「ゴールドプラスがオルカンにもS&P500にも圧勝している」——ここ1年、SNSでそんな声をよく見かけるようになりました。
数字だけ見れば、確かにその通りです。
直近1年のトータルリターンは、プレーンなeMAXIS Slim S&P500が +45.83% なのに対し、Tracers S&P500ゴールドプラスは +85.05%。
ほぼ2倍の伸びです。
でも、この記事で確かめたいのはそこではありません。「1年前に”金がすごい”と思って飛びついた人が、いま実際に手にしているものは何か」です。
先に結論を言います。彼らが手にしたのは「金の強さ」ではなく「レバレッジ」でした。
そして、もしあなたが資産形成の序盤にいるなら、金にもゴールドプラスにも、悩む時間すら必要ありません。なぜそう言えるのか、データを分解しながら説明します。
ゴールドプラスとは|株100%+金100%で”隠れ2倍”の仕組み
ゴールドプラスは、アモーヴァ・アセットマネジメント(旧・日興アセットマネジメント)が運用する「Tracers」シリーズの愛称です。現在は3本あります。
- Tracers S&P500ゴールドプラス
- Tracers NASDAQ100ゴールドプラス
- Tracers MSCIオール・カントリー・ゴールドプラス(2026年3月設定の3本目。オルカン版)
このうちオルカン版は設定されたばかりで1年の実績がないため、この記事ではS&P500版とNASDAQ100版を主役に検証します。
なぜ「200%」=実質レバレッジなのか
ゴールドプラスの仕組みはシンプルです。純資産の100%で株価指数に投資し、さらに同額(100%)で金(先物)にも投資します。
合計すると、自己資金1に対して2倍のポジションを持っていることになります。
これがゴールドプラスの「攻めながら守る」の正体です。
聞こえはいいですが、要するに自己資金の2倍を動かす隠れたレバレッジ。
金を先物で持つために、見えないコスト(金利相当分)も毎日かかり続けます。
だから新NISAの対象外
ゴールドプラスはデリバティブ(先物)を使うため、新NISAの成長投資枠・つみたて枠のどちらの対象でもありません。
「長期で積み立てる初心者向けの優良ファンド」という枠からは、制度の側で最初から外されている商品だ、ということです。
1年前に飛びついたらどうなったか|インデックスとのリターン比較
では、1年前に買っていたらどうなっていたか。ここで3つを並べます。
- ①プレーン指数:株100%のインデックス(eMAXIS Slim S&P500/ニッセイNASDAQ100)
- ②自分で50/50:株50%+金50%を、レバレッジなしで自分で持った場合(計算値)
- ③ゴールドプラス:株100%+金100%=200%
直近1年のトータルリターンはこうなりました。
| ①プレーン指数 | ②自分で50/50(無レバ) | ③ゴールドプラス | |
|---|---|---|---|
| S&P500系 | +45.83% | +48.3% | +85.05% |
| NASDAQ100系 | +57.11% | +54.0% | +99.93% |
③のゴールドプラスが圧勝しているのは事実です。問題は、この圧勝の中身が何でできているかです。
あなたが買ったのは”金の強さ”か、レバレッジか|勝ちの正体を分解する
ここで多くの人がつまずくので、先に一つだけ潰しておきます。
「金はこの1年で円建て +50.8% も上がった。なのに②の50/50がプレーン指数とほぼ同じ(むしろNASDAQでは負けている)のはおかしい」と感じるはずです。
カラクリは機会費用です。金を50%混ぜるということは、同じく大きく上がった株を50%減らすということ。
だから合計のリターンはほとんど動きません。S&P500系では金を混ぜて +2.5pt、NASDAQ100系に至っては株のほうが強かったので −3.1pt。「金が上がったこと」と「金を混ぜた効果」は、まったく別物なのです。
ここから分解すると、圧勝の正体がはっきりします。
- ①→②(金を混ぜた効果):S&P500 +2.5pt / NASDAQ100 −3.1pt → ほぼゼロ
- ②→③(レバレッジの効果):S&P500 +36.8pt / NASDAQ100 +45.9pt → 圧勝のほぼ全部
👉 ゴールドプラスの「勝ち」を作ったのは金ではなく、レバレッジでした。
「金がすごいから勝っている」と思って買った人は、自分が手にしているものを取り違えています。実際に握っているのは、金の果実ではなく、自己資金2倍ぶんのリスクです。
ゴールドプラスのリスク|下げも2倍で返ってくる(直近3ヶ月で実証済み)
レバレッジは、上げ相場では2倍の味方になります。
問題は、下げ相場でも同じ仕組みが2倍で牙を剝くこと。
そしてこれは、もう「これから起きるかもしれない話」ではありません。
ゴールドプラス2本は、3ヶ月前に天井を打っています。
S&P500版は累積 +105.5% まで突き抜けたあと +85.1% へ、NASDAQ100版は +117.9% から +99.9% へ下げました。
直近3ヶ月だけ切り出すと、こうです。
| 直近3ヶ月リターン | |
|---|---|
| S&P500ゴールドプラス | −9.94% |
| NASDAQ100ゴールドプラス | −8.23% |
| eMAXIS Slim S&P500 | +7.14% |
| ニッセイNASDAQ100 | +9.74% |
プレーンな指数が静かに上げ続けているこの3ヶ月で、ゴールドプラスはマイナスに転じています。
金の値動きが反転した瞬間、上げを2倍で取れた仕組みが、下げも2倍で返してきたわけです。
→ レバレッジ型商品を長期で持つと利益がどう削れていくかは、日本株4.3倍ブルの6年データで具体的に検証しています
僕の周りでも、「金がすごい、儲かった」という声はちょくちょく聞きました。正直な感想は「運が良かったねぇ」です。
そして同時に、こうも思っていました。この人たちは、これから売り時で悩んだり後悔したりすることになる。大変だなぁ、と。
そもそも金に”値上がり”を期待するのが間違い|歴史が示す金の本当の役割
ここまでは直近1年の話でした。
でも、もっと根っこに、見落とされている事実があります。
そもそも金にキャピタルゲイン(値上がり益)を期待すること自体が筋違いだ、という点です。
よく引用されるのが、ジェレミー・シーゲルの「200年チャート」です。1802年からの実質リターンで株は年率約6.9%、対して金は約0.6%——金はほとんど増えなかった、というもの。
ただ、この数字をそのまま突きつけるのはフェアではありません。1971年まで、金はドルに固定されていました(金本位制〜ブレトンウッズ体制)。
法律で価格が動けなかった時代を含めて「金は上がらない」と言うのは、さすがに金に酷です。
公平に見るなら、金が自由に動くようになった1971年のニクソン・ショック以降で比べるべきでしょう。そして——フェアな土俵で比べても、結論はほとんど変わりません。
1971年に100ドルを投じていたら、いまの価値はこうです。
- 金:約7,000ドル(年率 約8%)
- S&P500(配当再投資込み):約36,000ドル(年率 約11%)
理由は明快です。株式とは、利益を生み出す企業そのものです。企業は稼いだ利益を再投資し、価値を複利的に積み上げていきます。
対して金は、何も生みません。掘り出された金塊は、10年置いても20年置いても、金塊のままです。「複利的に価値が増えていく資産」か、「増えも成長もしない資産」か——この差が、長い時間をかけて決定的に開いていきます。
(※S&P500の数字は配当も再投資した「トータルリターン」。株が生んだ果実をすべて含めて測った値です)
もちろん、1971〜1980年や2000年代、2022年のように、数年〜10年単位で金が株を上回った局面はあります。
でもそれは「金が成長するから」ではありません。
インフレや危機のときに、逃げ場として買われるからです。
金の本当の役割は「インフレ・危機への保険」
ここに金の正体があります。金はリターンを生むエンジンではなく、インフレや危機に対する”保険”です。
株と値動きが連動しにくいので、暴落やインフレ局面で資産全体の揺れを和らげる——それが金に期待していい唯一の仕事です。
→ 金そのものを「安全資産」として持つべきか——リスク18%という金の実像はこちらで掘り下げています
ただし、です。
そのリスク調整が必要になるのは、資産規模がかなり大きくなってから。
僕の考えでは、億を超える資産があったとしても、優先順位は金より債券が先です。
金の出番は、さらにその先にしかありません。
見落とされている、いちばん危ういリスク
「金がすごい」で買った人が抱える最大のリスクは、含み損でも課税でもありません。「金はこれからもすごいだろう」と無意識に思い込んでいることそのものです。
直近の値動きが続くと信じてしまう——これは行動経済学でいう、典型的なバイアス(直近の傾向を未来へ引き延ばす思い込み)です。
僕自身は、金をポートフォリオに入れていませんし、検討もしていません。
理由はシンプルで、僕の資産形成のゴールは15年以上先にあり、「市場平均の株価は今より上がっている」とは信じられても、「金が15年後に上がっている」とは信じられない(インフレ分を除けば、なおさら)からです。長期で安心して持ち続けられるものは何か——それが、僕の最重要の判断基準です。
そもそも、その商品は誰のために作られたか
最後に、一歩引いて考えてほしいことがあります。ゴールドプラスは、誰が、なぜ作った商品でしょうか。
運用会社も、ビジネスです。金が上がり、人気が出た——その人気に乗って、売れる商品として組成されたのがゴールドプラスです。それ自体は悪いことではありません。
ただ、覚えておいてほしいのは、新しい商品が世に出るのは、たいてい相場が盛り上がった”後”だということ。
その象徴が、3本目のオルカン版(Tracers MSCIオール・カントリー・ゴールドプラス)です。設定は2026年3月。金がさんざん買われ、「ゴルプラがすごい」と話題になった後に登場しました。
運用会社は、売れるタイミングで商品を出します。「売れるから作られた商品」と「あなたに必要な商品」は、別物です。
結論|あなたは”金”が欲しかったのか、”レバ”が欲しかったのか
📚 僕の理解を支えた1冊
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金が長期で「増える資産」ではないことを、200年分のデータで腹落ちさせてくれた1冊です。「金がすごい」でゴールドプラスを買うべきか迷ったとき、判断の土台になりました。
最後に、自分に一つだけ問いかけてください。あなたがゴールドプラスで欲しかったのは、「金」ですか? それとも「レバレッジ」ですか?
- 金をリスク調整として理解した上で、レバレッジも納得して買った人 → 何も問題ありません。当初の設計通りです。胸を張って持ち続けてください。
- 「金が値上がりするから」と思って買った人 → 期待した果実は、歴史が示す通り構造的にほとんど存在しません。手元に残ったのは、レバレッジのリスクだけ。上げ相場では2倍で勝てましたが、同じ仕組みが、いま下げを2倍で返し始めています。
そして、もしあなたが資産形成の序盤にいるなら、僕の答えはもっとシンプルです。
👉 金やレバレッジで真剣に悩むのは、時間がもったいない。
その時間は、人生でもっと大事なことに使ってください。
本気で金をポートフォリオに組み入れたいと思うステージに来たときは、ゴールドプラスのような既製のレバレッジ商品ではなく、レバレッジなしで、自分で考えてリスク設計してください。
初心者〜中級の積立投資家に、金は要りません。特にゴールドプラスは要らない——これが、僕の正直な結論です。
→ では何を積み立てればいいのか——”指数で決まり、商品で差がつく”選び方はこちらで整理しています
▼ 金そのものを「安全資産」として持つべきか、まだ迷っている人へ

▼ 何を積み立てるか、NASDAQ100連動の具体的な商品比較まで見たい人へ

本記事の注記
- リターンの数値はみんかぶ投資信託(2026/6/1基準のトータルリターン)。金価格は田中貴金属工業の月次小売価格(平均)を使用。
- 「②自分で50/50」は「株インデックスの1年リターン×0.5+円建て金の1年リターン(+50.8%)×0.5」で算出した簡易計算値(取引コスト・リバランス未考慮)。
- ゴールドプラスは株100%+金100%の日次リバランス型のため、実績は単純な②の2倍ではなく、信託報酬・金利相当コスト・ボラティリティ(値動きの振れ幅)の分だけ目減りします。新NISA対象外。
- シーゲルの実質リターンは『株式投資 第6版』(対象1802〜2021年)。ただし金本位制下では金価格が固定されていた点に留意。
- 1971年以降の比較:金は年率約8%(100ドル→約7,000ドル)、S&P500は配当再投資込みで年率約11%(100ドル→約36,000ドル)。
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
