2027年から「こどもNISA(仮称)」が始まる予定です。0〜17歳の子ども名義で、年間60万円まで非課税で投資できる制度です。
子どもがいる家庭、これから生まれる家庭にとっては「教育資金を、この枠で準備しようか」と考えるきっかけになるはずです。
でも、ちょっと待ってください。
その教育資金、器は「子どものNISA枠」より「親自身のNISA枠」を先に使ったほうがいい——これが今日の僕の結論です。
なお、制度の細かいスペック(払い出しルール・非課税限度600万円の扱い・学資保険との比較)は、この記事では深追いしません。
制度そのものを先に知りたい方は、別記事に整理しています。
→ こどもNISA(仮称)の制度スペックと学資保険との比較はこちらで整理しています
この記事で扱うのは「制度をどう使うか」ではなく、そもそも子の枠を使うべきか、親の枠を優先すべきかという”器の選び方”です。
① 先に言うと、これは「正解」ではなく僕の考えです
最初に正直に言っておきます。
「親のNISA枠を優先すべき」は、誰にでも当てはまる合理解(=計算で一意に決まる答え)ではありません。僕個人の考えです。
なぜ言い切らないか。
条件次第では、子どものNISA枠を埋めるのが合理的な家庭も、ちゃんと存在するからです。
具体的にはこういう家庭です。
- 夫婦それぞれがNISAの年間投資枠(つみたて投資枠+成長投資枠で1人年360万円)を、毎年使い切っている
- それでもなお、非課税で運用に回したいお金が余っている
夫婦で年720万円。これを毎年埋め切ったうえで、さらに子ども名義の枠まで使う余力がある——そういう家庭なら、こどもNISAは「非課税の器をもう1つ増やせる」純粋なプラスです。
使わない手はありません。これは合理解です。
でも、考えてみてください。年720万円をフルで埋め続けられる家庭が、世の中にどれだけあるでしょうか。
僕も含めて、ほとんどの人はそこに届きません。親の枠すら埋め切れていないのが普通です。
だとしたら、議論はとてもシンプルになります。
👉 親の枠が埋まっていないなら、子の枠を考える前に、まず親の枠から。順番はこれだけです。
「合理解」と「僕の考え」をわざわざ分けたのには理由があります。
お金の判断で一番こわいのは、誰かの結論を「正解」だと思い込んで、自分の前提条件を確認しないまま真似することだからです。
あなたの家庭が年720万円を埋め切れているなら、この先の話は当てはまりません。そこだけは先に言っておきます。
② 親の枠なら、結局”使わずに済む”かもしれない
では、同じ教育資金を貯めるのに、なぜ僕は親の枠を勧めるのか。
理由は「老後を優先しろ」ではありません。もっと実利的な話で、親の枠のほうが圧倒的に「つぶしが効く」からです。
こどもNISAは、子ども名義の口座です。中で育ったお金は、基本的にその子のために使う前提のものになります。
用途が、生まれた瞬間にある程度固定されるわけです。
一方、親のNISAで貯めたお金には、名前が書いてありません。
「これは教育費」と心の中でラベルを貼っていても、実際にはただの親の資産です。だからこそ——
- 倹約や収入アップがうまくいって、教育費が別の口座で貯まってしまった
- 子どもが大学に進学しない道を選んだ
- 理系を想定して多めに貯めていたが、文系の国立に進んで思ったほどかからなかった
こんなふうに「想定が外れた」とき、親の枠なら何も問題が起きません。そのまま自分たちの老後資金として運用を続ければいいだけです。
教育費という当初の目的が消えても、お金は1ミリも無駄になりません。
これがもし子どもの枠だったら、「教育費として用意したのに使い道がなくなった」お金が、子ども名義で宙に浮きます。器を親側に移すこともできません。
それに——もっと根っこの話をすると、子どもが社会に出る前にまとまったお金を持つこと自体、一般論としてあまり良いことではないと僕は思っています。
僕自身、子どもにはお金そのものを与えるより、お金の育て方・付き合い方を教えたいと考えているからです。
極端な話ですが、子ども名義に大きな額が積み上がっていると、「このお金が手元に残るなら、大学に行くのをやめようか」——そんな発想すら芽生えかねません。
用意したはずの教育資金が、子どもの選択をかえってゆがめてしまっては、元も子もない。親の枠に置いておけば、こういう副作用とも無縁です。
👉 親の枠は「教育費にもなるし、ならなければ老後資金にもなる」二刀流。子の枠は、使い道が片方に寄る。
将来は誰にも読めません。読めないからこそ、用途を後から選べる器を優先する。
これが「親の枠が先」の本当の理由です。老後のためというより、「まだ何にでも化けられる状態」をキープしておく、という話です。
念のため補足すると、教育資金を目的にすること自体は、まったく問題ありません。目的は教育費でいい。
ただ、その器として最初に手を伸ばすのは親の枠、というだけです。
③ そもそも、教育費がいくらかかるか調べてから戦略を立てていますか
ここで一度立ち止まって、聞きたいことがあります。
子ども1人の教育費が実際いくらかかるか、ちゃんと数字を見たうえで戦略を立てていますか?
「なんとなく1,000万円くらい?」という肌感覚のまま、こどもNISAを使うかどうかで悩んでいる人が、たぶんいちばん多い。
でも金額を知らないまま器の議論をしても、答えは出ません。ざっくりした概算を置いておきます(あくまで目安です)。
幼稚園〜高校(子ども1人・15年間の学習費総額):塾や習い事も含む・文科省「令和5年度子供の学習費調査」ベース
| 進路パターン | 15年間の総額(概算) |
|---|---|
| すべて公立 | 約 614万円 |
| 幼稚園・高校は私立、小中は公立 | 約 838万円 |
| すべて私立 | 約 1,969万円 |
大学(子ども1人・4年間/医学部は6年):概算
| 進路 | 在学中の総額(概算) |
|---|---|
| 国立 | 約 243万円 |
| 私立・文系 | 約 410万円 |
| 私立・理系 | 約 540万円 |
| 私立・医学部(6年・最高峰) | 約 3,200万円(最安でも約1,900万円、最高は約4,700万円) |
幼稚園から大学卒業まで「すべて公立+国立」でも、ざっと850万〜900万円。私立中心なら2,000万円を軽く超え、理系・医学部まで視野に入れると、ケタが変わってきます。
しかも、教育費は世の中の物価以上に上がってきた歴史があります。
国立大学の授業料は、長期で見れば物価の上昇ペースを上回って上がり続けてきましたし、長く据え置かれていた標準額も、ここにきて東京大学などが値上げに動き始めました。
「自分のときと同じ感覚」で見積もると、たいてい足りません。
この数字を見て言いたいのは「だから今すぐ焦って積み立てろ」ではありません。むしろ逆です。
全部を投資で用意しようとしなくていい。教育費は、その時々の家計(毎月の給料・児童手当)からも払えますし、足りない分には後述の手段もあります。
ただ、規模感を知らないまま「こどもNISAを使うか」だけで悩むのは、地図を見ずにルートで悩むようなものです。
まず総額のオーダーを掴む。話はそこからです。
奨学金を「あるから大丈夫」の逃げ道にしない
「足りなければ奨学金がある」——これを準備しない理由にするのは、僕は反対です。
奨学金には、多くの人が見落としている怖さがあります。
代表的な貸与型(利子つきの第二種)は、借りたときではなく「卒業して返し始めるとき」の金利が適用される仕組みがあります。
つまり、いま金利が低く見えても、子どもが社会に出る十数年後の金利は誰にもわかりません。そして今は、長く続いた低金利から、金利が上がっていく局面に入っています。
奨学金は、社会に出たばかりの子ども自身が背負う借金です。
「あるから後でいい」と親が軽く考えていい話ではなく、本来は子どもと一緒に、金利まで含めて真剣に考えるべきテーマです。
だからこそ、親が先に準備しておく意味がある。借りずに済むなら、それに越したことはありません。
④ 親が経済的に自立していることが、子への最大の贈り物
少し角度を変えます。
教育資金の話をしていると、つい「子どものために、子どものために」と、意識が子ども側だけに向きがちです。
でも僕は、親自身がお金で困らないことこそ、子どもへの最大のプレゼントだと思っています。
考えてみてください。教育費を頑張って用意した結果、自分たちの老後資金が痩せてしまったら、どうなるか。
その子が社会に出たあと、今度は親の生活費や介護を子どもが背負うことになりかねません。
先回りして渡したつもりの教育費が、巡り巡って子どもの肩にのしかかる。これでは本末転倒です。
親のNISA枠を優先するというのは、つきつめれば「子どもに経済的にぶら下がらない親でいる」ための準備でもあります。
子の枠を埋めて親の備えが薄くなるより、親がしっかり自立しているほうが、長い目で見れば子どもはずっと楽になります。
教育費か、老後か。この2つは、本当は対立しません。
親が経済的に自立していることが、教育費の備えでもあり、老後の備えでもあり、そして子どもへの最良の贈り物でもある。だから器も、まず親の枠から、なのです。
⑤ それでも、こどもNISAを積極的に使う2つのケース
ここまで「まず親の枠」と言ってきましたが、こどもNISAそのものを否定したいわけではありません。むしろ、ハマる使い方が2つあります。
① 子どもへの金融教育の器として使う
これは金額の話ではなく、教育の話です。子ども名義の口座で、子ども自身と一緒に値動きを眺める。
「世界中の会社に少しずつ投資すると、長い時間をかけてこんなふうに育つんだよ」と、実物を見せながら教える。これは、机の上の勉強では絶対に得られない体験です。
お金を「与える」のではなく、お金の「育て方・付き合い方」を見せる。少額でも、子どもが投資という行為を自分ごととして体感できるなら、その器には十分な価値があります。
→ 子どもに投資より先に伝えたい「3つの力」はこちらで整理しています
② 親の年間枠を超えた、余剰資金の受け皿として使う
もう1つは、一時的にまとまったお金が入ったときです。たとえば——
- 保険を見直して解約し、まとまった解約返戻金が戻ってきた
- 賞与や臨時収入で、その年の親のNISA枠(夫婦で年720万円)を使い切ってもなお、余りが出た
こういうとき、非課税で運用できる枠が、親の分だけでは足りなくなることがあります。そこで初めて、子どもの枠が「あふれた分の受け皿」として効いてきます。
ポイントは順番です。①も②も、親の枠を優先したうえでの話だということ。
金融教育という明確な目的があるか、親の枠を超える余力があるか。このどちらかに当てはまるなら、こどもNISAは堂々と使えばいい。
⑥ まとめ:悩む時間を、倹約と収入アップに使おう
最後に、いちばん伝えたいことを。
こどもNISAを使うべきか、子の枠と親の枠どっちが得か——こういう問いに、何時間も悩む人がいます。
でも正直に言えば、そこで悩んでいる時間のリターンは、ほとんどゼロです。器をどちらにするかで生まれる差より、はるかに大きなレバーが、別のところにあるからです。
それは、倹約(固定費の見直し)と、収入アップ(自分への投資)です。
毎月の固定費を見直して入金力を1万円増やす。スキルを磨いて収入を上げる。こちらのほうが、子の枠か親の枠かを最適化するより、よほど大きく家計を動かします。
そしてその努力が実れば——教育費は気づけば別の場所で貯まっていて、親のNISAはそのまま老後資金として走り続ける。いちばん理想的な着地です。
→ 倹約と節約の違い、家計の見直しを固定費から始める理由はこちらで整理しています
②でも触れたとおり、僕は子どもにお金そのものを与えるより、魚の取り方を教えたいと思っています。
まとまった額を用意して渡すことより、お金との付き合い方——働いて稼ぎ、無駄を削り、コツコツ育てる後ろ姿を見せることのほうが、ずっと長く子どもの役に立つと信じています。
だから、こどもNISAの使い方で悩むエネルギーがあるなら、その時間を、自分自身に投資してください。
👉 器選びに悩む時間を、倹約と収入アップに回す。それが結局、子どもにとっても自分にとっても、一番のリターンになる。
最後に整理します。
- 親の枠が埋まっていないなら、教育資金でもまず親のNISA枠から(柔軟性が高く、使い道を後から選べる)
- ただし金融教育目的、または親の年間枠を超える余剰があるなら、こどもNISAを積極的に使う
- 高収入で夫婦の枠を埋め切れる家庭なら、子の枠も埋めるのが合理的——でも、それは稀
- 器選びに悩むより、倹約と収入アップに時間を使うほうが、家計へのインパクトはずっと大きい
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この記事の根っこにあるのは、経済評論家の山崎元さんが、亡くなる前に息子へ宛てて書いた一通の手紙です。遺したのはお金そのものではなく、お金とどう付き合い、どう自由に生きるかという「考え方」でした。僕が「枠選びで悩む前に、倹約と自己投資に労力を」と書いたのも、突き詰めれば同じことを伝えたかったからです。子どもに何を手渡すかを考えるとき、何度も読み返している1冊です。
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本記事は筆者の個人的な見解・実体験にもとづく情報提供を目的としており、投資・保険の勧誘を目的としたものではありません。投資にはリスクが伴います。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。特定の金融商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
