昇給したのに、なぜ貯まらないのか|「見えない天引き」とライフスタイルインフレの正体

額面は、たしかに上がった。昇給通知を見たときは、素直に嬉しかった。

なのに、年末に通帳を見ても、増えた実感がない。

これは、気のせいではありません。理由は2つあります。ひとつは、あなたのせいではない。もうひとつは、設計でほぼ消せる。

僕は自分の給与明細と源泉徴収票を6年分すべて並べて、この2つを数字で確かめました。今日はその実データを開きながら、「昇給したのに貯まらない」のカラクリと、そこから抜ける家計の作り方を書きます。

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目次

額面が増えても、手取りは思ったほど増えない(これは構造の話)

まず、あなたの「増えた気がしない」という感覚は正しい、という話からです。

額面(会社が払う総額)と、口座に振り込まれる手取りの間には、2つの大きな天引きがあります。

所得税は「累進」だから、昇給分にはより高い率がかかる

日本の所得税は、課税所得が増えるほど税率が上がる累進課税です。税率は、次の7段階に分かれています。

課税所得税率
195万円以下5%
195万円超〜330万円10%
330万円超〜695万円20%
695万円超〜900万円23%
900万円超〜1,800万円33%
1,800万円超〜4,000万円40%
4,000万円超45%

※課税所得とは、額面から「給与所得控除(会社員の必要経費とみなして自動で引かれる枠)」や社会保険料・各種控除を差し引いた、実際に税率がかかる金額のことです。

ここで大事なのは、上がった税率は「増えた部分」だけにかかるという点。給料全部が高い税率になるわけではありません。でも、昇給したぶんは、今までより一段高い税率で削られるということです。

実際、僕の源泉徴収票で課税所得を逆算すると、こうでした(額面は丸め)。

  • 2020年:額面 約833万円/課税所得 約426万円/納めた所得税 約43万円(限界税率 20%)
  • 2024年:額面 約1,118万円/課税所得 約610万円/納めた所得税 約72万円(限界税率 20%)
  • 2025年:額面 約1,299万円/課税所得 約750万円/納めた所得税 約111万円(限界税率 23%)

※2024年は定額減税(▲約9万円)を反映した後の額です。それでも、5年で所得税は約43万円→約111万円と、2.5倍を超えて膨らみました。

2025年に課税所得が「695万円のライン」を越えて、税率の段がひとつ上がりました。そして5年で並べると、もっとはっきりします。

  • 額面は5年で +約56%
  • でも所得税(源泉)は +約157%(約2.6倍)

額面の伸びの、3倍近いスピードで所得税が膨らんでいます。これが累進の正体です。

社会保険料は、税より「静かに」増える

もうひとつが社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険・40歳からの介護保険)です。

僕のデータでは、社会保険料は5年で +約43%。直近の2024→2025年だけ見ると、額面が +16%なのに社保は +22%と、額面より速く増えています。

社保が額面より速く増えるのは、料率がどんどん上がっているから、ではありません。厚生年金の保険料率は2017年から18.3%で固定です。効いているのは、収入が増えたぶん保険料の計算ベース(標準報酬)も上がることと、健康保険・介護保険の料率がじわじわ切り上がることの合わせ技です。

僕が一番こわいと思うのは、ここです。税金は「取られている」という感覚がありますが、社会保険料は給与天引きで、明細の奥のほうに静かに並んでいる。だから、合わせ技でじわじわ増えても、ほとんど抵抗が起きません。

行動経済学で言うサリエンス(顕著性)の低さです。痛みを感じにくいものは、静かに大きくなる。僕自身、資産形成に本気で取り組み始めてから過去の明細を並べて、はじめて「社保、こんなに増えてたのか」と数字で気づきました。

平均的な人で試算すると

「年収1,000万円超の話でしょ」と思われたかもしれません。でも、この構造は誰にでも効きます。

たとえば額面500万円の人が、50万円の昇給を受けたとします(ざっくり概算)。

  • 社会保険料(約15%)で … 約7.5万円
  • 所得税(増えた課税所得に10%)で … 約3.3万円
  • 住民税(一律10%)で … 約3.3万円
  • 手取りの増加は、50万円のうち約36万円。約3割が税・社保で消えます。

さらに、課税所得が330万円・695万円といった境界を越える昇給だと、越えたぶんの所得税率が一段上がる(10%→20%、20%→23%…)ので、喜んだ昇給ほど手取りが付いてこない、という現象が起きます。

👉 ここまでは、自分では変えられない天引きです。怒っても仕方がない。事実として受け止めて、次の話に進みます。

本当に資産が増えない最大の犯人は「ライフスタイルインフレ」

構造の話をしておいてなんですが、手取りが増えても貯まらない最大の理由は、税でも社保でもありません。

増えた手取りに合わせて、生活そのものが一段上がってしまう。これをライフスタイルインフレと呼びます。

人の支出は、収入を満たすところまで自然に膨らみます(パーキンソンの法則)。そして一度上げた生活レベルは、なかなか下げられません(ラチェット効果=逆回転しない歯車)。

つまり、増えた手取りは、放っておくと自動的に支出に吸い込まれる。ここが、税や社保と決定的に違うところです。ここは、自分で選べる。

📚 「年収が上がっても、なぜか貯まらない」をデータで突きつけられる1冊

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目立つ高収入の人ほど資産が薄く、地味でも着実に資産を築く人がいる——その差がどこで生まれるのかを、この本は大量のデータで突きつけてきます。読むと、「昇給したのに貯まらない」のは意志が弱いからではなく、設計の問題なんだと腹落ちします。僕自身、昇給を素直に喜びながら車やサブスクで生活を一段ずつ上げていた側だったので、最初に読んだときは正直ぐさっときました。

この本が言う”蓄財劣等生”——高収入なのに資産が薄い人——の正体が、まさにこのライフスタイルインフレでした。僕自身、自分の家計で痛いほど身に覚えがあります。

僕の場合①:車

わかりやすかったのは、車です。最初はローンで買っていました。それが、現金で買えるようになったタイミングで、正直に言うと「もう現金で買えるんだから」という気持ちが入りました。

必要性で選んだというより、「買えるようになった自分」へのご褒美が混ざっていた。これは典型的なライフスタイルインフレです。

僕の場合②:見直さなかった固定費

もうひとつは、サブスクや固定費の”放置”です。新しいサービスに次々加入した、という話ではありません。むしろ逆で、携帯料金や、光回線にくっついてきた光テレビなどを、「別に生活に困ってないから」と一度も見直さなかったのです。

困っていないから、考えない。考えないから、毎月静かに引かれ続ける。これも、社会保険料と同じ「サリエンスの低さ」です。痛くないものは、放っておくと居座ります。

ここで効くのが、節約ではなく倹約という考え方でした。日々の出費を我慢する(節約)のではなく、固定費の仕組みを一度だけ入れ替える(倹約)。一回やれば、あとは黙って効き続けます。

(→ 倹約と節約の違いは 倹約と節約は何が違う?家計改善で先にやるべきは「固定費」である理由

僕がこの「ライフスタイルインフレ」と固定費の放置に本気で向き合い始めたきっかけは、家計を全部つないで自分の現在地を直視した日でした。その話は サイドFIREへの軌跡:第1話|資産形成の重要性に気づいた日 に書いています。

解決=「天引きの主導権を、国から自分へ取り戻す」

ここからが本題です。

国は、社会保険料という形で、あなたの給料から先に・自動でお金を引いていきます。だったら、同じ仕組みを、今度は自分のために使えばいい。

増えた手取りを、生活が慣れる前に、先に・自動で投資へ逃がす。これが「天引きの主導権を取り戻す」という意味です。

ただ、僕は「昇給したら積立を増やそう」と毎回がんばっているわけではありません。意志の力は続きません。やっているのは、家計を丸ごと仕組み化することです。

僕がやっている家計のデフォルト設計

考え方はシンプルです。

  1. 生活防衛資金・特別費・毎月の生活費を先に確保する
  2. それ以外の収入は、すべて「運用資金」と決める(昇給も賞与も、自動的にここへ流れる)
  3. 運用資金の中の現金比率はゼロ(今のリスク許容度にまだ余裕があるため。ここは人によります)

この設計にしておくと、昇給を意識して操作しなくても、増えたぶんは自動的に投資へ向かいます。NISAの枠を使い切ったあとの余力や賞与は、スポットで買い付けに回す。意志ではなく、最初の設定(デフォルト)が働いてくれる。行動経済学でいうデフォルト効果を、自分の家計に組み込んでいるだけです。

ここで一番大事なのは、実は1番目の「先に確保する」のほうです。生活防衛資金(数ヶ月分の生活費)と特別費を別枠で確保してあるからこそ、残りを全部リスク資産に振り切れる。そして、生活が止まらない現金を別に持っているから、暴落で運用資金が含み損になっても、生活費を売って取り崩す必要がない=狼狽売りしないで済む。「現金比率ゼロ」は無防備に見えて、その手前に守りを置いてあるから成立しています。順番を逆にして、守りを確保する前に全額投資へ回すのは、おすすめしません。

副産物:新しい支出に「ブレーキ」がかかる

おもしろいのは、この仕組みにすると、支出の判断まで変わったことです。

たとえば新しいサブスクに入ろうとすると、頭の中で自動的にこう変換されます。「これに入ると、運用資金に回せる額が、その分だけ減る。それでも要るか?」

支出が「運用資金からの天引き」として見えるようになる。痛くなかったはずの固定費に、ちゃんと痛みが戻ってくる。これがライフスタイルインフレへの、一番効くブレーキでした。

明日の一手:昇給を「使う前」に決める

仕組み化はすぐには組めなくても、明日からできることが一つだけあります。

昇給や賞与が決まったら、使い道を考える前に、先取りの金額を上げてしまうこと。

手取りが口座に入って、生活に馴染んでから「さて、いくら投資に回そう」と考えると、ライフスタイルインフレに先を越されます。生活が一段上がったあとでは、もう下げられません(ラチェット効果)。

順番を逆にする。増えると決まった瞬間に、増えたぶんの行き先を先に決める。 これだけで、設計の第一歩は踏めます。あなたの歩幅(毎月いくら積み立てるか)の決め方は 「月3万円」で間に合う?最終目標額から逆算する“自分の歩幅”の作り方 も参考にしてください。

まとめ

「昇給したのに貯まらない」の正体は、2つでした。

では「同じ暮らし」に今いくら必要?──平成と現在をデータで比較

  • 変えられない天引き(累進課税と、静かに増える社会保険料)。これは事実として受け止める。
  • 変えられる天引き(ライフスタイルインフレ)。増えた手取りが、生活と固定費に自動で吸われていく。

そして打ち手は、天引きの主導権を、国から自分へ取り戻すこと。増えたぶんを、生活が慣れる前に、自動で運用資金へ逃がす。家計を丸ごと仕組み化して、新しい支出には「運用資金が減る」という痛みを取り戻す。

そうやって設計を一度組めば、次の昇給が、はじめてあなたの資産に変わります。

自分の収入そのものをどう”入金力”に変えるかは 人的資本とは|収入差の正体と、家計の入金力に変える方法日本人の平均年収は?資産形成は入金力で決まる も合わせてどうぞ。

【免責事項】
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
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この記事を書いた人

ファイナンシャルプランナー(FP技能士)|東証プライム上場企業の会社員。
40代から資産形成に本気で取り組み、1年で純資産1000万円増を達成。
「今さら遅いかも…」と不安な方へ、データと実体験に基づく合理的な資産形成を発信しています。

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