家を建てる、あるいは買う。そう決めた人が次にぶつかるのが、この問いです。
「住宅ローンは、変動金利と固定金利のどっちにすべきか」
検索すると、総返済額の比較、金利の予想、損益分岐点——数字がずらりと並んだ記事が出てきます。
読めば読むほど、かえって決められなくなった。
そんな状態でこの記事に辿り着いた方も多いのではないでしょうか。
先に、この記事の結論の輪郭をお伝えします。
👉 変動か固定かは「どっちが得か」では決まりません。「金利上昇リスクを、自分と銀行のどちらが負うか」で決めるものです。
そして僕の考えはこうです。お金に余裕のない人ほど、固定を選ぶべき。
2026年6月、日銀は政策金利を1.0%まで引き上げました。
約31年ぶりの水準です。
「低金利がずっと続くから変動一択」という時代の前提は、すでに崩れています。
だからこそ、損得の予想合戦から一歩引いて、判断の土台を組み立て直す価値があります。
本記事は、「今建てる・買うのがベスト」と判断した方向けに書いています。なんとなく「そろそろマイホームが欲しいなぁ」くらいの方は、先にこちらの記事を読んでから戻ってきてくれると嬉しいです。
→ マイホームは今建てるべきか。住宅ローンで“債務超過”から人生を始める前に
住宅ローンの変動と固定、違いは「金利上昇リスクを誰が負うか」
変動と固定の違いを一言で言い切ります。
👉 変動金利は、金利上昇リスクを「あなた」が負う。固定金利は、そのリスクを「銀行」が負う。
これがすべての出発点です。
変動金利では、世の中の金利が上がれば、あなたの返済額も上がります。
「将来どうなるか分からない」というリスクを借り手が丸ごと引き受ける。
だから、金利は低く設定されています。
固定金利では、世の中の金利がどれだけ上がっても、あなたの返済額は完済まで変わりません。
そのリスクは銀行が引き受けてくれる。
だから、金利は高く設定されています。
つまり、変動と固定の金利差の正体は「保険料」です。
火災保険に入るとき、「保険料を払うなんて損だ」とは考えないはずです。
万一のときに家計が壊れないように、リスクを保険会社に引き受けてもらう対価として払っている。
固定金利の上乗せ分も、これとまったく同じ構造です。
「固定は損」という言い方をよく見かけますが、それは「火災保険に入ったのに家が燃えなかったから損だった」と言っているのに近い。リスクを誰かに引き受けてもらうことには、正当な値段が付くのです。
「変動と固定どっちが得か」は後出しでしか分からない|損益分岐点の正体
とはいえ、「で、結局どっちが得なの?」は気になりますよね。考え方だけ整理しておきます。
2026年7月時点で、変動金利はおおむね1%前後、全期間固定は2%台後半〜3%台です(フラット35・買取型で3.14%)。
借りた瞬間の金利は、変動のほうが必ず安い。
ここに議論の余地はありません。
では、どうなると固定が「勝つ」のか。変動金利がこの先じわじわ上がっていき、返済期間トータルの支払額が固定を上回ったとき——これが損益分岐点です。

図は、借入4,000万円・35年で、固定2.9%と変動(1.0%スタート)3シナリオの累計返済額を並べたものです。
変動が据え置きなら総返済4,742万円、10年かけて2.0%なら5,334万円——このあたりまでは変動の勝ちです。
ところが10年かけて4.0%まで上がるシナリオでは総返済6,666万円となり、19年目に固定を追い抜きます。
つまり、答えは「今後35年間、変動金利がどう動くか」次第。序盤の低金利の貯金が効くぶん変動は簡単には負けませんが、負けるときは、家計がいちばん苦しい後半に、返済額の上昇という形で負けが確定していきます。
そして、ここが肝心なところです。
👉 今後35年の金利は、誰にも分かりません。日銀にも、銀行にも、もちろん僕にも。
「どっちが得だったか」は、完済したあとに振り返って初めて確定します。
損得は、後出しでしか分からない。
分からないものを当てにいくのは、比較検討ではなく予測ゲームです。
ここで、このテーマでいちばん多い失敗パターンを挙げます。
「さすがに金利3%とかまでは行かないでしょ」
——こうした“読み”を土台に、35年の返済計画を立ててしまうことです。
その予測に、根拠はあるでしょうか。
多くの場合、「そうなってほしくない」という願望が、いつの間にか「そうはならないはず」という予測にすり替わっているだけです。
自分の予想が当たる前提で人生設計を組み、外れたら破綻する。
それは資産形成ではなく、賭けです。
5年ルール・125%ルールは安心装置ではなく「先送り装置」
変動金利を調べると、必ずこの2つのルールに出会います。
- 5年ルール:金利が上がっても、毎月の返済額は5年間変わらない
- 125%ルール:5年ごとの見直し時も、返済額の増加は直前の125%まで
「急に返済額が跳ね上がらないなら、安心では?」と感じるかもしれません。ここに落とし穴があります。
金利が上がったのに返済額が変わらないとき、家計の見えないところで何が起きているのか。毎月の返済額のうち利息の取り分が増え、元本の減りが遅くなっているのです。
👉 支払額が変わらないだけで、負担は内部で増え続けています。
金利上昇が大きい場合には、毎月の返済額では利息すら払いきれない「未払利息」が発生することもあります。
払えなかった利息は消えてくれません。
後ろに積み上がり、返済期間の終盤や最終回に、まとめて精算を求められる可能性があります。
125%ルールで抑え込まれた分も同じです。
つまりこの2つのルールは、リスクを消す装置ではなく、リスクの表面化を先送りする装置です。
しかも先送りされている間は毎月の支払いが変わらないので、家計の見た目は平和なまま。
危機感すら持ちにくい——僕はここがいちばん怖いところだと思っています。
(なお、金融機関や返済方式によっては、そもそもこのルールがない住宅ローンもあります。その場合、金利上昇は返済額に即座に反映されます。)
住宅ローンは「いくら借りられるか」ではなく「固定金利で払い続けられるか」で決める
ここからが、この記事でいちばん伝えたいことです。
変動か固定かの前に、実はもっと大事な問いがあります。そもそも、いくらまで借りていいのか。
銀行の審査に通った額。
営業担当が「お客様ならこのくらいイケますよ」と言った額。
——それらは「あなたに貸せる額」であって、「あなたが安全に返せる額」ではありません。
貸す側は、あなたの老後資金や、子どもの進学の自由度にまで責任を持ってはくれないのです。
では、どう考えるか。僕の答えはこれです。
👉 「その固定金利を、今後払い続けられる」と判断できる金額までしか、借りてはいけない。
基準は「いくら借りられるか」ではなく、「どの程度までリスクを許容できるか」。そして、その許容度を測る物差しは、変動の低い金利ではなく、固定の金利です。
逆から考えると、この基準の意味がはっきりします。
もしあなたが「変動金利なら毎月払える」という水準まで借りたとしましょう。
それは裏を返せば、金利が今の固定金利の水準まで上がった時点で、ほぼ破綻する設計だということです。
2026年の固定金利は2〜3%台。
歴史的に見れば、特別に高い水準ではありません。
「そこまで上がったら終わり」という家計で、35年を走り切れるでしょうか。
固定金利で払える額まで借入を抑えておけば、話は逆転します。
固定を選べば、返済額は完済まで確定する。
変動を選んだとしても、金利が固定水準まで上がってようやく「想定していた上限」に達するだけ。
どちらに転んでも、家計は壊れません。
「年収の◯倍」・ペアローン・残価設定型——“借りられる額”を膨らませる話に乗らない
借入額の話をすると、必ず出てくるのが「住宅ローンは年収の7倍まで大丈夫」といった目安です。
はっきり言います。あの手の数字は、超ざっくりの目安であって、正しくありません。
同じ年収800万円でも、子どもが2人いる家庭と独身では、毎月出ていくお金がまるで違います。
適正な返済額は収入と支出のバランスで決まり、そのバランスは一人ひとり違う。
あなたに適した返済負担率は、あなたにしか出せないのです。
人に言われた数字をそのまま信じるということは、住宅メーカーや銀行の営業にとって都合のいい数字で、自分の人生を設計するということです。(例外はあります。住宅メーカーや保険屋に“紹介された”のではなく、自ら対価を払って相談するFPやファイナンシャルアドバイザーの提案であれば、あなたの事情が加味された数字である可能性はあります。)
そして最近は、「借りられる額」をさらに膨らませる仕組みが目立ちます。
ペアローンは、夫婦2人の収入を合わせて借入枠を広げる方法です。
枠が広がるということは、「どちらか一方の収入が減ったら回らない額」まで借りられてしまうということ。
産休・育休、転職、病気、そして離婚——共働きが35年間フル稼働で続くことを前提にした設計は、リスク許容度の観点ではもっとも脆い部類に入ります。
残価設定型住宅ローンは、クルマの“残クレ”のように、将来の住宅の価値(残価)を差し引いて月々の返済を軽くする仕組みです。
国土交通省は2025年12月、残価が想定を下回った場合の金融機関の損失をカバーする保険制度の創設を発表し、民間銀行への普及を後押ししています。
住宅価格が高騰するなかでも「手が届く」ようにする政策です。
ただ、借り手側から見れば、月々が軽く見える分だけ、より大きな額を借りられるようになる——構造はペアローンと同じです。
どちらにも共通するのは、「いくら借りられるか」を膨らませる方向の仕組みだということです。この記事の基準——固定金利で払い続けられる額——から見れば、借りられる枠がどれだけ広がろうと、あなたが借りていい上限は1円も変わりません。
それでも変動金利を選んでいい人の条件
ここまで読んで、「じゃあ変動を選ぶのは間違いなのか」と感じたかもしれません。そうではありません。
👉 変動金利を選んでいいのは、金利上昇リスクを自分で引き受けられるだけの運用資産を、すでに持っている人です。
たとえば、ローン残高に見合う金融資産を持ちながら、あえて低金利で借りて手元の資金を運用に回す。
金利が想定を超えて上がってきたら、繰り上げ返済でいつでもリスクを消せる。
——この状態にある人にとって、金利上昇は「破綻リスク」ではなく「コストの変動」にすぎません。
リスクを自分の資産で吸収できるからです。
これは、「借りないと買えない人が、変動で背伸びをする」のとはまったく別の判断です。言うなれば、“買える人が、あえて借りる”。
この状態にある人が次に考えるべきは、「繰り上げ返済と投資、どちらを優先するか」という設計です。判断軸(イールドギャップ)はこちらで整理しています。
→ 繰り上げ返済 vs 投資|変動金利が上がる2026年、どっちを優先すべきか
ここで一つ、僕自身の話をします。
僕は15年前、約4,000万円の住宅ローンを、リスクを引き受けた自覚のないまま変動金利で組みました。金利のない時代が運よく続いてくれたおかげで、結果オーライだっただけです。
では、今の知識を持った僕が、あの時点に戻って借り直すならどうするか。
固定を選んだ上で、借入額を1,000万円ほど減らします。
大手ハウスメーカー以外の選択肢まで含めてしっかり探せば、家の質をそこまで落とさずに総額を下げる余地はあった、と今なら分かります。
それでも、ローンを組めば債務超過から始まることは変わらない。
だったらせめて、金利上昇リスクは銀行に負ってもらう。
——当時の僕には運用資産がなかったのだから、そもそも変動を選ぶ資格がなかったのです。
金利上昇“以外”のリスクは、固定を選んでも消えない
最後に、大事な注意をひとつ。
固定金利を選べば安心、ではありません。固定が消してくれるのは「金利上昇リスク」という一つのリスクだけです。
- 収入が減る・働けなくなるリスク
- 病気や介護で支出が急増するリスク
- 10〜15年ごとにやってくる外壁・屋根・設備の修繕費
- 固定資産税という、住み続ける限り消えない固定費
- 学校や隣人が合わなくても、簡単には引っ越せなくなるリスク
これらは、変動を選ぼうが固定を選ぼうが、家を持った瞬間からあなたの家計に乗り続けます。だからこそ、住宅ローンとは別枠で生活防衛資金を確保しておくことが、金利タイプの選択と同じくらい重要になります。
→ 生活防衛資金はいくら必要?2026年・物価高とNISA満額時代の最低ライン
「固定にしたから大丈夫」で思考を止めない。固定は、数あるリスクのうちの一つを銀行に移しただけ——この距離感を忘れないでほしいのです。
まとめ|余裕のない人ほど固定。それは臆病ではなく、設計だ
要点は3つだけです。
- 変動と固定の違いは損得ではなく、金利上昇リスクを自分と銀行のどちらが負うか。固定の上乗せ金利は、リスクを移すための「保険料」
- 借りていい上限は「いくら借りられるか」ではなく、「その固定金利を今後払い続けられると判断できる額」まで。年収の◯倍も、ペアローンも、残価設定型も、この上限を1円も増やさない
- 変動を選んでいいのは、金利上昇リスクを自分の運用資産で吸収できる人だけ。そして、金利以外のリスクは固定を選んでも消えない
お金に余裕のない人ほど、固定を選ぶべきです。
それは臆病な選択ではありません。自分では負いきれないリスクに値札を付けて、銀行に引き受けてもらう——リスクの置き場所を自分の意思で決めた、立派な家計の設計です。
15年前の僕のように「安いから」だけで変動を選ぶのではなく、リスクの側から積み上げて、胸を張ってどちらかを選んでください。
📚 “これは予想か、希望か”と立ち止まれるようになる1冊
※ 下記リンクは成果報酬型広告です。遷移先はAmazon・楽天の公式サイトです。
「そうなってほしくない」が、いつの間にか「そうはならないはず」にすり替わる——本文で挙げたこの失敗を、山崎元さんは「予想」と「希望」を混ぜている状態だと一刀両断します。僕自身、この本を読んでから金利や相場の見通しを口にする前に「これは予想か、希望か」と一度立ち止まる癖がつきました。35年の住宅ローンという、人生でいちばん長い「予想したくなる場面」に向き合う前に読んでおきたい1冊です。
「そもそも今、建てるべきか・買うべきか」の問いに、まだ答えを出していない方はこちらへ。

本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
