親の介護費用はいくら?始まる前にしか作れない設計図|お金・時間・収入で備える

親の介護のことを考えると、不安になる。

でも、その不安の正体を聞かれて答えられる人は、ほとんどいません。「いくらかかるか分からない」「いつまで続くか分からない」「自分の仕事はどうなるのか分からない」——不安の中身は、ぜんぶ「分からない」です。

生命保険文化センターの2025年度調査では、将来親などを介護する立場になった場合に「不安感あり」と答えた人は71.9%。

そして不安の内容を見ると、1位は「自分の肉体的・精神的負担」(66.1%)、2位は「自分の時間が拘束される」(54.7%)。

お金の不安(49.2%)より、時間の不安が上に来ています。

この記事は、その「分からない」を1つずつ数字に変えていきます。読み終わる頃には、自分の家の数字を入れて「親の介護の設計図」が描けるようになっているはずです。

介護は、ある日突然始まります。でも設計は、始まる前にしかできません。

📢 本記事にはアフィリエイトリンク(成果報酬型広告)が含まれます。 詳細は免責事項をご覧ください。
目次

「3,298万円」と「542万円」——不安は6倍に膨らむ

まず、この2つの数字を見てください。

  • 3,298万円——介護が必要になった場合に「必要だと思う」金額の平均(意識調査)
  • 約542万円——実際に介護を経験した人が使った金額の平均から計算した総額

どちらも同じ調査(生命保険文化センター「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」)から出てきた数字です。

介護未経験の人が頭の中で見積もった必要資金は、初期費用209万円+月15.7万円×15年1ヶ月=総額平均3,298万円

一方、実際に介護を経験した人の実測は、一時費用が平均47万円、月々の費用が平均9.0万円、介護期間は平均55.0ヶ月(4年7ヶ月)。

掛け算すると47万円+9.0万円×55.0ヶ月≒約542万円です。

介護費用の想定と実測の対比:未経験者の想定は総額3,298万円、経験者の実測は約542万円で差は約6倍(生命保険文化センター2024年度調査より作成)

想定と実測の差は、約6倍。

「分からない」ままにしておくと、不安は実態の6倍に膨らむ——これがこの調査の本当の教訓だと僕は考えています。逆に言えば、実態の数字を知るだけで、不安の大半は消えます。

ただし平均には注意が必要です。

介護期間の分布を見ると「4〜10年未満」が27.9%で最多、「10年以上」も14.8%います。

「いくらか」より「いつまでか」が読めないことが、介護費用の本質的なリスクです。

👉 「平均542万円を貯める」ではなく、「期間が延びても壊れない設計」を作る。これがこの記事の答えです。

大原則——親の介護は、親のお金で

設計の話に入る前に、原則を1つだけ。

親の介護費用は、親のお金(年金・貯蓄)で払う。これが大原則です。

冷たく聞こえるかもしれませんが、逆です。

子が自分の家計から介護費用を出し続けると、子の資産形成が止まります。

すると数十年後、今度は自分の子(親から見て孫)が同じ負担を背負う。

家計の沈没が世代を越えて連鎖する——これを断ち切るのが、この原則の目的です。

実際、厚生労働省の調査でも、介護費用の大多数は被介護者本人や配偶者の収入・貯蓄で賄われており、それ以外の家族が出しているケースは1割弱です。「親のお金で」は例外的な考え方ではなく、多数派の現実です。

きょうだいがいる場合、話し合うべき順番も変わります。

「誰が介護をやるか」の前に、「親の財布の情報を全員で共有する」が先です。

親の年金月額と資産が分からないまま役割分担だけ決めると、後から「お金が足りない、誰が出す」で必ず揉めます。

「在宅は安い」は半分しか本当じゃない——在宅と施設の介護費用を、お金・時間・収入で比べる

2024年度の実態調査では、介護の月額費用は在宅が平均5.3万円、施設が平均13.8万円。差額は月8.5万円、年間で約102万円です。

数字だけ見れば「在宅が安い」。でも、この比較には大きな落とし穴があります。

在宅の5.3万円には、家族の労働が1円も計上されていません。

在宅介護の「安さ」は、家族の時間と労力が無料でカウントされているから成立しています。

通いの時間、仕事を時短にする、残業を断る、有休を使い切る——これらは全部コストです。

2025年度調査で親の介護の不安の2位が「自分の時間が拘束される」だったのは、経験者と観察者の実感がここに集中しているからでしょう。

そして最悪の選択が、介護離職です。

介護・看護を理由に仕事を辞める人は年間約9.3万人。

2000年(3.8万人)から約2.4倍に増えています(厚生労働省「雇用動向調査」2024年)。

年収600万円の人が「施設代の年102万円を節約するため」に仕事を辞めて在宅介護をすると、102万円を守るために600万円を失うことになります。

差し引き、年約500万円のマイナス。

さらに離職期間中は厚生年金の加入も止まるので、自分の老後年金まで減ります。

復職できても、同条件に戻れる保証はありません。

経済産業省の試算では、2030年に働きながら介護する人は約318万人、介護を理由とする労働損失は約9兆円に達すると見込まれています。国レベルで見ても、介護で仕事を失うことが最大の損失なのです。

在宅介護と施設介護の総コスト比較:在宅は月5.3万円に家族の時間と収入減という値札のないコストが乗る。施設は月13.8万円だが仕事を続けられる

誤解しないでほしいのですが、在宅介護が間違いという話ではありません。親の希望、家までの距離、要介護度によっては在宅が最適な家庭もたくさんあります。

👉 金額表の2つの数字だけで選ばない。「お金・時間・収入」3つのコストの合計で選ぶ——僕が言いたいのはこれだけです。

制度の道具箱——費用には天井を、収入には防波堤を

「青天井だったらどうしよう」という不安には、制度の知識が効きます。

費用の天井:高額介護サービス費

介護保険サービスの自己負担(1〜3割)には、所得に応じた月額上限があります。

一般的な課税世帯なら月44,400円

これを超えた分は申請すれば戻ってきます(初回申請すれば以後は自動振込)。

住民税非課税世帯なら24,600円、高所得世帯でも最大140,100円です。

つまり、介護保険サービスの自己負担は青天井ではありません。※施設の居住費・食費・差額ベッド代などは対象外なので、施設介護ではここが変動要素になります。

収入の防波堤:介護休業は「介護をする期間」ではない

介護休業は通算93日・3回まで分割でき、雇用保険から賃金の67%が給付されます。

ここで大事なのは、93日の使い方です。

93日で介護をやり切るのではなく、「辞めずに介護の態勢を整える期間」として使う。要介護認定の申請、ケアマネジャーとのケアプラン作成、施設や介護サービスの手配——これらの初動を、辞めずに乗り切るための制度です。

2025年4月の法改正で、介護に直面した従業員への制度の個別周知が企業に義務化され、介護のためのテレワークも努力義務になりました。「介護=退職」という前提は、制度の側から崩れ始めています。

設計の本丸——親と話す。意向は「気持ちの問題」ではなく設計変数

ここまでの話には、実は全部、共通の前提があります。

  • 親のお金で払う → 親の資産と年金額が分からないと実行できない
  • 在宅か施設か → 親の希望が分からないと選べない
  • 制度を使う → 親の所得区分が分からないと上限額が計算できない

つまり、親と話をしないかぎり、この設計図は1行も埋まりません。「親の気持ちを聞いておく」は思いやりの話に見えて、実は設計に必須の入力値の確認です。

確認しておきたい項目

  1. 年金の月額(介護費用の主財源。夫婦それぞれ)
  2. 資産の概要(預貯金・保険・不動産。詳細な金額よりまず「どこに何があるか」)
  3. 加入している保険(民間介護保険・医療保険の有無と証券の場所)
  4. 在宅と施設、どう考えているか(「最期まで家がいい」のか「子に負担をかけたくない」のか)
  5. かかりつけ医と健康状態
  6. きょうだい間の情報共有(上記1〜5を、主担当だけでなく全員が知っている状態に)

設計の計算式(自分の家の数字で)

材料が揃ったら、計算は3ステップです。

  1. 月の不足額=想定月額費用(在宅なら5.3万円、施設なら13.8万円を仮置き)− 親の年金月額
  2. 総額の目安=月の不足額×期間シナリオ(平均の55ヶ月と、長期化の120ヶ月の2本で)+一時費用47万円
  3. 判定=総額の目安と親の資産を比較。親の資産で足りるなら、子の家計の出番はなし。足りない場合に初めて「きょうだいで、いくらずつ、どの順番で」を話し合う

この3行が埋まった時点で、「なんとなく不安」は「対処すべき数字」に変わっています。

切り出しにくいときは

お金の話をいきなり切り出すのは難しいものです。使えるきっかけを2つ。

  • 40歳の介護保険料:40歳になると給与から介護保険料が天引きされ始めます。「自分も介護保険料を払い始めたんだけど、そっちの介護保険証ってどうなってるの?」は自然な入口です
  • この記事のような外部の情報:「こういう記事を読んだんだけど、うちの場合はどうなんだろう」と、第三者の数字を間に挟むと話しやすくなります

まとめ——僕は、子どもに同じ計算をさせない

最後に、設計図の全体をもう一度。

  1. 実態を知る:経験者の実測は一時費用47万円+月9.0万円×平均55ヶ月≒約542万円。頭の中の3,298万円とは6倍違う
  2. 原則を決める:親の介護は親のお金で。子の資産形成は止めない
  3. 3つのコストで選ぶ:在宅5.3万 vs 施設13.8万の金額差だけでなく、時間と収入まで含めた総コストで。介護離職だけは避ける
  4. 制度の天井と防波堤を知る:高額介護サービス費(月44,400円〜)と介護休業93日×67%
  5. 親と話して設計図を埋める:年金額・資産・意向。意向は気持ちの問題ではなく設計変数

ここまで書いてきて、僕自身が思うことがあります。

この設計図は、親に「財布と気持ちを開いてほしい」とお願いする話です。

それなら僕は、自分が親の側になったとき、子どもに同じお願いをさせたくない。

介護が必要になっても自分のお金で完結するように資産を作っておくこと、そして元気なうちに自分から財布と希望を開示しておくこと。

少なくともお金の面では、子どもに僕の介護の計算をさせない——そういう設計をしておきたいと考えています。

そのための土台は、特別なものではありません。いつもこのブログで書いている、生活防衛資金を確保して、余剰資金を低コストのインデックスファンドで積み立てる、それだけです。

生活防衛資金はいくら必要?2026年・物価高とNISA満額時代の最低ライン

▼ 自分の老後資金の設計は、この2本で詳しく書いています

あわせて読みたい
老後資金シミュレーション|「2,000万円問題」を卒業して“自分の数字”を作る方法 📢 本記事にはアフィリエイトリンク(成果報酬型広告)が含まれます。 詳細は免責事項をご覧ください。 「老後2,000万円問題」という言葉が独り歩きして、もう何年も経...
あわせて読みたい
ライフプラン表の作り方|老後2,000万円を「自分の数字」で考える 「老後2,000万円が必要」という言葉を、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。 でも、この2,000万円という数字を見て、こう思いませんでしたか。 「自分の場合...

親の介護の設計図は、親が元気な今日しか描けません。

次の帰省で、まず年金の月額から聞いてみてください。

ちょうどお盆に帰るなら、祖父母の思い出話に添えて——「おばあちゃんのときは、どうだった?」から、親自身の想いを聞いてみるのもいいかもしれませんね。

📚 「お金・時間・収入」で人生を設計する視点が手に入る1冊

※ 下記リンクは成果報酬型広告です。遷移先はAmazon・楽天の公式サイトです。

この記事の核だった「お金・時間・収入」の3つのコストという考え方は、本書の言う金融資本・人的資本・社会資本——3つの資本で人生を設計する枠組みと、きれいに重なります。
介護離職が「年102万円のために年収600万円を失う」話に見えてくるのも、人的資本という物差しがあればこそ。
僕自身、家族のお金の問題を金額表だけで判断しそうになるたびに、この3つ組に立ち返っています。

本記事の注記

  • 介護費用(一時費用47万円・月額9.0万円・在宅5.3万円/施設13.8万円)・期間(平均55.0ヶ月)・意識ベースの必要総額3,298万円は、生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」によります
  • 親の介護に対する不安(不安感あり71.9%・不安の内容の順位)は、生命保険文化センター「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査」によります
  • 介護離職者数(約9.3万人/年)は厚生労働省「雇用動向調査」2024年、ビジネスケアラーの試算(約318万人・約9兆円)は経済産業省の経営者向けガイドラインによります
  • 高額介護サービス費の上限額・介護休業制度(93日・給付67%・2025年4月改正)は2026年7月時点の制度です
【免責事項】
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ファイナンシャルプランナー(FP技能士)|東証プライム上場企業の会社員。
40代から資産形成に本気で取り組み、1年で純資産1000万円増を達成。
「今さら遅いかも…」と不安な方へ、データと実体験に基づく合理的な資産形成を発信しています。

目次