「成長しない会社の株を買っても、
期待できるリターンは成長する会社と変わらない」
——そう聞いて、意味がわかるでしょうか。
僕は最初、まったくわかりませんでした。
でもこれは、株価の決まり方から導かれる、投資理論の核心です。
結論から言うと、この記事でいちばん伝えたいのはこの一点です。
株式のリターンは「良い会社を選ぶこと」からではなく、
「株式というリスク資産を保有すること」そのものから生まれる
この記事を読み終える頃には、
「どの銘柄が伸びるか」を当てなくても資産形成ができる理由が、
理屈から腹落ちしているはずです。
暴落の底で「このまま持っていていいのか」と迷ったとき、
最後に支えてくれるのはこの理解です。
※この記事は、長期のインデックス投資で資産形成を目指すことを前提としています。
株式のリターンの源泉「リスクプレミアム」とは
銀行預金との違いは「不確実性を引き受けているかどうか」
銀行預金は、ほぼ確実に元本が守られます。
その代わり、リターンはごくわずかです。
一方、株式は日々値動きします。
1年で3割下がることも、普通に起こります。
👉 この「不確実性(値動きの幅)」を引き受けることへの報酬が、株式のリターンの源泉です。
投資の世界では、この報酬を リスクプレミアム と呼びます。
リスクを取る人には、リスクを取らない人より高いリターンが期待できる状態になっていなければ、
誰もリスクを取りません。
だから株式の期待リターンは、
「無リスクで得られる金利」に「リスクの上乗せ分」を足した形になります。
株式の期待リターンはどのくらいか
歴史的には、株式に期待できるリスクプレミアムは
無リスク金利+5%前後 とされることが多いです。
無リスク金利には通常、信用力の高い国の国債利回りが使われます。
2026年8月時点では、
- アメリカ10年国債:約4.7%
- 日本10年国債:約2.7%
です。
つまり過去の経験則をそのまま当てはめれば、
株式には 年率7〜9%程度の期待リターン が見込める計算になります。
ただしこれは、あくまで期待値ベースの過去の経験則です。
実際の年ごとのリターンはこれより大きく上下しますし、
15年以上の長期投資が前提の数字です。
→ そのリスク(振れ幅)あたりのリターンを“効率”としてとらえ直す考え方はこちらで整理しています
リスクプレミアムの正体は「企業の意思」ではなく「価格形成」
「成長する会社を買えば増える」が成立しない理由
ここからが、この記事でいちばん大事な話です。
僕自身、投資理論の中でいちばん理解に時間がかかった部分でもあります。
たとえば、毎年10%成長するA社と、
2%しか成長しないB社があるとします。
そして、この成長率を市場の全員が知っているとします。
すると何が起きるか。
A社の株には、みんなが欲しがるぶん、すでに高い値段が付いています。
B社の株は、人気がないぶん、安く放置されています。
ここが肝心なところです。
投資のリターンは「会社の成長」そのものからではなく、
「自分が払った値段」と「将来受け取る価値」の差から生まれます。
A社は成長するけれど、高い。
B社は成長しないけれど、安い。
値段の調整が終わったあとでは、
「払った値段に対するリターン」は、どちらも同じ水準に落ち着くのです。
👉 低成長には、低成長なりの安い値段が付く。だから期待リターンは変わらない。
株価とは、そういうふうに形成されています。
競馬のオッズと同じ構造
この値付けの仕組みは、競馬のオッズとまったく同じ構造です。
強い馬は、当たりやすい。
でもオッズが低いから、当たっても儲けは小さい。
弱い馬は、当たりにくい。
でもオッズが高いから、当たれば大きい。
みんなの予想がオッズに織り込まれた結果、
「どの馬に賭けるか」で期待値の差はほとんどなくなります。
株式市場でも同じことが起きています。
「A社が成長する」とみんなが知った瞬間、その情報は株価に織り込まれ、
そこから先の期待リターンの差は消えていくのです。
※ただし、競馬と投資には決定的な違いが1つあります。競馬は胴元の取り分が引かれた残りを参加者で奪い合うマイナスサムのゲーム。株式投資は、企業が生み出す利益が土台にあるプラスサムの世界です。
→ 投資はギャンブルではない|この違いはこちらで整理しています
では、リスクプレミアムは誰が「払って」いるのか
「企業が株主に5%くらい還元しようと決めている」
わけではありません。
払っているのは、「リスクを取りたくない人たち」です。
値動きの不確実性が嫌な人は、
株式を買わず、預金に留まります。
リスクを取りたくない人が多いほど、
株式という資産全体の値段は、
「この不確実性を引き受けてもいい」と思える水準まで
安く保たれ続けます。
リスクを避けた人が受け取らなかった上乗せ分が、
リスクを引き受けた人への報酬として回ってくる——
これがリスクプレミアムの実体です。
この構造を、山崎元さんは生前、こう言い切っていました。
「経済の世界は、リスクを取ってもいいと思う人が、リスクを取りたくない人から利益を吸い上げるようにできている」
過激に聞こえるかもしれませんが、
搾取の話ではありません。
リスクを取りたくない人のお金は、預金として銀行に集まり、
銀行を通じて企業への融資に回ります。
受け取るのは、ごくわずかな利息だけ。
一方、そのお金で企業が挑む事業のリスクを、
最終的に引き受けているのが株主です。
だから上乗せ分は、株主に入る。
「吸い上げ」の正体は、リスクの引き受け手に報酬が移る、資本主義の当たり前の仕組みなのです。
企業は利益の一部を事業に再投資して成長し、
その結果として株価や配当が伸びます。
そして株価のほうは、
すべての投資家が要求するリターンの平均に見合う水準へと、
市場で調整され続けています。
👉 リスクに見合うリターンを提供できない会社は、資金が逃げて株価が下がる。そして株価が下がったぶん、その安さが次の買い手への「上乗せ報酬」になる。
この調整が絶えず働いているから、
株式というアセット全体では、
リスクプレミアムが期待リターンとして残り続けるのです。
そもそもなぜ資本主義社会では、株式にリターンが生まれ続けるのか。
その大前提はこちらで整理しています。
→ r>g|資本主義の大原則が教えてくれること
個別株では、この仕組みが働く保証がない
ここまでの話には、1つ大事な注釈が付きます。
価格形成が「期待リターンを揃える」のは、
あくまで市場全体の平均として、の話です。
1銘柄ずつ見れば、話は別です。
- 期待が外れて、株価が戻らないまま低迷する会社
- 倒産して、価値がゼロになる会社
は、必ず一定数出ます。
サイコロを1回だけ振って「期待値は3.5だ」と言っても意味がないのと同じで、
1銘柄だけ持って「期待リターンは年5%」を受け取れる保証はどこにもないのです。
👉 リスクプレミアムを確実に受け取りたければ、「平均」を丸ごと持つしかない。
これが、市場全体をまとめて買うインデックス投資が
理論的に強い理由です。
個別株の「当たれば大きい」を捨てる代わりに、
「外れてゼロになる」も捨てて、
株式というアセットの平均リターンだけを堅実に受け取りに行く。
→ その“市場まるごと”を1本で実現する仕組み(ACWIの仕組み)
まとめ:リターンは「選ぶこと」ではなく「保有すること」から生まれる
今回は、
- 株式のリターンの源泉=リスクプレミアム
- リスクプレミアムの正体は「価格形成」(低成長には低成長なりの値段が付く)
- 個別株では「平均」を受け取れる保証がない
について整理してきました。
株式のリターンは、
銘柄選びのうまさからではなく、
株式というリスク資産を保有し続けることそのものから生まれます。
だから長期の資産形成で最初にやるべきは、
「どの会社が伸びるか」を当てにいくことではなく、
市場平均と言える、十分に分散が効いた低コストのインデックスを持ち続けることです。
この理解が腹の底にあれば、
暴落で株価が3割下がった日にも、
「リスクプレミアムの受け取りの途中だ」と考えて持ち続けられます。
これが、僕の考える“握力”の正体です。
📚 “平均を受け取る側”に回る覚悟が決まる1冊
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理屈はわかった。それでも市場が暴れると、
「自分だけ何か手を打った方がいいんじゃないか」という気持ちは、何度でも顔を出します。
この本は、プロの機関投資家ですら市場平均に勝ち続けられないことをデータで示し、「市場平均をまるごと受け取る側に回る」ことがなぜ勝ち筋なのかを腹落ちさせてくれます。
僕が「平均を取りに行く」と覚悟を決めた背中を、最後に押してくれた1冊です。
では、その「市場平均」をどの指数で受け取るか。
オルカンか、S&P500か——。

実はこの選択の前に、決めるべきことがあります。
それが「資産配分」です。

本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
