今日も、低コストの無分配インデックスファンドです。
▼ 「厚みのある米国高配当」の実力と限界は、こちらで検証しています

▼ 高配当の「新ファンド」を見抜く3つのチェックはこちら

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本記事の注記
- 純資産総額・資金流入は2026年6月末〜7月時点、総経費率は各ファンドの直近交付運用報告書(2025年下期〜2026年上期対象)の年率換算値です
- 楽天・高配当株式・日本の「約0.45%」は、運用報告書の1万口当たり費用明細(売買委託手数料含む)を年率換算した目安です
- 組入上位銘柄は各社開示資料(2025年12月〜2026年7月時点)、VYM・SCHDの銘柄数は2026年時点の公表値です
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
