「投資の3原則は?」と聞かれたら、なんと答えるでしょうか。
「長期・積立・分散」と答えた方は、ちゃんと勉強されている方だと思います。
金融庁のNISA特設サイトにも、政府広報にも、高校の金融教育の教材にも、そう書いてあります。
でも僕は、この言葉を見るたびにずっと違和感を持っていました。
僕が名著と呼ばれる本や、信頼できると判断した発信者から学んだ3原則は「長期・分散・低コスト」。
世間に流通している3原則とは、1語だけ違います。
「低コスト」が消えて、「積立」が入っている。
この記事でお伝えしたいのは、消えた「低コスト」こそが、3つの中で唯一、今日のあなたが未来の分まで確定できる原則だということです。
なぜ1語だけすり替わったのか。
すり替わった結果、何を見落とすことになるのか。
高校生向けの公式教材まで実際に確認した結果と合わせて、順番に整理していきます。
- 名著の3原則と世間の3原則は、1語だけ違う
- 高校の金融教育教材・全114ページに「コスト」が何回出てくるか
- なぜ「低コスト」だけが原則の席から消えたのか(僕の考え)
- 明日1分でできる、信託報酬の確認と判断の目安
投資の3原則は「長期・分散・低コスト」です
まず、僕の考える正解から言います。
👉 投資の3原則は「長期・分散・低コスト」です。
これは僕のオリジナルではありません。
『ウォール街のランダム・ウォーカー』『敗者のゲーム』『インデックス投資は勝者のゲーム』といった、数十年読み継がれてきた名著が繰り返し説いてきた原則です。
日本では、山崎元さんが一貫してこの3つを掲げていました。
「長期、分散、低コストで投資しましょう」という言葉を、著書でも記事でも何度も残しています。
なぜ「低コスト」が3原則に入るのか
理由はシンプルで、3つの中で唯一、買う前に結果を確定できるからです。
もちろん、長期も分散も自分で選べます。
ただし長期は、これから何十年、その時々の自分が持ち続けてはじめて完成する原則です。
暴落の日の自分も含めて。
分散も、今はファンド選びでいくらでも実現できる時代です。
それでも、分散した先の市場がどう動くかまでは選べません。
でもコストだけは違います。
信託報酬年0.1%のファンドを選べば0.1%、年1.5%のファンドを選べば1.5%と、買う前に自分で確定できるんです。
未来の何十年分を、今日の自分が決められる。
3原則の中で、これができるのはコストだけです。
しかも効き方が残酷なほど確実です。
リターンは年によってプラスにもマイナスにも振れますが、コストは相場が良くても悪くても、毎年必ず同じ率で引かれ続けます。
だから名著は、コストを原則の1つに数えてきたわけです。
なお「分散」については、あれこれ買い足すことではありません。
市場平均と言える、十分に分散が効いたインデックスファンドなら、1本の中で既に分散は完成しています。

公的機関では「長期・積立・分散」になっている
ところが、日本の公的機関の発信を見ると、3原則の顔ぶれが変わります。
金融庁のNISA特設サイト「資産形成の基本」の柱は「長期・積立・分散投資」。
政府広報オンラインのNISA解説も、まとめは「『長期・積立・分散』『非課税』のメリット」という書き方です。
高校の教材を実際に確認してみた
2022年から高校で金融教育が必修になりました。
どんな内容を教えているのか気になり、金融庁が公開している指導教材「高校生のための金融リテラシー講座」を実際に確認すると——資産形成の章にはこう書かれていました。
キーワードは、「長期」「積立」「分散」投資。そして、「非課税制度」です
そして全114ページを通して確認した結果がこちらです(2024年5月改訂の新NISA対応版・2026年8月時点)。
- 「コスト」という単語:0回
- 「信託報酬」:0回
- 「手数料」:4回。ただしすべてクレジットカードの金利の話で、投資の章には1回も出てきません
投資信託を紹介するスライドはあります。
でもそこで語られるのは収益性と安全性だけで、「商品によってコストが何倍も違う」という、名著が最重要と位置づけた視点だけがすっぽり抜けています。
新NISA対応で改訂する機会があってもなお、入らなかった。
念のため書いておくと、政府広報の解説にも「リスクや手数料などのコストを十分に理解した上で」という注意書きは1文あります。
つまり「コスト」という概念を国が隠しているわけではありません。
ただ、原則という一番目立つ席には決して座らせてもらえないんです。
👉 名著の「低コスト」が、公的機関では「積立」に置き換わっている。これが違和感の正体です。

積立は悪くない。ただし「原則」ではない
誤解しないでほしいのですが、「積立をやめろ」という話では全くありません。
僕自身、毎月給料から積み立てています。
給料で暮らす会社員にとって、積立はもっとも現実的で続けやすい買い方です。
でも、積立が「原則」かというと違います。
積立は「結果」にすぎない
投資の原則をさかのぼると、「できるだけ早く、できるだけ長く市場に資金を晒す」に行き着きます。
これは原則の1つ目「長期」そのものです。
給料は毎月入ってきます。
毎月新しく生まれる余剰資金を、その都度すぐ市場に晒す。
これを外から見ると「毎月の積立」に見えるだけなんです。
つまり積立は、給与所得者が「長期」の原則に従った時に結果としてそうなる買い方であって、独立した原則ではありません。
原則「長期」の中に、最初から含まれています。

「積立している」という安心感が、コストを見えなくする
では、積立が原則の席に座ると何が起きるか。
「毎月積み立てているから、自分は原則通りにやれている」という安心感が生まれます。
この安心感がくせ者です。
何を・どんなコストで積み立てているかを確認しなくても、原則を守れている気になれてしまう。
信託報酬年1.5%のアクティブファンドを毎月積み立てていても、「長期・積立・分散、全部やれてます」と言えてしまうんです。
👉 「長期・積立・分散」は、高コスト商品を積み立てていても満点が取れてしまう3原則です。
「長期・分散・低コスト」なら、そうはいきません。
低コストという原則がある限り、読者は必ず一度、自分の商品のコストと向き合うことになります。
なぜ「低コスト」だけが消えたのか(僕の考え)
ここからは、事実ではなく僕の考えです。
3つの原則のうち、「低コスト」だけが持つ特徴があります。
金融機関の収益と、真正面からぶつかることです。
「長期で持ちましょう」——売り手は困りません。
「分散しましょう」——困りません。
「積立しましょう」——毎月買ってくれるお客さんです。むしろ大歓迎です。
「低コストの商品を選びましょう」——これだけは、手数料で成り立つビジネスと正面衝突します。
だから、誰も傷つかない「積立」が原則の席に座り、「低コスト」が席を外れた。
僕はそう考えています。
一拍の「間」が語っていたもの
以前、ある経済ジャーナリストがネット番組で投資の原則について話す場面を見たことがあります。
「長期・分散・……積立、ですか」
その一拍の間と、少し苦そうな表情が今でも印象に残っています。
本当は別の言葉を言いたかったんじゃないか——もちろんこれは僕の勝手な解釈です。
でも、公の場で話す立場の人ほど3つ目の言葉を選びにくい、という構図があるとしたら。
その理由を、もう一段掘ってみる価値はあります。
国は金融機関に不利な教育を「積極的には」できない
日銀の資金循環統計(2026年3月末時点)を見ると、国債の保有者がわかります。
最大の保有者は日銀で約48%。
そして銀行等が約13%、保険・年金基金が約18%——民間の金融セクターが合わせて約3割を保有する、国にとっての大口の買い手です。
彼らがある程度儲かっていないと、今度は国の資金繰りが困る構図があります。
その相手の収益の急所である「コスト」を、国が教材の原則に掲げて真正面から突けるか。
僕は難しいと考えています。
これは「国が国民を騙している」という陰謀論ではありません。
政府にできることには、構造上の限界があるという、それだけの話です。
むしろ僕は、NISAやiDeCoという強力な非課税の器を用意してくれた時点で、国は十分すぎるほど頑張ってくれていると思っています。
「金融リテラシー教育は国の責務だ」と不満をぶつけるつもりもありません。
👉 国は器を用意してくれた。でも、その器に何を入れるかの一番大事な基準は、自分で取りに行くしかないんです。
そしてその役割を担えるのが、金融機関と利害関係のない名著であり、個人の発信だと僕は思っています。
明日やることは1つ。コストを「見る」だけです
ここまで読んだ方がやるべきことは、たった1つです。
自分が持っている(積み立てている)ファンドの信託報酬を、一度見る。
証券口座の保有商品一覧か、ファンド名で検索して交付目論見書を確認すれば1分で終わります。
判断の目安も書いておきます。
- 年0.1%前後まで:主要な低コストインデックスファンドの水準です。そのまま続けて問題ありません。確認はこれで終わりです
- 年0.5%を超えていたら:その商品を選んだ理由を自分で説明できるか、一度立ち止まる価値があります
- 年1%を超えていたら:30年単位では致命的な差になり得ます。同じ指数・同じ資産クラスの低コスト商品への乗り換えを検討する段階です

「たかが1%」と感じた方は、信託報酬では見えない実質コストの中身まで含めて、30年で100万円変わり得る話を別記事で試算しています。
→ 投資信託の隠れコストとは?信託報酬では見えない実質コストの中身と見方【30年で100万円違うことも】
すでにeMAXIS Slimなどの低コストインデックスを積み立てている方は、何も変える必要はありません。
今日から「長期・積立・分散をやっている」ではなく、「長期・分散・低コストを、積立という形でやっている」と言い直せば、それで完成です。
👉 長期と分散はもうできている人が大半です。抜けているのは、たった1分の「コストの確認」だけです。
まとめ:3原則は「長期・分散・低コスト」
最後に、この記事の要点です。
- 名著と山崎元さんが説いてきた投資の3原則は「長期・分散・低コスト」
- 公的機関の発信では「低コスト」が「積立」に置き換わっている。高校教材(全114ページ・2024年改訂版)に「コスト」という単語は1回も出てこない
- 積立は悪くない。ただし給与所得者が「長期」に従った結果であって、独立した原則ではない
- 「積立してるから大丈夫」という安心感は、高コスト商品でも満点が取れてしまう採点表になる
- 低コストだけが金融機関の収益と正面衝突する。だから公の原則から外れたのだと僕は考えている
- 国はNISA・iDeCoという器で十分頑張っている。器に入れる基準は自分で取りに行く
- 明日やることは1つ。保有ファンドの信託報酬を1分だけ見る
3原則のうち、「長期」はこれから何十年の自分が守り続けてはじめて完成します。
「分散」はファンドが実現してくれます。
そして「低コスト」だけは、今日のあなたが未来の分まで確定できます。
唯一の“前払いできる原則”を、世間の言い換えで手放すのはもったいない。
📚 「低コスト」が芯から腑に落ちる1冊
※ 下記リンクは成果報酬型広告です。遷移先はAmazon・楽天の公式サイトです。
「低コストが原則」という結論には、頷いてもらえたと思います。
ただ、これから何十年ブレない確信にするには、もう一段深い納得が要ります。
本書は、インデックスファンドの生みの親であるボーグル自身が、コストがリターンを削っていく仕組みをデータで徹底的に示す1冊です。読み終えると、「低コスト」が原則の席に座る理由が芯から腑に落ちます。
僕自身、低コストの重要性はこの本に叩き込まれました。
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
