「3,000万円貯まったら、会社を辞められるだろうか」。
資産形成を続けていると、一度はこの計算をしてみたくなるのではないでしょうか。
僕はこの問いに、雰囲気ではなくデータで答えを出したくなりました。
使ったのは、ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授が公開している、1871年から2026年まで155年ぶんの米国株のデータです。
ここから取れる「30年間」は1,508通り。
その全部で「3,000万円を株式100%で持ったまま、生活費を取り崩し続けたらどうなったか」を計算しました。
先に核心だけ言います。
「3,000万円でFIREできるか」の答えは、資産額ではなく「資産が年間支出の何倍あるか」で決まっていました。
この記事を読み終わる頃には、あなた自身の生活費でこの計算ができるようになっています。
- 3,000万円・年300万円の取り崩しが、過去1,508通りの「30年」でどうなったか
- 分かれ目は金額ではなく「資産が年間支出の何倍か」だったこと
- 自分の年間支出で「何倍か」を計算して、過去データの上に現在地を置く方法
3,000万円で仕事を辞めたら、過去はどうなっていたか
まず設定を置きます。
資産3,000万円を全額インデックスファンド(株式100%)で持ち、毎月25万円=年間300万円の生活費を取り崩しながら30年暮らす。
年金や労働収入は入れず、資産だけで生き延びられたかを見ます。
過去155年の中の1,508通りの「30年」でこれを試した結果がこれです。
👉 30年後に資産が残っていたのは、1,508通りのうち260通り。
割合にして17.2%でした。
約8割のケースで、30年を待たずに資産が尽きていたことになります。
「3,000万円あれば辞められる」という感覚に対して、過去のデータはかなり厳しい答えを返してきました。
ただし、この数字を見て「3,000万円では無理」と結論づけるのは早いです。
この17.2%という数字は、3,000万円という資産額ではなく、別のものに支配されていたからです。
検証のやり方|155年・1,508通りの30年を全部試す
使ったのは、ロバート・シラー教授が公開している155年ぶん(1871年〜2026年)・配当再投資・物価調整済みのS&P500月次データです。
リタイア開始月を1ヶ月ずつずらした1,508通りの「30年」すべてで、株式100%のまま毎月末に生活費を取り崩しました。
細かい前提を確認したい方は、記事の最後に置いた「検証の前提」を参照してください。
ここから先は、結果の話だけを進めます。
株式100%にしたのは、僕自身の運用がそうだからです。
生活防衛資金と数年内に使うお金は最初から運用資金の外に置き、運用資金の中身は株式だけ。
この「2階建て」の考え方は最終目標額の記事で書いた通りです。
なお、税金・売買コスト・信託報酬は引いていません。
その分、現実はこの検証よりもう少し厳しくなります。この点は最後にまとめて整理します。
とりあえず全額NISAだと思っておいてくれればOKです。
分かれ目は金額ではなく「年間支出の何倍か」だった
1,508通りの結果を並べて見えたのは、成否を分ける変数が資産額そのものではないということでした。
効いていたのは、資産が年間支出の何倍あるか。つまり「3,000万円」ではなく「3,000万円÷年間支出」です。

この図の横軸が「年間支出の何倍か」、縦軸が「1,508通りのうち資産が尽きなかった割合」です。
さっきの17.2%は、3,000万円÷300万円=10倍という位置の数字でした。
同じカーブの上で、いくつかの点を拾ってみます。
| 資産が年間支出の | 30年生き残り(1,508通り中) |
|---|---|
| 10倍 | 260通り(17.2%) |
| 15倍 | 942通り(62.5%) |
| 20倍 | 1,269通り(84.2%) |
| 25倍(4%ルール) | 1,477通り(97.9%) |
| 28.6倍 | 1,504通り(99.7%) |
過去155年の中央値は13.4倍でした。
つまり「年間支出の13.4倍」を持って辞めた場合、ちょうど半分のケースで30年もった計算です。
ただし運の振れ幅は大きく、一番厳しい1929年10月(世界恐慌の直前の天井)に辞めた場合は32.5倍必要で、一番恵まれた1932年7月(大底)なら6.4倍で足りていました。
👉 「3,000万円でFIREできるか」という問いには、そのままでは答えが出ない。
「年間支出の何倍か」に直した瞬間、過去の答えが出ます。
3,000万円は、支出がいくらなら何%だったか
倍率が分かれ目なら、資産3,000万円を固定して、年間支出だけを動かせば答えの一覧が作れます。

| 年間支出 | 倍率 | 30年生き残り |
|---|---|---|
| 120万円(月10万円) | 25.0倍 | 97.9% |
| 150万円(月12.5万円) | 20.0倍 | 84.2% |
| 200万円(月17万円) | 15.0倍 | 62.5% |
| 250万円(月21万円) | 12.0倍 | 40.5% |
| 300万円(月25万円) | 10.0倍 | 17.2% |
| 350万円(月29万円) | 8.6倍 | 6.4% |
| 400万円(月33万円) | 7.5倍 | 1.7% |
👉 同じ3,000万円が、支出しだいで98%にも2%にもなっていました。
では、実際の生活費はどのあたりに来るのか。
思いつきの数字ではなく、総務省の家計調査(2025年平均)から、仕事を辞めた後の生活に一番近い実測値を置いてみます。
- 65歳以上・夫婦のみ無職世帯:月296,829円(年356万円)→ 3,000万円は8.4倍=生き残り5.4%
- 65歳以上・単身無職世帯:月161,435円(年194万円)→ 3,000万円は15.5倍=生き残り66.2%
※無職世帯の統計上の数値を使用するため65歳以上を明示しましたが、
この検証では年金受給を考慮していません。
ここで1つ、見落としやすい点があります。
上の金額は「消費支出+非消費支出」、つまり税金と社会保険料を含んだ数字です。
FIREの必要資産は生活費だけで計算されがちですが、仕事を辞めても住民税・国民健康保険・国民年金は請求され続けます。
夫婦世帯でこれが月32,850円。この前提が抜け落ちると、必要な資産の計算が1,000万円単位でズレます。
4%ルールとの関係|トリニティスタディと何が違うか
ここまで読んで、「4%ルール」を思い出した人も多いのではないでしょうか。
年間支出の25倍(=初年度4%で取り崩し開始)あればFIREできる、というあの経験則です。
出どころは1998年のトリニティスタディという研究で、米国の1926〜1995年のデータを使い、株式と債券の比率を5パターンに分けて「何%の取り崩しなら資産がもったか」を調べたものです。
取り崩し4%・30年(物価調整あり)の原典の結果を並べます。
| 株式:債券 | 30年後に資産が残った割合 |
|---|---|
| 100:0 | 95% |
| 75:25 | 98% |
| 50:50 | 95% |
| 25:75 | 71% |
| 0:100 | 20% |
最高は債券を25%混ぜた組み合わせの98%でしたが、株式100%でも95%。
一方で債券に寄せるほど数字は大きく崩れていました。
ただし年単位のデータで、試された30年は41通りです。
僕の検証は、これを株式100%のまま、155年・月次・1,508通りに広げたものと言えます。
結果は25倍で97.9%。時代を大きく広げても、原典の95%とほぼ同じ水準に着地しました。
👉 株式100%でも、「25倍あれば30年もつ」は過去、ほぼ成り立っていました。
債券を混ぜないと4%ルールが崩れる、ということはなかったのです。
同時に、97.9%の裏側も見ておきます。
25倍を持っていても資産が尽きた30年が、1,508通りのうち31通りありました。

その正体は、1929年の天井付近で辞めたケースと、1965〜69年(この後に高インフレと株価停滞が15年続いた)に辞めたケースの2グループだけです。
裏を返せば、「歴史的な天井の直前に、ぴったり25倍で辞める」という不運が重なったときだけ、25倍でも足りなかったということです。
この検証が言っていないこと
数字が強いほど、限界も同じ強さで書いておく必要があります。
この検証が言っていないことを並べます。
- S&P500を使ったのは、155年ぶんのデータがあるからです。S&P500を推奨する話ではありません。そもそも米国株の過去155年が例外的に恵まれていた可能性は消せません。この「うまくいった市場だけを見てしまう」問題は生存者バイアスの記事で書きました
- 為替を考えていません。この検証はドルベースの購買力で計算しており、「円で暮らす日本人が円換算で見たらどうなるか」は別の問いです。ここはこのシリーズの次回作で正面から検証します
- 税金・売買コスト・信託報酬を引いていません。実際の取り崩しでは、何をどの順で売るかで税負担が変わります。ここは資産の取り崩し方の記事で書いた通りです
- 年金を入れていません。「資産だけで30年もつか」を見るための意図的な設定です。現実には65歳から年金が入るので、必要な倍率はここから下がります。自分の年金込みの数字は老後資金シミュレーションの記事の手順で作れます
- すべて過去の話です。1,508通りは「未来に起こりうる全パターン」ではなく、「過去に実際に起きたパターン」です。これからの30年が過去の最悪(32.5倍必要)を更新しない保証はどこにもありません
まとめ|「いくらあればFIREできるか」は倍率で考える
この記事で持ち帰ってほしいのは、17.2%という数字そのものではなく、問いの立て方です。
「3,000万円でFIREできるか」「1億円あれば安心か」という金額の問いは、そのままでは答えが出ません。
過去155年・1,508通りのデータが答えを返してくれたのは、「資産が年間支出の何倍か」という倍率の問いに直したときだけでした。
- 過去の中央値は13.4倍。半分のケースはここで30年もった
- 25倍(=4%ルール)で97.9%。株式100%でも成り立っていた
- 尽きた31通りは、歴史的な天井の直前に辞めたケースに集中していた
明日からできることは1つです。
自分の年間支出を、税金・社会保険料込みで出してみる。そして今の資産(生活防衛資金を除いた運用資金)が何倍にあたるかを計算してみる。
その倍率を図1のカーブに置けば、過去155年があなたの現在地にどう答えたかが分かります。
僕の場合、この倍率は「あと何年働くか」を考える物差しになっています。
そして気づくのは、倍率の分母=支出を動かす力の大きさです。
年間支出を300万円から250万円にできれば倍率は10倍から12倍へ、これは支出そのままで資産を600万円積み増したのと同じ動きです。
次回は、この検証を円に持ち込みます。
ここまでの数字はすべてドルの購買力で見た話。円で暮らす僕たちが円換算で見たとき、同じ結論が残るのか。
この記事に対する一番まっとうなツッコミに、次の記事で正面から答えます。
- データ:Robert Shiller公開のS&P500月次データ(1871年1月〜2026年8月・配当再投資・米CPIで実質化)
- 方法:30年(360ヶ月)のローリング窓1,508通り。毎月末に購買力一定の生活費を取り崩し。株式100%
- 成功の定義:30年後に資産が残っていること
- 税・売買コスト・信託報酬・年金・為替は未考慮
- 家計調査の数字:総務省「家計調査報告(家計収支編)2025年平均」。消費支出+非消費支出(税・社会保険料)
- すべて過去の結果であり、将来の成果を約束するものではありません
関連記事
そもそもFIREとは何か。「早期リタイア」を年齢ではなく状態で整理した記事です。

25倍でも尽きた31通りの正体=「順序リスク」を、シミュレーターで体感できる記事です。

実際の取り崩しで効いてくる「税で差がつく売る順番」はこちらで解説しています。

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17.2%や97.9%という数字は、過去のデータを信頼できて初めて自分の物差しになります。
「過去がそうでも、これからもそうなのか」という疑問は、この検証を読んだ後にこそ残るはずです。
この本は、株式の長期リターンがなぜ安定してきたのかを200年のデータで示した、長期投資のいわば原典です。
僕がこの記事の検証を「自分でやってみよう」と思えたのも、この本で長期データの見方を知っていたからです。
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本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
