先日、20年来の友人からLINEが来ました。
「SpaceX、IPO申し込んだわ」
僕は返しました。「NASDAQ100にも割と早く入るらしいよ」と。
すると彼は、それはもう知っている、と言う。狙いは上場後の値上がり、いわゆる初値どりでした。
そこで僕は、こう送りました。
「あぁ、スペースXに投資したいんじゃなくて、IPOで利益取りたいって話か。やめとけやめとけ。」
「そのために現金を拘束されるくらいなら、今すぐインデックスに入れちゃえ。」
これが、この記事で僕が言いたいことのほぼ全部です。
👉 この記事のゴールは「IPOをやるな」と説得することではありません。話題のIPOに惹かれたあなたが、「自分はいま、投資をしようとしているのか、それともギャンブルをしようとしているのか」を正しく見分けて持ち帰る——それだけです。
そして先に、いちばん実務的な結論を言っておきます。
いま話題のSpaceX・OpenAI・Anthropicの3社のうち、日本の個人投資家がいま実際に買えるのは、SpaceXだけです。残り2社は、そもそも買えません。
なぜそうなるのか。数字で順番に見ていきます。
いま、IPO市場で何が起きているのか(3社の現在地)
2026年、巨大テック3社のIPOが立て続けに話題になっています。ただ、3社の”立ち位置”はまったく違います。
SpaceX:すでに上場した(実績がある)
SpaceXは2026年6月、NASDAQに上場しました。ティッカーはSPCXです。
調達額は約750億ドルで、史上最大級のIPOになりました。
初日の値動きはこうでした。
- 公開価格(売り出し価格):135ドル
- 初値:150ドル(公開価格比 +11%)
- 初日終値:161ドル(公開価格比 +19%)
つまり、公開価格で買えた人は、初日の終わりには19%含み益が乗っていた計算になります。この「初日で+19%」が、後で大事になります。
Anthropic:上場の”予定”(手続きに入ったばかり)
Claudeを開発するAnthropicは、2026年6月1日に、SECへ機密扱いのS-1(上場申請書類)を提出しました。
直前には、Series Hで650億ドルを調達し、評価額は9,650億ドル。これはAI企業の非上場としては過去最高の水準です。
売上のランレート(年換算ペース)は470億ドルで、前年の100億ドルから急伸しています。
ただし、機密申請は「上場できる選択肢を持った」段階にすぎません。実際の上場は、早くて2026年の秋〜年末という観測ですが、時期は確定していません。
OpenAI:上場の”予定”(Anthropicを追って申請)
ChatGPTのOpenAIも、2026年6月8日に機密扱いのIPO申請を行いました。Anthropicを追いかけた形です。
評価額は直近で8,520億ドル。上場時には最大1兆ドルに達するという観測もあります。
一方で、足元は赤字です。月商は約20億ドルに達していますが、2026年だけで約140億ドルの赤字が見込まれています。IPOでは少なくとも600億ドルを調達する意向と報じられています。
3社を並べると、こうなります。
| 上場状況 | 評価額・規模(2026年6月時点) | |
|---|---|---|
| SpaceX | 上場済(NASDAQ・SPCX) | 調達 約750億ドル/史上最大級 |
| Anthropic | 機密申請(6/1) | 評価額 約9,650億ドル |
| OpenAI | 機密申請(6/8) | 評価額 約8,520億ドル(上場時 最大1兆ドル観測) |
数字の桁がどれも天文学的です。でも、「桁が大きい=買うべき」では、まったくありません。むしろ逆かもしれない、という話をしていきます。
そもそもIPO・初値とは何か
IPO(Initial Public Offering)は、それまで未上場だった企業が、株式を証券取引所に上場させ、誰でも市場で売買できるようにすることです。
このとき、上場前にあらかじめ決められる価格が公開価格、上場後に市場で最初についた価格が初値です。
注目企業のIPOでは、買いたい人が殺到するため、初値が公開価格を大きく上回ることがよくあります。SpaceXの「135ドル→150ドル」が、まさにこれです。
ここで、日本特有の仕組みに触れておきます。
SpaceXは米国企業ですが、POWL(Public Offering Without Listing)という枠組みを使い、東京証券取引所に上場することなく、日本の個人投資家へ株式を売り出しました。
この日本枠への需要が、すさまじいものでした。
- 日本での需要は 1兆円超
- 割り当て枠に対して、応募は 4倍超
- SpaceXは日本向けの売り出しを、当初の20億ドルから25億ドルへ25%増枠
最終的に、日本の投資家にはIPO全体の約3%(1,630万株・約22億ドル)が配分されました。
「アメリカの最先端企業の株が、日本にいながら買える」——この熱狂は、理解できます。だからこそ、立ち止まって見分ける必要があります。
日本の個人は、3社をどこまで買えるのか
熱狂の前に、まず「買えるのか、買えないのか」という事実を確定させます。ここが曖昧なまま話を進めるのは、フェアではないからです。
SpaceX:買える
SpaceXは上場済みなので、米国株として普通に買えます。
具体的には、楽天証券・SBI証券・マネックス証券・みずほ証券などが取り扱っています。楽天証券は円建てで買え、IPOの買付手数料は無料、上場初日から取引可能でした。
そして見逃せないのが、新NISAの対象だという点です。非課税で買える、という事実は、後述するリスクの話と切り離して受け止める必要があります。
Anthropic・OpenAI:買えない
一方、AI2社は、日本の個人投資家には、いまは買えません。
理由はシンプルで、まだ上場していないからです。米国のIPOでは、個人が上場前に株を買うことはほぼ不可能で、買えるのは「初値がついた後の市場で」だけです。
「未公開株の流通市場(セカンダリー)で買えるのでは?」と思うかもしれません。ForgeやEquityZenといったプラットフォームは存在します。しかし、
- 対象は原則として適格投資家に限られ、最低投資額は5〜10万ドル規模
- さらにAnthropicは2026年5月、Forgeを含む8つの仲介業者に対して「当社の承認なき株式の売買・移転は無効」と警告
つまり、一般の個人投資家にとっては、事実上ルートが閉じています。
整理すると、こうです。
| 日本の個人は買えるか | |
|---|---|
| SpaceX | 買える(米国株/楽天・SBI・マネックス等/新NISA対象) |
| Anthropic | 買えない(未上場/セカンダリーも適格投資家限定+無効警告) |
| OpenAI | 買えない(未上場) |
ここまでが「事実」です。ここから先が、「では、どうするか」という判断の話になります。
初値で売る=それは投資ではなく、ギャンブル
冒頭の友人の狙いは、SpaceXを「初値どり」することでした。公開価格で手に入れて、上がった初値で売る。SpaceXなら、初日で+19%です。
魅力的に見えます。でも、僕がLINEで「やめとけ」と返したのには、はっきりした理由があります。
初値どりは、その企業に投資しているのではなく、「初値が上がるか下がるか」に賭けているだけだからです。
SpaceXのように人気が殺到すれば上がります。でも、IPOが必ず初値で上がるわけではありません。公開価格を下回る「公募割れ」は、いくらでも起きています。
つまり初値どりは、
- 数ヶ月先のその企業の事業価値を見て買うのではなく、
- 上場直後の数日間の需給を当てにいく、
短期の値動き当てゲームです。これは投資ではなく、投機——もっと素朴な言葉でいえば、ギャンブルです。
→ 「下がったら買おう」と思った時点で、すでに投資はブレている(インデックス投資家が守るべきこと)
実は、僕にはこれを偉そうに言える資格はありません。同じ失敗を、自分でやっているからです。
20年前、まだ子どものいなかった僕は、テレビで見たデイトレーダーに憧れて、妻に頭を下げて家計から30万円を借り、自分の小遣い30万円と合わせた60万円を、初めての証券口座に入れました。
「これで自分も投資家だ」と思っていました。
結果は、数ヶ月で口座残高ゼロ。買えば下がり、損切りすれば反発する、という典型パターンを、教科書通りに踏み抜きました。
何年も経ってから、ようやく腹に落ちたことがあります。
あれは「投資」ではなく、「投機」だった。勝ち負け以前の、カテゴリ違いの行動だったんです。
だから友人のLINEを見たとき、僕は20年前の自分を見ているような気持ちになりました。「SpaceXに投資したい」のではなく「IPOで利益を取りたい」——それは、僕が60万円で学んだのと、同じカテゴリの話でした。
長期保有なら投資。でも、個別株のリスクは指数の比ではない
「初値で売らない。長期で持つつもりだ」——そう考える人もいるはずです。
その場合は、たしかに投資です。短期の需給ではなく、その企業の将来価値に賭けているからです。
ただし、ここで冷静に見ておくべきことがあります。個別株のリスク(値動きの振れ幅)は、インデックスとは比べものにならないほど大きい、という事実です。
具体的に、3社の中身を見てみます。
SpaceXは、Starlink”一本足”
SpaceXのIPO申請書類を見ると、利益の構造がはっきり書かれています。
- Starlink(衛星通信):売上の約61%(直近四半期は69%)を占め、唯一の黒字部門(営業利益 約44.2億ドル)
- ロケット打ち上げ部門:約6.57億ドルの赤字
- AI部門:約63.5億ドルの赤字
夢のある会社です。でも数字で見ると、いまSpaceXを支えているのは事実上Starlink一本です。そこに何か起きれば、株価は大きく揺れます。
投資先は1つの企業というより、「イーロン・マスク氏の夢」と言ってもいいでしょう。
AI2社は、そもそも赤字で、競争のただ中にいる
OpenAIは月商20億ドルに達してなお、2026年だけで140億ドルの赤字見込み。Anthropicも急成長の途上です。
そして、いまAI業界で起きていることのスピードが、そのまま「読めなさ=リスク」になります。これは他人事ではなく、僕自身がAIを毎日仕事で使い倒している当事者として、肌で感じていることです。
ここで、最近の2つの出来事を挙げます。
リスクの正体①:規制ショックで、最強モデルが”3日”で消えた
2026年6月、AnthropicはClaudeの新モデル「Fable 5」を公開しました。従来のOpus級を超える、”Mythos-class”と呼ぶ新ティアです。
ところが、公開からわずか3日後の6月12日、米政府から輸出管理上の指令が下りました。内容は、外国籍ユーザー全員(米国内にいる外国籍の社員すら含む)のアクセス禁止。
選択的に守ることが不可能だったため、AnthropicはFable 5を全世界で停止しました。理由は、このモデルがソフトウェアの脆弱性を見つける能力が高く、サイバー攻撃に悪用されるリスクがある、というものでした。
外国籍ユーザーのみ停止を指示って「それはないだろ」と思いましたが、ここで大事なのは、これは僕の影響の輪の外の出来事だ、ということです。
騒いでも何も変わりません。Opusまで使えなくなったわけではないので、僕は自分にできることに集中するだけです。
ここで一つ、僕が深く共感している考え方があります。
AIが「いる・いらない」を議論するのは、もうやめたほうがいい。なぜなら、AIはもう無くならないのだから。
スマートフォンと同じです。
本当に画期的な発明には、不可逆性があります。
人間は、便利さを一度知ってしまえば、もう後には戻れません。
だから、AIという技術そのものが普及し、進化し続けることに、僕は迷いがありません。
問題は、その先です。
最強と言われたモデルですら、規制ひとつで3日で止まる。これが、個別企業を持つということの現実です。インデックスなら、1社がつまずいても全体は揺らぎません。でも個別株は、その1社の事情を、株価でまるごと引き受けることになります。
リスクの正体②:「言い値で売れる時代」が終わりつつある
もう一つは、もっと地味で、しかし本質的な変化です。
AI企業は長らく、最新モデルを”言い値”で売ってきました。2025年は、企業が「コスト度外視でとにかくAIを導入する」モードで、価格への感度はほとんどありませんでした。
しかし2026年に入り、潮目が変わってきています。
- 多くの企業が契約の更新サイクルに入り、「払った額に見合う価値があるか」を厳しく精査し始めた
- 推論コスト(AIを動かすコスト)は年に約10倍のペースで低下(GPT-4級の処理が、2023年の100万トークンあたり30ドルから、いまは1ドル未満へ)
- AI製品の粗利率は約52%で、従来型SaaSより大幅に低い
そして2026年6月11日には、OpenAIが競争を背景に値下げを検討していると報じられました。まず動くのは法人・API向けの価格で、月20ドルのChatGPT Plus自体ではない、という但し書きは付きますが、流れははっきりしています。
価格の決定権が、売り手から買い手(顧客・市場)へ、少しずつ移りつつあるということです。
ここから見えてくるのは、こういう構図です。
AIが使われ続け、進化し続けることは、ほぼ100%確実。でも、そのAIが”どの会社のもの”になるかは、まったく分からない。OpenAIもAnthropicも勝ち残ろうと必死ですが、勝者を決めるのは、結局のところ消費者であり、市場です。
だから僕は、3社が相次いで上場(申請)に動いた理由を、こう見ています。
「AIへの追い風が永遠ではないから急いだ」のではありません。AIの未来は確実です。けれど、どの企業が勝つかが不確実だからこそ、評価が最高潮の”今”が、借金以外(=株式)での資金調達のベストタイミングだと判断された——僕にはそう読めます。
これは断定ではなく、僕の見立てです。でも、もしこの読みが当たっているなら、それはそのまま「個別株を買う側」のリスクの裏返しです。最高評価のいま売り出される株を、最高評価のいま個人が買う、ということなのですから。
じゃあ、どうするか:指数が、勝者を”選別して”取り込んでくれる
ここまで読むと、「AIには未来がある。でも個別はリスクが大きい。じゃあ、どうすればいいんだ」と思うはずです。
答えは、拍子抜けするほどシンプルです。指数(インデックス)で持てばいい。
実はこの3社の名前は、別の記事でも登場しました。NASDAQ100が2026年にルールを変え、SpaceXやOpenAIのような巨大企業を、これまでより早く指数に取り込めるようにした、という話です。
一方、S&P500は逆の判断をしました。上場1年・直近の黒字といった原則を曲げず、こうした企業を早期には入れないことを選びました。
この対比が、答えそのものになっています。
- NASDAQ100:成長を早く取りに行く。実績が浅くても、有望なら入れる
- S&P500:実績を確かめてから入れる。原則を曲げない
→ NASDAQ100が2026年にルールを変え、S&P500が真逆の判断を下した話はこちらで詳しく
つまり、僕たちが個別株で必死に「どの会社が勝つか」を当てにいかなくても、指数のほうが、ルールに従って、勝ち残った企業を自動で選別し、取り込んでくれるのです。SpaceXのような企業も、いずれNASDAQ100経由で、間接的に持つことになります。
僕自身は、NASDAQ100をポートフォリオの主力にはしていません。持っているのは、リスクを取れる口座だけです。価値が半分になる覚悟をしたうえで、攻めの役割として持っています。
→ 口座の優遇度合いで、取るリスクを変える設計についてはこちらに書きました
だからこそ、「未上場・赤字の巨大企業が、指数に早く入ってくること」を、僕は歓迎できます。半減覚悟の、主力でない、攻めの枠だからです。
これは、主力資金でIPOの初値どりをすることとは、まったく次元の違う話です。
冒頭の友人へのLINE——「そのために現金を拘束されるくらいなら、今すぐインデックスに入れちゃえ」——は、ここに繋がっています。IPOの抽選や初値を待って現金を遊ばせるくらいなら、その瞬間からインデックスで市場に居続けるほうが、よほど合理的だと僕は考えています。
まとめ:問うべきは「上がるか」ではなく「自分は今、何をしようとしているのか」
話題のIPOを前にしたとき、確認すべきことは一つです。
自分はいま、投資をしようとしているのか。それとも、投機(ギャンブル)をしようとしているのか。
- 初値で売るつもりなら、それは投資ではなく投機。20年前の僕が60万円で学んだのと、同じカテゴリの行動です
- 長期で持つつもりなら、それは投資。ただし個別株のリスクは、インデックスの比ではありません。Starlink一本足のSpaceX、赤字のAI2社、規制で3日で止まるモデル、顧客側へ移る価格決定権——これらの振れ幅を、株価でまるごと引き受けることになります
- AIの未来を信じているだけなら、個別企業を当てにいく必要はありません。指数が、勝者を選別して取り込んでくれます
SpaceX・OpenAI・Anthropic。名前は派手で、桁は天文学的です。
でも、桁の大きさは「買うべき理由」にはなりません。
熱狂しているときほど、立ち止まって、自分の行動の”カテゴリ”を確かめる。それが、20年前に60万円を溶かした僕からの、たった一つのお願いです。
指数で持つと決めたら、次は「どの指数か」です。迷ったら、いちばんしっくりくる入り口から始めてください。
▼ まずは全世界に丸ごと、なら

▼ 米国の中心に、なら

▼ ハイテクで攻める枠として、なら

📚 僕の判断を支えた1冊
※ 下記リンクは成果報酬型広告です。遷移先はAmazon・楽天の公式サイトです。
「どの個別企業が勝つかは事前に当てられない」——半世紀読み継がれるこの古典が、”会社”でなく”指数”を持つ理由を、データで徹底的に裏打ちしてくれます。20年前に60万円を溶かした僕が、もっと早く読んでおきたかった1冊です。
関連リンク【PR】
インデックスで市場に居続けると決めたら、次に要るのは「続けられる器」です。手数料が安く、楽天ポイントで積立も回せる楽天証券は、最初の1口座にも向いています。
※ 下記リンクは成果報酬型広告です。遷移先は楽天証券・楽天カードの公式サイトです。
楽天証券で口座を開く(無料)
新NISAのつみたて投資枠・成長投資枠に対応。米国株・投資信託の取扱いが広く、はじめての1口座にも向いています。
▶ 公式サイトで口座開設積立投資のカード決済でポイントが貯まります。
楽天カードを申し込む(無料)※広告
本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
