サイドFIREへの軌跡 第9話|知識を、夫婦の戦略に変えた日

こんにちは、飛雄です。

ここまでの話を、簡単に振り返らせてください。

  • 第7話で、口座別のポートフォリオを確定させました
  • 第8話で、初めての含み損とぶつかり、妻・仁花の一言に救われました
  • 2025年4月、トランプショックで証券口座はほぼ全面赤字に

第8話 初めての含み損と向き合った記録

証券口座が真っ赤に染まる日々の裏側で、僕は一つの事実に気づいていました。
確定拠出年金(DC)だけは、含み益を保ち続けていたこと。

この回は、暴落を経験して改めて感じた「含み益バリア」の正体と、それまでに学んだ知識を”夫婦の戦略”として1枚のスライドに落とし込んだ記録です。

目次

含み益バリアが教えてくれたこと

第8話で書いた4月の暴落から、少しずつ相場が戻り始めた頃のことだ。

証券口座の赤が薄くなっていくのを眺めながら、ふと、暴落の渦中で自分を支えていたものは何だったのかを考えていた。

積立を止めなかったこと。仁花の一言。名著の読み返し。
——それだけじゃない。もう一つ、あった。

暴落のさなか、楽天証券アプリを閉じて、企業型DCの管理画面を開いた瞬間のことを思い出す。
証券口座はどこもかしこも赤だったのに、DCの画面だけは黒字を保っていた。

評価額は急落していた。それは間違いない。
でも、2008年の制度導入以来、16年以上にわたって毎月コツコツ積み上げてきた時間が、まだ十分な含み益として残っていた。

特定口座の含み損と合わせても、全体ではまだプラス。

——含み益バリア。あの瞬間、僕の頭に浮かんだ言葉だ。

正直に言うと、「含み益かどうかに経済的な意味はない」と、僕は考えています。
その瞬間の評価額がすべてであって、購入単価を起点に「プラスかマイナスか」で判断すると、投資の意思決定がゆがむ。

たとえば、特定口座からNISAへ移管したとき。
移管した瞬間に取得価額がリセットされ、それまで積み上げた含み益が「見えなくなる」。
もし含み益ベースで判断する癖がついていたら、移管後の評価額だけを見て「全然増えてない」と焦るかもしれない。

特定口座からNISAへの移管判断はこちらで整理しています。

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インデックス投資においては、購入単価を意識しすぎることに合理的な意味はありません。
ただし、高配当株のポートフォリオを組む場合は話が少し変わります。購入時の金額に対する配当利回りで評価すること自体には意味がある。安い時期に仕込んだ株は、今の株価で買い直すよりも高い利回りを確保できているからです。ただしNISAに移管すると取得価額がリセットされ、移管時の株価ベースの利回りに意識が引っ張られる。「あれ、あまり利益が出なくなった?」と勘違いしないよう注意が必要です。

僕のようにインデックス投資で資産全体を積み上げている場合は、絶対額で評価するのが王道だ。

——そう、頭ではわかっている。

でも、4月のあの朝。
DCの画面を開いて、含み益が残っていることを確認した瞬間の安堵感は、嘘がつけないほど大きかった。

「含み益に意味はない」と言い切れる自分と、
「含み益が残っていてよかった」と心底ほっとしている自分が、
同時にいた。

行動経済学で言えば、アンカリング効果が働いている。
ただし、ここで厄介なのは「錨」の置き場所だ。

もし値上がりした最高値を錨にしてしまうと、少し下がっただけで「損した」と感じる。
別に元本割れしていないのに、最高値から下がったというだけで判断がゆがむ。

それよりは、元本——自分が実際に拠出した金額——を錨にするほうが、まだマシだ。
少なくとも「プラスかマイナスか」は事実に基づいている。

僕自身の価値基準は、あくまでも「現在の評価額」だ。元本に対してプラスかどうかではなく、今この瞬間に資産がいくらあるか。それだけで判断する。
でも人間の脳は、何かしらの錨を完全に手放すようにできていない。
だからせめて、害の少ない錨を知っておく。それが僕なりの折り合いだった。

サンクコストにも似ている。
「ここまで積み上げてきたのだから」という感覚が、含み益バリアの正体の一部だ。
本来、過去の投入コストは将来の意思決定に影響させるべきではない。
でも、16年間の積立履歴を見ると、「この時間を無駄にしたくない」という感情が、静かに判断を支えてくれる。

👉 合理と感情は、同居していい。

「含み益に意味はない」は合理の話。
「含み益があると安心する」は感情の話。
矛盾ではなく、両方が同時に存在することを認める。

大事なのは、感情に流されて売買判断を変えないこと。
安心感を”知っている”ことと、安心感に”従う”ことは、まったく別の行為だ。

4月の経験で一つだけ行動を変えたことがある。
DCのスイッチングで外国株式に振り替えた分は、管理画面上ではスイッチング後の評価で表示される。
それだと「実質の元本」が見えにくくなる。

だから、自分のスプレッドシートに、外国株式単体の実質元本を記録する列を追加した。

DCの管理サイトを見ればトータルの元本は把握できる。やらなくてもいい作業だ。
でも、外国株式単体でも「いま含み益なのか含み損なのか」をすぐに確認できる状態にしておくことで、次の暴落時に余計な不安を抱えずに済む。

合理的に不要な安心材料を、あえて用意しておく。
それが、僕なりの「感情との付き合い方」だった。

学んだ知識を、夫婦の戦略に変える

ここまでの8話で、僕は色々なことを学んできました。
保険の見直し、証券会社の選び方、インデックス投資の原則、口座別ポートフォリオの設計、含み損との向き合い方——。

第7話で口座別ポートフォリオは確定させていました。NISAはS&P500、DCは外国株式(MSCIコクサイ)、特定口座はオルカン。

NISAとDCの優先順位の考え方はこちらで整理しています。

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残っていた問いは、「拠出額をどこまで上げるか」「出口をどう設計するか」。
この2つに答えを出すために、PowerPointでシミュレーションスライドを作りました。

マッチング拠出のシミュレーション

企業型DCには、会社が拠出する掛金に加えて、自分で上乗せできる「マッチング拠出」という仕組みがあります。

会社が毎月拠出してくれる掛金に加えて、自分で上限まで上乗せするかどうか。

「NISAの月30万円に比べたら、上乗せ分は小さい。意味があるのか?」

正直、最初はそう思いました。

でも、スライドに数字を落とし込んでみると、印象が変わりました。

マッチング拠出は全額が所得控除の対象になります。
拠出した瞬間に、所得税+住民税の分だけ確定した節税効果が年間数万円単位で生まれる。

15年間のシミュレーションを複数パターン回した結果、マッチング拠出ありと無しでは、運用益+節税の合計で約50万円の差が出ました。

毎月の上乗せ額は小さくても、15年で50万円の差になります。
掛金が出ていく瞬間に、確定した利益(税金の還付)が得られる構造だからです。

👉 「小さな上乗せ」の判断は、節税×年数の掛け算で見ないと見誤る。

マッチング拠出とiDeCoの制度比較はこちらで整理しています。

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2025年4月、マッチング拠出をMAXに設定しました。

妻のiDeCo——増額しない判断

仁花の側にも、判断すべきことがありました。

iDeCoの掛金は現在月23,000円。制度上の上限です。

複数パターンでシミュレーションを回した結論は、「現在の23,000円を継続するのが最もバランスが良い」でした。

iDeCoの掛金を増やせば節税額は増えます。ただし、運用年利が想定を上回った場合、受取時の課税で節税メリットが打ち消される可能性まであることがわかりました。増やしすぎると、出口で逆に損をするリスクがあります。

23,000円という現在の拠出額は、節税効果を確保しつつ、出口リスクを抑え、NISA枠(月10万円)への資金配分も維持できるバランスポイントでした。

退職金とDC受取りの最適化

スライドを作る中で、最も意外だった発見がこれでした。

僕の退職金は、退職所得控除を超える見込みです。
退職所得控除は勤続年数に応じて計算されますが、僕の場合、退職金とDC一時金を同じ年に受け取ると、控除枠を超えた部分に課税されてしまいます。

でも、DCの受取りを退職の翌年以降にずらすと、DCに対して別途の退職所得控除が適用されます。
具体的には、退職から1年空けてDCを受け取ることで、税負担を大幅に抑えられることがわかりました。

これは、スライドにシミュレーションを落とし込まなければ気づけませんでした。

口座別ポートフォリオを決めた第7話の時点では、「何を買うか」を考えていました。
でも「いつ・どう受け取るか」まで含めて設計しないと、出口で税金に削られます。

👉 入口の最適化だけでなく、出口の最適化まで設計して初めて戦略になる。

DC・iDeCoの受取り方で手取りがどう変わるかはこちらで詳しく整理しています。

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スライドは全部で15枚になりました。

僕と仁花、それぞれのNISA・DC(iDeCo)・特定口座の配分。
毎月の拠出額。
15年後・20年後のシミュレーション。
退職金との兼ね合い。

全部を1つのファイルに収めました。

ひとりの勉強が、ふたりの作戦になった

ここまでの知識は、全部、僕の頭の中にしかなかった。

仁花と一緒に本を読んできた。
第8話では、彼女が「もっと投資しとけばよかったよね」と言ってくれた。
同じ方向を向いていることは、わかっている。

でも、「僕たち夫婦として、具体的に毎月いくら、どこに、何年積むのか」——その全体像を、二人で見たことがなかった。

口頭では伝わらない。
数字で、見せなきゃいけない。

だからスライドを作った。そして、ある日の夜、仁花に見せた。

「これ、ちょっと見てほしいんだけど」

リビングのソファで、ノートPCの画面を二人で覗き込む。
仁花は最初、「え、こんなの作ったの?」と笑っていた。

1枚ずつ説明した。

僕の拠出額、仁花の拠出額。
マッチング拠出を上乗せする理由。
iDeCoを増やさない理由。
退職金を受け取るタイミング。

仁花は、途中で何度かうなずきながら、時々「これってつまり……」と自分の言葉で確認してきた。

全部のスライドを見終えた後、仁花はこう言った。

わかった。これでいこう。

短い言葉だった。
でも、この「わかった」には、第4話から一緒に積み上げてきたすべてが詰まっていた。

保険を解約する話をした夜の長い対話。
一緒に読んだ投資本。
含み損のさなかに「もっと投資しとけばよかったよね」と返してきた冷静さ。

もし仁花が投資に無関心なままだったら、このスライドは「僕が作った計画を見せるだけ」になっていたと思う。
でもそうはならなかった。
彼女が自分で本を読み、自分で相場を見て、自分の頭で「もっと投資しとけばよかった」と言えるようになっていたから、このスライドは「二人の作戦」になれた。

第1話で「我が家にはいくらある?」に答えられなかった夜から、ここまで来た。

「知らない」ことに気づいたから、家計を見える化した。
見える化したことで、保険の無駄に気づいた。
保険を見直したことで、投資に回せるお金が生まれた。
投資を始めたことで、暴落を経験した。
暴落を経験したことで、仁花の強さを知った。

そして今回、学んだ知識をスライドに落とし込んで共有したことで、「僕が勉強して、仁花に説明する」という関係から、「二人で数字を見て、二人で決める」という関係に変わった。

👉 知識は、自分たち専用の戦略に落とし込んで初めて力になる。

汎用の制度解説では、自分の世帯に最適な答えは出ない。
年収も、家族構成も、退職金の見込みも、リスク許容度も、全部違う。

だからこそ、自分の数字で、自分のシミュレーションを作る。
そしてそれを、一緒に歩む人と共有する。

僕たちのサイドFIREへの道のりは、まだ始まったばかりです。
でも、「二人の作戦」ができた今、少なくとも方角は見えている。

あとは、淡々と積み上げるだけだ。

【本記事の注記】

  • マッチング拠出の節税効果は所得税率・住民税率によって個人差があります。本記事の試算は筆者の税率に基づいたものです
  • 退職所得控除の計算・DC受取りタイミングの最適化は2025年時点の税制に基づいています。今後の制度改正で変わる可能性があります
  • 口座別ポートフォリオ(DC=外国株式、NISA=S&P500、特定=オルカン)の詳細は第7話を参照してください
  • 企業型DCで選択した外国株式ファンドはMSCIコクサイ連動型で、信託報酬は0.154%です。自分でネット証券で購入できる同種ファンドよりは高いものの、iDeCoを追加開設するよりも手数料含めたトータルコストで有利と判断しました

このシリーズで読める他のエピソード

← 前の話:第8話 初めての含み損と向き合った記録
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【免責事項】
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
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この記事を書いた人

40代から資産形成に本気で取組み
1年で純資産1000万円増を達成。
「今さら遅いかも…」
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データと実体験に基づく合理的な資産形成を発信しています。

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