こんにちは、飛雄です。
住宅ローンを検討しはじめると、たいていの人が最初にぶつかる問いがあります。
「変動金利にするか、固定金利にするか」
金利の見通し、5年ルール、損益分岐点。真剣に調べるほど、この二択は重くのしかかってきます。
でも、いったん立ち止まってほしいのです。
その問いは、「借りる」ことがすでに決まった人だけが立つ分かれ道です。あなたはまだ、その手前にいるかもしれません。
この記事は、変動か固定かの話はしません。その一歩手前——「そもそも今、建てるべきなのか」を、自分に問い直すための記事です。
15年前、その問い直しをまるごと飛ばして家を建てた僕自身の失敗をさらしながら、話していきます。
住宅ローンの「変動か固定か」、“借りる”が前提になっていませんか
「赤にしますか、青にしますか」
服屋でそう聞かれたとき、あなたはもう“買う”側に立たされています。
買うか買わないか、ではなく、赤か青か。
——上位にある「そもそも買うか」という問いは、鮮やかに消されています。
これは二者択一(にしゃたくいつ)法と呼ばれる、営業の古典的な話法です。
AとBの二択を差し出すことで、「そもそも取引するかどうか」を考えさせない。
マーケティングの世界ではオルタナティブ・クロージングとも呼ばれます。
👉 「変動か固定か」は、この二者択一とまったく同じ構造をしています。
金利タイプを比較しはじめた瞬間、あなたの頭の中では「住宅ローンを借りる」ことが確定事項になっています。5年ルールを調べ、損益分岐点を計算し、ネット銀行の金利表を見比べる——その労力のすべてが、「借りる」という前提の上で回っています。
行動経済学では、これをフレーミング効果といいます。
どういう枠(フレーム)で問いを立てられるかによって、人の判断は簡単に方向づけられてしまう。
二択を差し出されると、人はその枠の中でしか考えられなくなり、「選ばされている」という自覚のないまま決めてしまうのです。
家は、人生で一番大きな買い物です。その一番大きな買い物を、“借りる前提”の二択から入ってしまっていいのか。
まずは枠を一段外して、「そもそも」から問い直しましょう。
僕は30歳でマイホームを建てた。そして“債務超過”を認識すらしていなかった
偉そうに書いていますが、僕自身がこの問い直しを、まるごと飛ばした人間です。
30歳のとき、大手ハウスメーカーで新築の戸建てを建てました。
土地1,000万円、上物3,700万円。
約4,000万円の住宅ローンです。
当時の僕にとって、マイホームは「持って当たり前」のものでした。長女が小学校に上がる前に拠点を決めたい——妻とそう話し合い、住宅展示場に足を運んだら、話はとんとん拍子に進んでいきました。
借金することにも、何のためらいもありませんでした。頭金は会社の住宅財形でコツコツ貯めていたし、「家のローンは当たり前」という感覚だったからです。
でも、当時の僕がまったく認識できていなかったことがあります。
👉 住宅ローンを組んだ瞬間、わが家は「債務超過」から人生をスタートしていた、という事実です。
債務超過とは、持っている資産よりも借金のほうが多い状態のこと。
企業でいえば「倒産予備軍」と見なされる状態です。
(家計に置き換えると、いま持っている全財産をすべて売り払っても、借金が返しきれない状態です)
4,000万円のローンを背負い、手元に残った金融資産はわずか。
買った家は——後で詳しく書きますが——買った値段では二度と売れない。
つまり、契約書にサインした瞬間から、わが家の純資産(資産マイナス借金)は大きくマイナスに沈んでいたのです。
そして、そのことに気づかないまま、10年以上が過ぎました。
固定か変動かも、考えませんでした。長いあいだ金利のない世界しか経験してこなかった僕にとって、変動金利は「安いから当たり前」の選択で、これから金利が上がっていく時代に、そのリスクを借り手である自分が丸ごと引き受ける選択なのだという事実は、意識にすら上りませんでした。
結論から言えば、僕は結果オーライでした。
運よく働き続けられ、債務超過はやがて解消し、いまは保険に頼らなくても大丈夫な家計まで辿り着けました。
子どもたちも問題なく学校に通ってくれた。
感謝しかありません。
でも、それは全部「何もなかったから」です。もしあのとき、僕が働けなくなっていたら——次の章から、その“もしも”を数字で見ていきます。
数字で問い直す①|新築戸建ての資産価値は、入居した瞬間にマイナスになる
まず直視したい事実がひとつあります。
👉 注文住宅の戸建ては、鍵を受け取った瞬間から、買った値段では売れません。
これは、あなたの家の出来が悪いという話ではありません。仕組みの問題です。
新築の価格には、ハウスメーカーの利益、営業マンの人件費、広告費、モデルハウスの維持費——そういった「あなたの家そのものではないコスト」がたっぷり乗っています。
あなたが暮らしはじめた瞬間、その家は「新築」ではなく「中古」になり、それらの上乗せ分は蒸発します。
一般に、建物部分は引き渡し直後に2〜3割は落ちると言われます。
「新築プレミアム」と呼ばれる、よく知られた現象です。
しかも注文住宅は、あなたと家族の希望をつめこんだ、世界に一つの間取りです。
それは暮らす人にとっては最高の価値ですが、「売る」ときには逆に足かせになります。
次に買う誰かの希望と一致するとは限らないからです。
都会のマンションのように「誰にとっても値がつく資産」とは、性質がまるで違います。
僕の家も、車がなければ生活できない土地に、自分たちの希望どおりに建てた家です。正直、いま売りに出しても、かけた4,000万円とは程遠い値段しかつかないでしょう。
一つ、生々しい数字を出します。
わが家の固定資産税は、15年住んだ現在で1期あたり約35,000円。
年4回の分割なので、年間ではおよそ14万円です。
ここから逆算すると、税金の計算のベースになっている額(課税標準)の合計は、ざっくり1,000万円ほど。
もちろんこの額は、住宅用地の軽減などが効いた後の“税金計算用”の数字で、実際に売れる値段とも、建てるのにかかった金額とも違います。
あくまで「公的な目安」です。
それでも——4,000万円をかけた我が家に、公的につけられている評価の土台は、その4分の1の水準。
この落差は、頭の片隅に置いておいて損はありません。
家は「資産」だと、よく言われます。でも、少なくとも建てた瞬間は、大きく目減りした資産なのです。
数字で問い直す②|住宅ローンの金利+団信+生命保険で、人的資本をいくら差し出すのか
家そのものの価値が目減りするだけではありません。「今、借りて建てる」という選択には、別のコストが上乗せされます。
ひとつは、言うまでもなく金利です。
4,000万円を長期で借りれば、返済総額は借入額を大きく上回ります。
その差額は、まるごと銀行の取り分です。
もうひとつが、保険です。
多くの住宅ローンには団体信用生命保険(団信)が付いています。
これは、契約者が亡くなったときにローンの残りをゼロにしてくれる保険です。
「万一のとき家族に借金を残さない」ための、いわば安全装置。
ここで見落とされがちなのが、団信はタダではないという事実です。一般的な団信は、そのコストが借入金利に溶け込む形で払われています(3大疾病などの特約をつけると、金利にさらに0.1〜0.3%ほど上乗せされるのが一般的です)。
証拠を一つ。
団信への加入が任意になっているフラット35では、団信を外すと金利が0.2%引き下げられます。
裏を返せば、団信の保険料は“金利0.2%相当”として、返済額の中に組み込まれているということ。
借りているあいだ、あなたは見えない保険料を金利と一緒に払い続けているわけです。
僕の場合は、あえて団信をつけませんでした。
代わりに掛け捨ての収入保障保険に入り、「いつ働けなくなっても、住宅ローンの残高を上回るお金が出る」ように設計しました。
借金を家族に残さない、という一点だけは、しっかり守ったつもりでした。
そして、ここにこの記事で一番伝えたい落とし穴があります。
👉 保険は、借金を消してはくれます。でも、あなたの家族の“生活”までは守ってくれません。
考えてみてください。
僕にもしものことがあれば、収入保障保険で借金は消えます。
家は残ります。
でも、僕という稼ぎ手そのもの——これから先ずっと働いて稼ぐ力(人的資本)は、失われる。
日々の生活費、そして子どもの進学の自由度——「どんな大学に行ってもいいよ」と言えていたあの余裕は、消し飛びます。
家というハコは残っても、その中で送る暮らしのレベルは、大きく落とさざるを得なかったはずです。
そして、そのような環境下では、今の家は無駄に広すぎる。
今はそれほど負担に感じていない固定資産税も、大きな負担になり得るでしょう。
→ 保険という「聖域」にメスを入れた日(サイドFIREへの軌跡:第3話)
金利で銀行に払い、団信や保険で保険会社に払う。「何もなかった場合」、あなたはこれらの手数料を通じて、自分の人的資本の一部を、銀行と保険会社の利益に差し出していることになります。
その対価として手に入れているのは、「“今”マイホームに住む」という価値です。
ここで立てるべき問いは、これです。
👉 金利と保険料という形で人的資本を差し出してまで、“今”マイホームを手に入れることは、自分の人生にとって本当に必要なのか。
持ち家の判定軸|“今その金額を資産として持てているか”
では、どう判断すればいいのか。数字の面での判定軸を、一つに絞ります。
👉 「今、その家を買えるだけのお金を、資産として持てているか」
拍子抜けするくらいシンプルですが、これが本質です。
もし、家を買えるだけの金額をすでに資産として持っているなら、話は簡単です。
そのときはじめて、「一括で払うか、あえて借りるか」を悩めばいい。
低金利をテコに手元資金を投資に回す、という選択も十分合理的です。
それは“借りる前提”ではなく、“買える人が、あえて借りる”という、まったく別の判断です。
→ 繰り上げ返済 vs 投資|変動金利が上がる2026年、どっちを優先すべきか
問題は、それだけの資産がないのに、「今」建てようとしているケースです。
そのとき人は、足りない分を借金で埋めます。
その借金が、冒頭で書いた債務超過を生みます。
僕の当時の家計を、数字で振り返ってみます。
- 住宅ローンの返済:月およそ12万円
- 各種保険:月およそ6万円
- 合わせて、毎月18万円が固定費として出ていっていました
もし、あのとき僕が家を建てず、たとえば家賃10万円の賃貸に住み、浮いた月8万円を投資に回していたらどうなっていたか。
年利7%で15年間、コツコツ積み立てたと仮定すると——ざっくり約2,500万円です。
そして現実には、子ども2人の教育費は、保険に頼らず日々の収入から賄えました。つまり、この2,500万円は、まるまる今の総資産に上乗せできていた可能性が高い。
もちろん、これは後知恵です。賃貸には賃貸の不満もあるし、家を持つ喜びを数字だけで否定するつもりはありません。
でも、「今、資産がないのに建てる」という選択は、この2,500万円のような“別の未来”を手放す選択でもある——このことは、契約書にサインする前に、一度は直視すべきだと思うのです。
感情で問い直す|“身軽さ”という選択肢の価値
ここまでは数字の話でした。
でも、家の問題は数字だけでは割り切れません。
むしろ、感情と選択肢の問題のほうが、後から効いてきます。
マイホームを検討しはじめる、いちばん多いきっかけの一つが、これです。
「子どもが小学校に上がる前に、拠点を決めたい」
僕もまさにそうでした。
よく分かります。
でも、あえて逆から問います。
👉 もし、その学校が子どもに合わなかったら?
いじめ、不登校、あるいは単純に「この地域が合わない」。転校させてあげたい、と思ったとき——持ち家があると、その選択肢はぐっと狭くなります。簡単には動けないからです。
合わないかもしれないのは、学校だけではありません。
- 隣人が、どうしても合わない
- 自治会や町内会の風土が、肌に合わない
- 転勤の話が出た
——後悔しうる事象は、いくらでも想像できます。人生は、契約書にサインした時点の想定どおりには進んでくれません。
賃貸で身軽なうちは、こうした「合わなかった」に対して、引っ越す、という対処法が残されています。
この「いざとなったら動ける」という自由そのものに、実は大きな価値があります。
行動経済学でいうオプション(選択肢)の価値です。
僕の場合、子どもたちは結果的に、二人とも問題なく学校に通ってくれました。
本当に、感謝しかありません。
でもそれは「たまたま、うまくいった」だけ。
もし何かがあれば、身軽であることのありがたさを、痛感していたはずです。
「拠点を決めたい」という気持ちの裏側で、あなたは“動ける自由”を手放そうとしている。そのトレードオフを、天秤にかけたことはあったでしょうか。
それでも家を建てると決めるなら|GOと言える条件
ここまで、さんざん脅すようなことを書いてきました。
でも、僕は「家を建てるな」と言いたいわけではありません。
持ち家には、賃貸では得られない安心も、喜びもあります。
前提を自覚したうえで、納得して建てる人は、建てればいい。これが僕のスタンスです。
では、どうなっていれば「建ててGO」と言えるのか。条件を、はっきり示します。
👉 「もし後悔する事態になっても、対処可能な選択肢を、“経済的にも”“感情的にも”持てている」と思えること。
「経済的に」というのは、これまで書いてきた数字の話です。
- 家の価値が目減りしても、耐えられるか
- 稼ぎ手に何かあっても、借金が消えるだけでなく、その後の生活と子どもの進路の自由度まで守れる設計になっているか
- 金利が上がっても、返済が家計を圧迫しないか
- そもそも「今」買えるだけの資産の裏づけがあるか
→ 生活防衛資金はいくら必要?2026年・物価高とNISA満額時代の最低ライン
「感情的に」というのは、選択肢の話です。
- 学校が、隣人が、地域が合わなかったとき、「引っ越す」という選択肢を——現実的にとれる状態にあるか
- 「もう建ててしまったから」と、合わない場所に自分と家族を縛りつけることに、ならないか
このどちらにも「大丈夫」と思えるなら、あなたは“借りる前提の二択”ではなく、自分の意思で「今、建てる」を選んでいます。それなら、胸を張って建てればいい。
逆に、どちらかに不安が残るなら——それは「変動か固定か」で悩む段階ではなく、「今なのか」をもう一度問い直すサインです。
まとめ|問いは「変動か固定か」ではなく「今、自分に必要か」
最後に、この記事で伝えたかったことを、一つにまとめます。
住宅ローンの入り口で差し出される「変動か固定か」という問いは、“借りる”ことを前提にした二者択一です。その二択に乗る前に、一段上の問いを、自分に立ててほしいのです。
- 数字で問う:新築は建てた瞬間に目減りする。金利と保険で人的資本を差し出す。——それでも、今買えるだけの資産の裏づけはあるか。
- 感情で問う:拠点を決める代わりに、“動ける自由”を手放していないか。合わなかったとき、対処できるか。
そして、両方に「大丈夫」と言えたときにだけ、はじめて「変動か固定か」を悩めばいい。
15年前の僕は、この問い直しを、まるごと飛ばしました。
結果オーライだったのは、本当にただの幸運です。
あなたには、幸運に頼らず、自分の意思で選んでほしい。
👉 問いは「変動か、固定か」ではありません。「今、自分にとって、本当に必要か」です。
(※「それでも建てる/借りると決めた」人に向けた、変動金利と固定金利の実務的な選び方・5年ルール・損益分岐点の話はこちらにまとめました。)
→ 住宅ローンは変動か固定か。決め手は損得ではなく「金利上昇リスクを誰が負うか」
📚 “人的資本を差し出す”の意味が芯から腑に落ちる1冊
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この記事の背骨だった「人的資本」という考え方を、住宅ローンにとどまらず、インフレが続くこれからの日本で「自分の稼ぐ力と金融資産をどう配分して生き抜くか」という一段大きな戦略まで広げてくれる1冊です。僕自身、まさにこの記事を仕上げた日に読み終えたのですが、本文で書いた「金利と保険料という形で人的資本を差し出す」という感覚が、より立体的に腑に落ちました。
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
