「ゴールドプラスがオルカンにもS&P500にも圧勝している」——1年前、SNSにはそんな声があふれていました。
そしていま、同じ場所には、こんな声が並んでいます。
「含み益200万から8万になって草」
数字で見ると、不思議な光景です。直近1年のトータルリターンは、プレーンなeMAXIS Slim S&P500が +31.2% なのに対し、Tracers S&P500ゴールドプラスは +45.8%(2026年8月4日時点)。1年で見れば、いまも勝っています。
なのに、年初来ではマイナス。保有者の声は明るくない。
この記事では、評判・口コミの「いい声」と「悪い声」の両方を並べた上で、その声がなぜ生まれるのかをデータで検証します。
先に結論を言います。ゴールドプラスの勝ちを作ったのは「金の強さ」ではなく「レバレッジ」でした。
そして、もしあなたが資産形成の序盤にいるなら、金にもゴールドプラスにも、悩む時間すら必要ありません。なぜそう言えるのか、順番に説明します。
ゴールドプラスの評判・口コミ|保有者のリアルな声
まず、実際の声から見ていきます。Yahoo!ファイナンスの掲示板(Tracers S&P500ゴールドプラス)に、2026年7月末〜8月上旬に投稿された声です。
ポジティブな声:
「とうとう4200超えました」(金先物価格・2026/8/5)
金価格が持ち直した日には、こうした声とともに掲示板が明るくなります。基準価額が前日比+3%を超えた日の報告には「良い」が50件以上つきました。
ネガティブな声:
「含み益200万から8万になって草」(2026/7/31)
「最高値で利確すればよかった、上がらない日々をみてるのしんどくなる」(2026/8/4)
「気絶しておきたいところだが…実際のところ、絶対無理だよな」(2026/8/3)
「もうこれ以上絶対さがるな。怖いねん」(2026/8/5)
一日ごとに天国と地獄が入れ替わる——これがゴールドプラス保有者のいまです。実際、基準価額は8月3日に −3.5%、翌4日に +2.2%、5日に +3.4%。日々の値動きがプレーンなインデックスの約2倍あるので、感情も2倍で振り回されます。
そして、この掲示板でいちばん本質的な声が、これです。
「そんな悪い相場でもないのに年初来マイナスなの分かんないっす」(2026/8/4)
そのとおりで、プレーンなS&P500インデックスは年初来 +11.3%。悪い相場ではありません。なのにゴールドプラスは年初来 −0.9%(いずれも2026/8/4時点)。この「分かんない」に答えることが、ゴールドプラスの正体を知ることそのものです。順番に分解していきます。
ゴールドプラスとは|株100%+金100%で”隠れ2倍”の仕組み
ゴールドプラスは、アモーヴァ・アセットマネジメント(旧・日興アセットマネジメント)が運用する「Tracers」シリーズの愛称です。現在は3本あります。
- Tracers S&P500ゴールドプラス
- Tracers NASDAQ100ゴールドプラス
- Tracers MSCIオール・カントリー・ゴールドプラス(2026年3月設定の3本目。オルカン版)
このうちオルカン版は設定されたばかりで1年の実績がないため、この記事ではS&P500版とNASDAQ100版を主役に検証します。
なぜ「200%」=実質レバレッジなのか
ゴールドプラスの仕組みはシンプルです。純資産の100%で株価指数に投資し、さらに同額(100%)で金(先物)にも投資します。
合計すると、自己資金1に対して2倍のポジションを持っていることになります。
これがゴールドプラスの「攻めながら守る」の正体です。
聞こえはいいですが、要するに自己資金の2倍を動かす隠れたレバレッジ。
金を先物で持つために、見えないコスト(金利相当分)も毎日かかり続けます。
だから新NISAの対象外
ゴールドプラスはデリバティブ(先物)を使うため、新NISAの成長投資枠・つみたて枠のどちらの対象でもありません。
「長期で積み立てる初心者向けの優良ファンド」という枠からは、制度の側で最初から外されている商品だ、ということです。
1年前に飛びついたらどうなったか|インデックスとのリターン比較
では、1年前に買っていたらどうなっていたか。ここで3つを並べます。
- ①プレーン指数:株100%のインデックス(eMAXIS Slim S&P500/ニッセイNASDAQ100)
- ②自分で50/50:株50%+金50%を、レバレッジなしで自分で持った場合(計算値)
- ③ゴールドプラス:株100%+金100%=200%
直近1年(2026年8月4日時点・投資信託協会の日次基準価額から算出)のトータルリターンはこうなりました。
| ①プレーン指数 | ②自分で50/50(無レバ) | ③ゴールドプラス | |
|---|---|---|---|
| S&P500系 | +31.19% | +33.4% | +45.83% |
| NASDAQ100系 | +35.27% | +35.5% | +49.56% |
③のゴールドプラスが勝っているのは、いまも事実です。ただし、つい2ヶ月前まで「ほぼ2倍」あった勝ち幅は、大きく縮みました。問題は、この勝ちの中身が何でできているか。そして勝ち幅がなぜ縮んでいるのかです。
あなたが買ったのは”金の強さ”か、レバレッジか|勝ちの正体を分解する
ここで多くの人がつまずくので、先に一つだけ潰しておきます。
「金はこの1年で円建て +35.7% も上がった。なのに②の50/50がプレーン指数とほぼ同じなのはおかしい」と感じるはずです。
カラクリは機会費用です。金を50%混ぜるということは、同じく大きく上がった株を50%減らすということ。
だから合計のリターンはほとんど動きません。S&P500系では金を混ぜて +2.2pt、NASDAQ100系では金と株がほぼ同率だったので +0.2pt。「金が上がったこと」と「金を混ぜた効果」は、まったく別物なのです。
ここから分解すると、勝ちの正体がはっきりします。
- ①→②(金を混ぜた効果):S&P500 +2.2pt / NASDAQ100 +0.2pt → ほぼゼロ
- ②→③(レバレッジの効果):S&P500 +12.4pt / NASDAQ100 +14.1pt → 勝ちのほぼ全部
👉 ゴールドプラスの「勝ち」を作ったのは金ではなく、レバレッジでした。
「金がすごいから勝っている」と思って買った人は、自分が手にしているものを取り違えています。実際に握っているのは、金の果実ではなく、自己資金2倍ぶんのリスクです。
「金がすごい」という話題に集まるお金と、話題に関係なく積み上がるお金。この2種類は、投資信託全体の資金流入データでも分かれて見えます。
→ 話題を追う“回転資金”と、動かない積立の“本流”——7月の2.6兆円を分解する
ゴールドプラスのリスク|下げも2倍で返ってくる(天井から−18%が現実に)
レバレッジは、上げ相場では2倍の味方になります。
問題は、下げ相場でも同じ仕組みが2倍で牙を剝くこと。
そしてこれは、もう「これから起きるかもしれない話」ではありません。
ゴールドプラス2本は、すでに天井を打っています。S&P500版は2026年3月、NASDAQ100版は6月頭のことです。
1年前を起点にすると、S&P500版は累積 +78.2% の天井から +45.8% へ、NASDAQ100版は +84.3% から +49.6% へ。どちらも天井から約2割(−18%台)下げています(2026/8/4時点)。
直近3ヶ月だけ切り出すと、こうです。
| 直近3ヶ月リターン | |
|---|---|
| S&P500ゴールドプラス | −9.36% |
| NASDAQ100ゴールドプラス | −10.54% |
| eMAXIS Slim S&P500 | +5.87% |
| ニッセイNASDAQ100 | +5.10% |
プレーンな指数が静かに上げ続けているこの3ヶ月で、ゴールドプラスはマイナスに転じています。
金の値動きが反転した瞬間、上げを2倍で取れた仕組みが、下げも2倍で返してきたわけです。
なぜ”悪くない相場”で年初来マイナスなのか
掲示板の「そんな悪い相場でもないのに年初来マイナスなの分かんないっす」に、ここで答えます。
答えはシンプルで、金が天井を打ったからです。円建ての金価格は2026年2月の25,137円/gをピークに、7月には21,479円/gまで約15%下げました(田中貴金属・月次平均)。株が年初来 +11% 上げても、同額で持っている金が2月から下げ続ければ、合計はほぼゼロ。さらに信託報酬と金利相当の見えないコストが毎日引かれ続けるので、結果は小さなマイナスに沈みます。
「株も持っているのに、株の上げが消える」——これが、株100%+金100%という構造の、下り坂での顔です。金が強い年には2倍の追い風に見えた同じ仕組みが、金が止まった瞬間、株のリターンを金が食いつぶす仕組みに変わります。
→ レバレッジ型商品を長期で持つと利益がどう削れていくかは、日本株4.3倍ブルの6年データで具体的に検証しています
僕の周りでも、「金がすごい、儲かった」という声はちょくちょく聞きました。正直な感想は「運が良かったねぇ」です。
そして同時に、こうも思っていました。この人たちは、これから売り時で悩んだり後悔したりすることになる。大変だなぁ、と。
そもそも金に”値上がり”を期待するのが間違い|歴史が示す金の本当の役割
ここまでは直近1年の話でした。
でも、もっと根っこに、見落とされている事実があります。
そもそも金にキャピタルゲイン(値上がり益)を期待すること自体が筋違いだ、という点です。
よく引用されるのが、ジェレミー・シーゲルの「200年チャート」です。1802年からの実質リターンで株は年率約6.9%、対して金は約0.6%——金はほとんど増えなかった、というもの。
ただ、この数字をそのまま突きつけるのはフェアではありません。1971年まで、金はドルに固定されていました(金本位制〜ブレトンウッズ体制)。
法律で価格が動けなかった時代を含めて「金は上がらない」と言うのは、さすがに金に酷です。
公平に見るなら、金が自由に動くようになった1971年のニクソン・ショック以降で比べるべきでしょう。そして——フェアな土俵で比べても、結論はほとんど変わりません。
1971年に100ドルを投じていたら、いまの価値はこうです。
- 金:約7,000ドル(年率 約8%)
- S&P500(配当再投資込み):約36,000ドル(年率 約11%)
理由は明快です。株式とは、利益を生み出す企業そのものです。企業は稼いだ利益を再投資し、価値を複利的に積み上げていきます。
対して金は、何も生みません。掘り出された金塊は、10年置いても20年置いても、金塊のままです。「複利的に価値が増えていく資産」か、「増えも成長もしない資産」か——この差が、長い時間をかけて決定的に開いていきます。
(※S&P500の数字は配当も再投資した「トータルリターン」。株が生んだ果実をすべて含めて測った値です)
もちろん、1971〜1980年や2000年代、2022年のように、数年〜10年単位で金が株を上回った局面はあります。
でもそれは「金が成長するから」ではありません。
インフレや危機のときに、逃げ場として買われるからです。
金の本当の役割は「インフレ・危機への保険」
ここに金の正体があります。金はリターンを生むエンジンではなく、インフレや危機に対する”保険”です。
株と値動きが連動しにくいので、暴落やインフレ局面で資産全体の揺れを和らげる——それが金に期待していい唯一の仕事です。
→ 金そのものを「安全資産」として持つべきか——リスク18%という金の実像はこちらで掘り下げています
ただし、です。
そのリスク調整が必要になるのは、資産規模がかなり大きくなってから。
僕の考えでは、億を超える資産があったとしても、優先順位は金より債券が先です。
金の出番は、さらにその先にしかありません。
見落とされている、いちばん危ういリスク
「金がすごい」で買った人が抱える最大のリスクは、含み損でも課税でもありません。「金はこれからもすごいだろう」と無意識に思い込んでいることそのものです。
直近の値動きが続くと信じてしまう——これは行動経済学でいう、典型的なバイアス(直近の傾向を未来へ引き延ばす思い込み)です。
僕自身は、金をポートフォリオに入れていませんし、検討もしていません。
理由はシンプルで、僕の資産形成のゴールは15年以上先にあり、「市場平均の株価は今より上がっている」とは信じられても、「金が15年後に上がっている」とは信じられない(インフレ分を除けば、なおさら)からです。長期で安心して持ち続けられるものは何か——それが、僕の最重要の判断基準です。
そもそも、その商品は誰のために作られたか
最後に、一歩引いて考えてほしいことがあります。ゴールドプラスは、誰が、なぜ作った商品でしょうか。
運用会社も、ビジネスです。金が上がり、人気が出た——その人気に乗って、売れる商品として組成されたのがゴールドプラスです。それ自体は悪いことではありません。
ただ、覚えておいてほしいのは、新しい商品が世に出るのは、たいてい相場が盛り上がった”後”だということ。
その象徴が、3本目のオルカン版(Tracers MSCIオール・カントリー・ゴールドプラス)です。設定は2026年3月。金がさんざん買われ、「ゴルプラがすごい」と話題になった後に登場しました。
運用会社は、売れるタイミングで商品を出します。「売れるから作られた商品」と「あなたに必要な商品」は、別物です。
結論|あなたは”金”が欲しかったのか、”レバ”が欲しかったのか
最後に、自分に一つだけ問いかけてください。あなたがゴールドプラスで欲しかったのは、「金」ですか? それとも「レバレッジ」ですか?
- 金をリスク調整として理解した上で、レバレッジも納得して買った人 → 何も問題ありません。当初の設計通りです。胸を張って持ち続けてください。
- 「金が値上がりするから」と思って買った人 → 期待した果実は、歴史が示す通り構造的にほとんど存在しません。手元に残ったのは、レバレッジのリスクだけ。上げ相場では2倍で勝てましたが、同じ仕組みが、いま下げを2倍で返し始めています。
誤解のないように、僕のスタンスを書いておきます。理由があって金をポートフォリオに入れている人は、その理由が崩れない限り、持ち続けていいと考えています。インフレや危機への保険として、資産全体の揺れを和らげる——その役割を理解して入れた金なら、直近の値動きで売り買いする必要はありません。
ゴールドプラスの問題は、金ではありません。レバレッジと、毎日かかり続けるコストです。そしてもっと問題なのは、「金がすごい」という話題だけで飛びついて、自分がいま何を握っているのか知らないこと。掲示板の「分かんないっす」は、その象徴です。
そして、もしあなたが資産形成の序盤にいるなら、僕の答えはもっとシンプルです。
👉 金やレバレッジで真剣に悩むのは、時間がもったいない。
その時間は、人生でもっと大事なことに使ってください。
本気で金をポートフォリオに組み入れたいと思うステージに来たときは、ゴールドプラスのような既製のレバレッジ商品ではなく、レバレッジなしで、自分で考えてリスク設計してください。
初心者〜中級の積立投資家に、金は要りません。特にゴールドプラスは要らない——これが、僕の正直な結論です。
→ では何を積み立てればいいのか——”指数で決まり、商品で差がつく”選び方はこちらで整理しています
▼ 金そのものを「安全資産」として持つべきか、まだ迷っている人へ

▼ 何を積み立てるか、NASDAQ100連動の具体的な商品比較まで見たい人へ

📚 僕の理解を支えた1冊
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金が長期で「増える資産」ではないことを、200年分のデータで腹落ちさせてくれた1冊です。「金がすごい」でゴールドプラスを買うべきか迷ったとき、判断の土台になりました。
本記事の注記
- リターンの数値は投資信託協会「投信総合検索ライブラリー」の日次基準価額(2026/8/4時点・分配金なし)から算出。金価格は田中貴金属工業の月次小売価格(平均)を使用。
- 「②自分で50/50」は「株インデックスの1年リターン×0.5+円建て金の1年リターン(+35.7%)×0.5」で算出した簡易計算値(取引コスト・リバランス未考慮)。
- 掲示板の声はYahoo!ファイナンス掲示板(Tracers S&P500ゴールドプラス・2026年7月〜8月)からの引用。個々の投稿は個人の感想です。
- ゴールドプラスは株100%+金100%の日次リバランス型のため、実績は単純な②の2倍ではなく、信託報酬・金利相当コスト・ボラティリティ(値動きの振れ幅)の分だけ目減りします。新NISA対象外。
- シーゲルの実質リターンは『株式投資 第6版』(対象1802〜2021年)。ただし金本位制下では金価格が固定されていた点に留意。
- 1971年以降の比較:金は年率約8%(100ドル→約7,000ドル)、S&P500は配当再投資込みで年率約11%(100ドル→約36,000ドル)。
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
