含み損になって、僕が初めて疑ったのは”自分の判断”だった(サイドFIREへの軌跡:第8話)

サイドFIREへの軌跡

──朝、出社前。
ソファに腰かけて、いつもの習慣でマネーフォワードを開いた、その瞬間。

総資産が、昨日より70万円減っていました。

こんにちは、飛雄です。

ここまでの話を、簡単に振り返らせてください。

  • 第6話で、NISAをやる証券会社を楽天証券に決めました
  • 第7話で、口座別のポートフォリオをようやく確定させました
  • 2024年12月、楽天証券への移管が完了
  • 2025年1月から、資金が動かせるタイミングで即購入を繰り返し
  • 3月下旬、ようやく余剰資金の投入を完了させました

そして、その直後でした。
2025年4月、トランプショックが市場を直撃したのは。

この回は、初めて本格的な含み損とぶつかった僕が、何に揺らぎ、何で立て直し、隣にいる人にどう支えられたかの記録です。

余剰資金の投入が完了した、その直後だった

赤い数字がスマホの画面に並んでいた。

「うわ」

思わず声が漏れる。2025年4月、ある平日の朝だった。コーヒーを淹れる前にソファに腰を下ろし、習慣のようにマネーフォワードを開く。総資産が、昨日より70万円減っている。投資以外の資産を含めての数字とはいえ、1日でこれほど下がる経験は初めてだった。

楽天証券のアプリに切り替える。投資信託の評価損益欄は、上から下まで真っ赤に染まっていた。

楽天・プラス・オールカントリー、赤。
楽天・プラス・S&P500、赤。
楽天・プラス・NASDAQ-100、赤。

買ったばかりの銘柄が、ひとつ残らず含み損に転落していた。

楽天証券から毎日届く基準価額メールにも、容赦のない数字が並ぶ。S&P500のリターン年率はマイナス3.97%、NASDAQ-100は同マイナス5.64%。NASDAQ-100が1営業日で3.31%下げた日もあった。

アプリを閉じた。少しのあいだ、ぼんやりしていた。

頭ではわかっていたつもりだ。インデックス投資は長期前提で、短期の上下に一喜一憂しないのが鉄則。──そんなことは知っている。けれど目の前の真っ赤な画面は、「知っている」と「経験する」がどれほど違うかを、たった数秒で僕に教えてきた。

「積立を止めたい」とは1ミリも思わなかった。でも──

ただ、はっきり書いておきたい。

「積立を止めたい」「もう買い増すのをやめよう」──そんな考えは、1ミリも浮かばなかった。

インデックス投資の合理性は、第7話までの長い葛藤と、何冊もの読書で十分に腹に落ちていた。下がっている時こそ口数を多く拾える、というロジックは、頭にも、腹にも、しっかり居場所を作っていた。

止めたくはない。それは確かだった。

ただ、別の場所が揺れていた。

──あえて分割(時間分散)にしておけばよかったか。
──あと数日待てばもっと安く買えたんじゃないか。

合理的に選んだ「年初一括」という方針そのもの──ではなく、その方針の中での自分の行動の細部に、後悔が波打ってくる。

補足しておくと、本当は完全な年初一括をやりたかった。けれど銀行口座の整理が間に合わず、1日50万円の引き出し制限に引っかかってしまうなど、結果的に1月から3月にかけての分割買付になっていた。意図したかたちではない、半端な分割。それが、4月の下落の前に余剰資金を投入し終えるかたちにつながっていた。

──もう少しゆっくり積んでおけばよかった。
──あの3月後半の購入、4月まで待ってたらもっと安く買えたな。

頭の中で、勝手に声が再生される。

合理的手法そのものへの信頼は揺らがない。けれど、自分の判断のタイミングだけが、うまくいかなかったように見える。インデックス投資を信じる気持ちと、自分の判断を疑う気持ちが、頭の中で同時に成立していた。

※ そもそも一括投資と「時間の分散」のどちらが合理的かは、構造で決着がつく話です。別の記事で整理しています。
「時間の分散」はただの気休め?合理的な投資家が一括投資を好む、これだけの理由

たぶんこれが、いわゆる事後諸葛亮(じごしょかつりょう)というやつだろう。結果を見てから、いくらでもうまくやれたように語れるアレだ。──のちに、そう気づくことになる。

名著を読み直して、ようやく腹落ちした「事後諸葛亮の罠」

このまま自分の判断を疑い続けたら、本当にやっかいなことになる。本棚から、何冊か投資本を引っ張り出した。

  • 『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス)
  • 『JUST KEEP BUYING』(ニック・マジューリ)
  • 『経済評論家の父から息子への手紙』(山崎元)

どれも、過去に一度は通った本ばかり。けれど、含み損のさなかに読み返すと、過去に読んだときとはまったく違う温度で文字が入ってきた。

3冊が共通して、繰り返し言っていることはシンプルだった。

市場のタイミングは読めない。だから、読まないで動き続けることが正解になる。

それまでの僕は、この一文を「知識」として持っていた。
4月の含み損のさなかに読み直した僕は、これを経験として持つことになった。

そして、もう一つ大事なことに気づいた。

「あと数日待てばよかった」というのは、4月の下落を見たから言える話であって、3月の僕は4月にトランプ関税が出ることを知らない。3月の僕にとって、「資金が動かせるタイミングで即動く」は、その時点で持っていた情報と方針からすれば、いちばん合理的な選択だったはずだ。

頭の中の自問自答が、ようやく落ち着く。

👉 過去の自分の判断を、未来の情報で殴ってはいけない。

※ 「下がったら買おう」がなぜ機能しないのかは、別の角度でこちらに書いています。
”下がったら買おう”と思った時点で、投資はブレている|インデックス投資家が守るべきこと

むしろ、この経験が一番来てほしいタイミングで来てくれた

ここから少し、強がりに聞こえるかもしれません。

でも、本気でそう思いました。

この含み損は、僕にとって最高のタイミングで来てくれた、と。

理由は2つあります。

ひとつめ。投資を始めて間もない、まだ「タイミングを読もうとしない」という方針が体に馴染みきっていない時期に、いきなり下落を経験できたこと。これがもし、5年後、10年後、資産が倍になってからの含み損だったら、金額のインパクトはもっと大きかったはずです。

ふたつめ。タイミングを読もうとせずに動いた直後に、見事に下げに巻き込まれたこと。もし運悪くタイミングを読もうとして、たまたまうまくいって、その後の上昇で「ほら、待ったほうがよかったじゃん」となっていたら、僕はずっと「次はもう少し待とうかな」を引きずって、20年後に読みのうまくいかない自分を発見することになっていたでしょう。

「読まずに動いた → 直後に下げた → 結局あとで戻ってくる」

この一連の流れを、まだ資産規模が小さい段階で体験できたこと。これは、今後20年・30年の積み立て生活で、何度も拾える教訓になりました。

含み損のさなかにここまで言語化できたわけではありません。本を読み返しながら、少しずつ、自分の経験を「次の自分のための燃料」に組み替えていった、という感覚に近いです。

本当に怖かったのは、妻が動揺することだった

正直に言うと、4月の含み損で、僕の中で一番大きかった不安は自分の含み損ではなかった

──仁花が、これを見て、積立を不安に思ったらどうしよう。

それだった。

第4話で書いたとおり、僕たちは保険の見直しを通して「夫婦で家計と資産形成を一緒に考える」入口に立った。仁花は当時、証券口座もマネーフォワードも、自分からはあまり開かない人だった。だからこそ、ニュースで「市場が大暴落」と聞いて、「飛雄、大丈夫なの?」「積立、いったん止めたほうがよくない?」と言ってきたら、僕はどう答えるんだろう──と。

仁花は、僕から見るとどちらかというと感情寄りの人だ。
(僕が普通より合理性に振り切れているから、そう感じるだけかもしれないけれど。)

2024年の夏から一緒に読んできた本は、共通言語をつくるためのものでもあった。彼女が読み終えた本に印をつけているのを見るたびに、ありがたいなと思っていた。

でも、本を読んでいることと、暴落の渦中でその知識をブラさずに保てることは、別物だ。
頭ではわかっている。けれど目の前で資産が減っていれば、感情がそれを上書きする。──自分自身が4月にやっていたことそのままだったから、よくわかった。

だから僕は、含み損のことを仁花にすぐには言わなかった。
言って動揺させて、せっかく走り出した「夫婦で資産形成」のリズムを、僕自身の動揺で乱したくなかった。

戻り始めた頃、妻に振った会話で返ってきた一言

5月下旬。総資産ベースで、暴落前の水準にだいたい戻ってきた。

──休日の午後、リビング。

仁花は、家計見直しのあとに始めた不用品販売の梱包作業をしていた。段ボール、ガムテープ、伝票。テーブルの上に小さな商売の道具が並んでいる、見慣れた光景。

僕はその隣で、また投資本を読んでいた。

ひと段落ついて、「ちょっと休憩してお茶でもしようか」となり、コーヒーを淹れて、二人でリビングのソファに腰を下ろす。

「すごい色々片付けてくれてるよね。いつもありがとう」

そう切り出すと、仁花が笑った。

「うん。やり始めたら楽しいし、1つひとつはそんなに利益出ないんだけど、何より家の中が綺麗になっていくのが嬉しくて」

「それで稼いじゃうんだから、ほんとありがとう。俺は0→1達成できてないから、完全に負けたなぁ。尊敬するよ」

「いやいや、飛雄が稼いでくれるからこそだし、今も投資とかすごい勉強してくれてるじゃん」

少しの沈黙のあと、僕は、ずっと胸にしまっていたことを切り出した。

「そういえば……だいぶ戻ってきたけど、実は結構下がってたんだよね、相場」

仁花は、手元のコーヒーから視線を上げて、こう返してきた。

ちょいちょい見てはいたよ。もっと投資しとけばよかったよね。

──息が止まった。

「もっと投資しとけば」。
彼女の口からその言葉が出てくるとは、想像もしていなかった。

「投資、危なくない?」でも、
「ちょっと止めない?」でも、
「私は怖いから現金で持っておきたい」でもなく。

「もっと投資しとけばよかったよね」

それは、暴落をリスクではなく安く買えるチャンスとして捉えていた人の言葉だった。一緒に本を読んできた、その何冊かの内容を、確かに自分の中で消化してくれていた人の言葉だった。

頼もしさと、安堵と、ほんの少しの恥ずかしさが、いっぺんに来た。

4月の含み損のあいだ、僕は彼女の動揺を一人で勝手に心配していたわけだ。
その間、彼女は梱包作業の合間に「ちょいちょい見て」、暴落をきちんと「次のチャンス」として処理していた。

あの瞬間、僕は確信した。
この人と長期のインデックス投資を、ちゃんとやっていける、と。

4月の含み損で、僕が学んだ3つのこと

最後に、当時の自分が拾った気づきを3つだけ残しておきます。

  1. インデックス投資の合理性そのものは揺らがない。揺らぐのは”自分の判断のタイミング”のほう。下がってから「もう少し待てばよかった」が出てくるのは当然で、それは合理性の否定ではなく、人間の脳の癖です
  2. 過去の自分の判断は、当時の情報量で評価する。未来の情報で過去の自分を殴ると、永遠に勝てない自問自答ループに入ります
  3. 隣にいる人に、含み損を一人で抱えなくていい。本を一緒に読んでくれている相手なら、たぶん自分が思うより、ずっと冷静に状況を見ています

ここまでの軌跡で、僕は「制度を整える」「証券会社を選ぶ」「ポートフォリオを決める」「実際に買う」を経験しました。
そしてこの第8話で、ようやく「下落と向き合う」を経験しました。

サイドFIREに向かう道のりは、晴天の日ばかりではありません。でも、雨の日に折れずに歩けるかどうかが、結局のところ20年後・30年後の景色を決めます。

僕の場合、雨の日に折れずに済んだのは、本と、隣にいる人と、自分の合理的判断を諦めなかったこと。
このシリーズを読んでくれている方の中にも、最初の含み損で揺れている方がいるのではないでしょうか。
その揺れは、たぶん「合理性を捨てるべき」というサインではなく、「合理性の経験値を上げるべき」というサインです。

▼ 下落のさなかで、積立を止めるか迷ってしまう方へ。順序リスクをシミュレーターで触ってみると、止めない選択の合理性が体感で見えます。

【本記事の注記】

  • 本記事中の「リターン年率 −5.64%/−3.97%」の数値は、楽天証券から届いた2025年4月15日・18日付けの基準価額メールに記載されていた、楽天・プラス・NASDAQ-100/S&P500の年率リターン表示に基づきます
  • 「1日で総資産−70万円」は、マネーフォワードME上の総資産(投資以外の資産も含む)の日次変動として観測した数字で、投資分のみの下落幅ではありません
  • 「銀行口座の1日50万円の引き出し制限」は、当時のメインバンクのATM・ネット振込における日次上限です。証券会社側の制限ではありません
  • 読み直した3冊は、当時の自分の記憶に基づく書名です。具体的なページ・章には触れていません

これまでのエピソード

  • 第1話:資産形成の始め方|40代で気づいた必要性と最初の一歩
  • 第2話:「新NISA」より先に。45歳で知った10年間の「債務超過」と、2.5倍に化けた14年前のギフト
  • 第3話:保険という「聖域」にメスを入れた日|月7万円を奪い続けた「お守り」の正体
  • 第4話:資産形成最大の壁は「妻」だった!?|保険解約で学んだ夫婦の合意形成
  • 第5話:合理的に選んだはずなのに不自由になった。通信費で学んだ意思決定の落とし穴
  • 第6話:NISAはどの証券会社でやるべきか|知らずに損した僕の失敗と「見えないコスト」
  • 第7話:何を買うか決められなかった夜。投資デビューで感情に揺れた僕が、口座別ポートフォリオを決めるまで

次回予告

第9話は、「含み損のあとで気づいた、確定拠出年金(DC)という”見落としていた巨大資産”の存在」について書きます。

楽天証券側で含み損に揺れていた4月、実は確定拠出年金は数百万円単位の含み益を抱え続けていました。20年以上ほぼ放置で動かしていたDCが、自分の総資産の中でどんな位置づけだったのか。そして、4月の含み損の経験を経て、DCの方針をどう見直したのか。次回はその話です。

【免責事項】
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。

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